Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/9df27bad1178526f2d440e50990609c17945b891
東京のネパール人マフィアにハンマーで攻撃され、ベトナム人から「殺すぞ」と……。日本の裏社会に潜む外国人マフィアに接触し、その実態を取材したフリーライター、真樹哲也氏の著書「 ルポ外国人マフィア 勃興する新たな犯罪集団 」(彩図社)が話題だ。 【画像】筆者の質問にネパール人武闘派メンバーは怒り、金槌を振り下ろしたという 急拡大しているその凶悪な活動実態から、彼らがアウトローの世界に身を投じることになった日本社会の事情まで、外国人マフィアの深層を追ったノンフィクション作品から、一部を抜粋して転載する。(全2回の1回目/ #2 を読む) ◆◆◆
ロイヤル蒲田ボーイズメンバーの攻撃
これまで私は東京ブラザーズなどのメンバーを調査し接触してきた。しかし、警視庁が特に勢力を拡大するネパール人不良グループだと注視し、組織の全容解明に力を注いでいるのがロイヤル蒲田ボーイズである。 2019年2月にロイヤル蒲田ボーイズのメンバー5名は、東京都大田区蒲田に存在する飲食店内においてネパール国籍の被害者男性(当時21歳)ほか3名に対し、頭部等をビール瓶で殴打した上、その身体を殴った疑いで逮捕されている。それも単なる傷害罪だけでなく、逮捕罪名には「暴力行為等処罰に関する法律違反」も付いていた。 これは、団体または多勢による集団的な暴行、脅迫、器物損壊、強要などを特に重く処罰する日本の法律で、元々は1925年に皇室や私有財産制を否定する運動を取り締まることを目的として施行された「治安維持法」の翌年に制定された、共産主義革命運動の過激化を懸念したものであった。現在では、暴力団、右翼団体、左翼団体など反社会勢力を取り締まるための法律として機能している。つまり、警察はロイヤル蒲田ボーイズを完全な反社会勢力と位置付けて逮捕したということだ。 ロイヤル蒲田ボーイズが起こした事件の発生日時は2018年10月19日21時半頃だった。東京都大田区蒲田所在のネパール料理店“S”内において、ロイヤル蒲田ボーイズのメンバー8人で飲んでいた。ロイヤル蒲田ボーイズのメンバーが店内に流れているBGMを勝手に変えたことに、被害者となったネパール人留学生4名(当時21~26歳)が苦情を言った。 すると、ロイヤル蒲田ボーイズのメンバーがビール瓶を使って被害者1名に殴りかかり、頭部等をビール瓶で殴打した上、その身体に暴行を加えて全治2週間の後頭部挫創等の傷害を負わせたという。
事件現場となった蒲田の店を訪問
警視庁関係者はロイヤル蒲田ボーイズについて、こう語る。 「ロイヤル蒲田ボーイズの所属メンバーは120~130人と見ている。出稼ぎで来日した家族がいるのを理由に、“家族滞在”の在留資格を持って日本に暮らしているメンバーがほとんどだ。ネパールタウン化する蒲田在住のメンバーが多い。日本の生活に馴染めずに不良化したネパール人の若者によって、ロイヤル蒲田ボーイズが形成されていった。警察としては今後、勢力拡大をしていくと予想して全容解明に力を注いでいる。準暴力団化する可能性が高い」 警視庁が準暴力団指定を見越しているロイヤル蒲田ボーイズ。私はロイヤル蒲田ボーイズについて取材をするべく、事件現場ともなった蒲田のネパール料理店Sを訪問した。店内に入ると、カレーの匂いが漂っている。 20代だと思われる若いネパール人男性店員が出迎えてくれた。細身のイケメンでモデルのような容姿だ。テーブルに置かれたメニューを取ると、油でベトベトしている。私はいい加減、連日のネパール料理の食べ過ぎで苦痛を感じていた。 ネパール人男性店員が水を出してくれた。注文を聞かれる。私はネパールビールを頼んだ。店内に流れるネパール音楽を聴きながら、ネパールビールを飲む。ロイヤル蒲田ボーイズは、店内に流れているBGMを勝手に変えたことでトラブルを起こした。そのような小さな問題で、どうしてそこまで腹を立てたのだろうか。ビール瓶で頭を殴るというところが、日常的に喧嘩をしていることを感じさせる。 私はいつも通りの慣れた風で、途中でネパール人男性店員を呼んでククリラムを頼んだ。ネパール人男性店員は礼を言い、ククリラムを作りに行く。これを何度も繰り返す。その後が重要だ。酔っ払った振りをして様々な情報を聞き出すのである。
ネパール人男性店員の顔がひきつった
何杯目かのククリラムを持ってきてくれた時、私は尋ねた。キッチンにいる他のネパール人店員に聞かれないよう、離れた隅の席に私は座っていた。 「この店で去年、ロイヤル蒲田ボーイズというグループが喧嘩をして、今年に逮捕される事件がありませんでしたか? 私は警察と仲が良い」 ネパール人男性店員の顔がひきつった。 「そこにいた。暴れられて大変だった。店にも迷惑。もう、ここ来れない」 どうやらロイヤル蒲田ボーイズのメンバーはネパール料理店Sを出入り禁止になったようだ。だが、どうも私には嘘をついているように感じられた。 「お兄さんの名前は? もう、日本長い?」 困惑した表情をするネパール人男性店員。 「バハドゥール(仮名)です。22歳。日本に来て4年」 そう答えると、キッチンの方に戻っていってしまった。私は気付いていない振りをしていたが、キッチン中でバハドゥールは、他のネパール人店員と共に、私を睨み付けながら話をしていた。仕切り直すことにした私はククリラムを飲み終えて会計をする。レジで会計をするバハドゥールに、入店時に迎えてくれた笑顔は一切なかった。
「あなたのことは知ってる。警察か?」
2019年8月、私は暴力事件を起こした当事者であるロイヤル蒲田ボーイズのメンバーの1人、シヴァ(仮名)と、都内某所で会っていた。面会の経緯については支障があるためここでは伏せる。 私たち以外には誰もいない薄暗い店内。4人掛けのテーブル席で、シヴァは私に奥に座るように促した。私はシヴァと向き合うように座った。シヴァと一緒にいるのは若い美人のネパール人女性だった。私には分からない言葉でシヴァと会話をしている。 凶暴そうな顔と筋骨隆々の身体のシヴァはロイヤル蒲田ボーイズの武闘派メンバーである。私は警視庁関係者からシヴァの身柄が釈放となったと聞いていたが、会って話を聞かせてくれるとは思わなかった。 目の前にいるシヴァは、頭をビール瓶で殴打し逮捕されていた男だ。場合によっては同じことが起こるかもしれない。私は額から流れてきた汗をおしぼりで拭った。シヴァが携帯を出して私を撮影する仕草をした。携帯を見ながら、ニヤけた表情をするシヴァ。シャッター音はしなかったので撮影したか定かではないが、不愉快な気分になった。 薄暗い店内にはお香の匂いが漂い、ネパール音楽が大きな音で流れている。私は無言でじっとしていた。しばらくするとシヴァが携帯をテーブルに置き、私を凝視するように身を乗り出した。彫りの深い顔の眉間に深い溝が刻まれている。 「あなたのことは知ってる。ネパール料理店Sに来た。警察か?」
「日本人に手を出さないルールがある」
私のことを警察だと勘違いしているようだ。先程撮影した写真をネパール人店員、バハドゥールに送り、私のことを確認したのだろうか。 「警察ではありません。ライターです。本を書いてます」 私は正直に答えた。シヴァは一転、安心した表情をした。このことでシヴァが、警察をかなり警戒していることが垣間見れた。 「ロイヤル蒲田ボーイズについて知りたいです」 「少しだけ。警察は駄目だ。何もロイヤル蒲田ボーイズを分かっていない。ネパール人のグループには、日本人に手を出さないルールがある。みんな、日本で暮らすため、我慢している。日本人に悪いことはしない。約束する」 シヴァは熱の入った口調で私に話してくれた。確かに、シヴァが起こした事件も含めて、相次ぐネパール人不良グループの暴行事件は被害者が日本人ではなくネパール人だ。 「ロイヤル蒲田ボーイズのメンバーに、明確なリーダーやトップはいるのでしょうか?」 「ちゃんとしたグループじゃない、ロイヤル蒲田ボーイズ。ネパールの友達、フレンドのグループ。年は20歳とか多い。トップとかはない。強いのと、お金あるネパール人は偉い。メンバーは200人いる。もっと増える」
「ロイヤル蒲田ボーイズと東京ブラザーズは仲良い」
シヴァは真剣な表情で答えた。やはり、ロイヤル蒲田ボーイズは日本の暴力団や中国系マフィアの怒羅権とは異なり、きちんとした組織体系を持っていない。明確な上下関係や役職もなさそうである。警察が準暴力団指定を視野に入れているのは、予算対象として都合が良いのもあるのだろう。 「同じネパール人のグループの東京ブラザーズと関係はありますか? また、ネパールジャパンユースクラブについても知っていますか?」 私はさらに尋ねた。 「これで終わり。ロイヤル蒲田ボーイズと東京ブラザーズは仲良い。2つのグループに入ったりする人間もいる。ちゃんとしたグループじゃない。ネパールジャパンユースクラブは私たちの年上のグループ。私たちの親の年のネパール人がやっている」 ロイヤル蒲田ボーイズと東京ブラザーズは交流があり繋がっている。それも、両方に所属するメンバーもいるようである。ネパールジャパンユースクラブについては、シヴァの親世代の40代から50代ぐらいのメンバーで構成されたグループという。
私の顔のすぐ横の壁に、金槌を打ち突けた
もっと話を聞きたい。私は質問を続けた。 「ネパール料理店から売上を一部もらったり、薬物売買、ドラッグなどはやったりしませんか? 日本のヤクザと会うことはありますか?」 外国人マフィアの組織的な犯罪としてイメージの強い、みかじめ料徴収、薬物の密売などをしているのかが気になるところだ。私はネパール料理店Kに行き、薬物取引の場所となっている可能性が高いと見ている。また、そうだとしたら日本の暴力団と関係性を持っているのではないか。 「終わり」 シヴァはテーブルをバンッと叩いた。明らかに怒っている。私はシヴァの圧力を受け止められず、目線を外してしまった。シヴァはいきなり立ち上がる。私は身体を強張らせた。すると、シヴァは部屋の奥の見えない場所に入っていってしまった。 そのまま座っていると、再びシヴァが現れた。右手には金槌を持っている。ネパール人女性が悲鳴をあげながら抑えようとしたが、シヴァを止めることはできなかった。次の瞬間、私は立ち上がり逃げようとした。だが、シヴァの動きは予想以上に速かった。あっという間に私の目の前まで距離を詰めてきた。金槌を振りかぶる。 私の耳元で大きな音がした。目の前には激しい怒りを露わにした表情のシヴァがいた。シヴァは私の顔のすぐ横の壁に金槌を打ち突けたのだった。私は緊張と恐怖でシヴァの右腕を抑えられなかった。 「帰ってくれ。日本人には悪いことしない」
「日本人は殴ることしないから」
シヴァはあまりにも強烈な怒りで右腕が固まってしまったらしい。金槌を握り締めた右腕を、左腕で剥がすようにして引き離した。床に金槌を放り投げ捨てた。 私は身体の震えを隠しながら店から出た。暴力団や半グレなどのいろいろなアウトローに会ってトラブルに巻き込まれてきた私だが、ロイヤル蒲田ボーイズきっての武闘派、シヴァは想像以上の迫力と攻撃性を持ち合わせた男だった。私が日本人でなかったら、シヴァに頭を金槌で砕かれていたのかもしれない。 後日、私はネパール料理店Sのネパール人男性店員バハドゥールのもとを訪ねた。シヴァは私のことを分かっていた。バハドゥールに確認したからとしか考えられない。そうだとすればバハドゥールが、ロイヤル蒲田ボーイズのメンバーであることが濃厚となる。 「アハハハハ」 私の顔を見た途端に、バハドゥールは声を出して笑った。笑いごとではないと怒りたかったが、私は黙っていた。このことにより私の疑いは確信に変わった。バハドゥールがシヴァに私のことを話したのである。 「日本人は殴ることしないから大丈夫。いつまで我慢できるか分からないけど」 なぜか分からないが、気まずい空気ではなくなった。 【#2を読む】 「ヤクザの親分をナイジェリア人の客引きが殴って…」歌舞伎町の“都市伝説”を作った“半グレ”グループの凶暴性 へ続く
真樹 哲也/Webオリジナル(特集班)
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