Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/846db5dbb891888a4fcc3b79fcecdd4023256b16
刻一刻と日本に新たな脅威が近づいている。インドで最初に見つかったとされる新型コロナウイルス変異株が、東京、大阪などでも確認された。すでに市中感染が始まったとみられるが、国際空港での水際対策は“ダダ漏れ”で、検査も追いつかない。コロナ対策の最前線で何が起きているのか。 【アンケート結果】テレビを見ていて信用できないと思う人1位は?
* * * 猛威を振るう新型コロナウイルス。インドで新たに発生したとみられるインド株の感染爆発により、同国内の死者は累計約30万人におよぶ。世界保健機関(WHO)によると、インド株の勢いは国境を越え、すでに世界40カ国以上に広がっているという。 新たな脅威が近づくなか、日本では東京五輪の開催時期が迫る。それまでにどんな対策が必要となるのか。筑波大学大学院の倉橋節也教授(社会シミュレーション学)がAI(人工知能)を使用して導いた試算によると、開会式のある7月23日までに東京都内の新規感染者数を最小限に抑えるには、1日あたりの感染者が都内で100人を切るまで緊急事態宣言を解除しないことが必要だという。倉橋教授は言う。 「AIの予測では、100人で解除しても、8月下旬には千人を超える感染者が出る。その後はワクチンの効果が出てくるので、10月以降はピークの波は小さくなります」 これだけでも五輪を開催していいか疑問だが、この試算は英国株が前提。インド株が入ってくれば、予測を超える感染拡大をもたらす恐れがある。 「もし、インド株が英国株より感染力が強く、日本国内で広がれば試算の前提が変わります。また、ワクチンの接種がこれ以上遅れるようなことがあれば、感染者数の抑制も後ろ倒しになるでしょう」 実際、日本のワクチン接種は先進7カ国(G7)で最も遅れており、今後の進展もまだ不透明だ。 となると、日本の最優先課題は変異株を国内に持ち込まないことだ。田村憲久厚生労働相も「国内に入らないような対応をしなければ」と、水際対策の強化を訴える。
日本の水際対策の仕組みはこうだ。5月21日現在、159カ国・地域からの外国人旅行者などが入国拒否の対象。このうちインド、パキスタン、ネパールなど6カ国からの外国人は、日本の在留資格を持っていても原則、入国拒否となっている。 どの国からでも日本人は再入国できるが、その場合、入国後の待機期間は14日間。その間、位置情報や健康状態を定期的に入国者健康確認センターに報告するのが基本だ。ただし、出国した国によって入国後の対応は三つに分かれる(22日現在)。 インドとその周辺国などインド株指定国のうち6カ国からの入国者は、国指定の宿泊施設で6日間待機する。今後、待機期間は10日間に延長される見込みだ。 その他のインド株指定国や英国型、ブラジル型などの変異株が流行している32カ国・地域からの再入国者は、宿泊施設での待機期間は3日。対象者は、検査ですべて陰性であれば、期間後に自宅などでの待機に移る。その他の国は、入国時の検査が陰性なら14日間の自主隔離が求められる。ベトナムやタイ、韓国など、これまで感染者数が少なかった国が該当する。 だが、現状には与党内から不満が噴出している。自民党関係者は言う。 「水際対策では、外国からの入国者に位置情報を知らせるアプリをスマートフォンに導入してもらい、健康状態を毎日メールで報告することになっている。これが機能していない」 どういうことなのか。 「厚労省によると、5月9日から15日の間に位置情報を送信しなかった人が1日あたり6644人いた。これは同期間に入国した2万2589人のうち約3割に相当します。健康状態の確認メールに返信しなかった人も5050人いました」(自民党関係者) 入国者と連絡が取れないのは「アプリにログインできない人や、メールを確認できていない人が多いと報告を受けている」(厚労省関係者)という。現在は、空港で一度ログインをしてから入国するなどシステムを改善していると説明する。 しかし、一度連絡が完全に取れなくなった人に、あらためて接触するのは困難だ。自民党幹部は「水際対策が水漏れし続けている」と憤る。
取材を進めると、もう一つの“欠陥”も浮かび上がってきた。インド以外の国からの入国者である。現在、入国時に6日間の待機が求められるのはインドや周辺の計6カ国だけ。インド株はすでに40カ国以上に広がっているにもかかわらずだ。17日にインドから帰国した日系企業で働く40代男性が言う。 「私が知る限り、インドからの帰国者は、位置情報確認アプリなどは空港で確実に導入しています。出国前72時間以内のPCR検査と入国後の検査、到着翌日から6日間のホテル待機を組み合わせた現在の対策は科学的に正しく、ほぼすべての感染者を検出できるはずです。水際対策を確実にするには、他国からの帰国者も隔離期間を延ばすべきではないでしょうか」 日本ではインドからの帰国者を批判する声もある。この男性は「厳しいルールを守って帰国しているので、偏見はなくなってほしい」と話す。 このことは19日の自民党外交部会でも問題になった。出席した自民党議員からは「タイやベトナムなど、最近になって感染拡大した国がある。そこからの帰国者のフォローができていない」と指摘があったという。 そもそも、インドの感染拡大は3月に始まっていた。にもかかわらず、帰国者を宿泊待機の対象にしたのは4月28日。この時も初動の遅れが批判されたが、今でも対応は後手に回っている。 本来なら、入国者全員をホテルなどで最低6日間隔離することが理想だ。だが、宿泊施設を増やせない事情もある。厚労省の担当者は言う。 「宿泊施設を増やすには、ホテルとの交渉のほかに周辺地域の住民の理解や施設内で働くスタッフの確保、検疫官の配置が必要です。また、待機日数を増やせば収容できる宿泊者の数が少なくなり、対応が難しい」 今後、インド株が日本に広がれば、東京五輪・パラリンピックの開催も危うくなる。大会関係者は、こう話す。 「関係者の間で、『中止になった時はどうするか』というプランが検討され始めています。インド株が国内で広がれば、そんな話が表に出てくるかもしれない」 “ダダ漏れ”を早く修繕しなければ、取り返しのつかないことになる。(本誌・西岡千史、亀井洋志) ※週刊朝日 2021年6月4日号
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