2021年6月23日水曜日

中国が埋めるワクチン格差、アジアで影響力拡大

 Source:https://jp.wsj.com/articles/china-steps-into-covid-19-vaccine-void-in-asias-developing-nations-11623889864

中国製ワクチンは供給分が小規模でも、複数の国で接種の取り組みを支えてきた

プノンペンの国際空港に到着した中国製ワクチン(12日)

PHOTO: SOVANNARA/ZUMA PRESS

 カンボジアの首都プノンペンに週末、100万回分の中国製ワクチンが到着した。その様子をとらえた画像は、同国首相のフェイスブックページの目立つところに置かれた。

 似たような光景は、東南アジアや南アジア各国の首都でも見られる。先週にはマニラとバンコク、その前の週にはカトマンズ、そして先月下旬にはジャカルタと、新型コロナウイルスワクチンが相次ぎ到着している。

ワクチン接種会場に並ぶ人々(カトマンズ、8日)

PHOTO: PRAKASH MATHEMA/AGENCE FRANCE-PRESSE/GETTY IMAGES

 今年上半期にアジアの途上国で配布されたワクチンの中で、中国産(一部は無償提供で大部分は購入契約)は大きな存在感を発揮している。欧米諸国が自国民の接種を優先し、世界保健機関(WHO)主導のワクチン配布プログラム「コバックス」による供給が目標に届かない中で、数百万回分のワクチンがこれらの国に到着しているのだ。

 ワクチンの大部分を買い占めた先進国は、ここにきて途上国への支援を表明し始めた。先進7カ国(G7)は13日、向こう1年に少なくとも8億7000万回分のワクチンを提供すると確約した。だが、ここ半年に到着した中国製ワクチンは、たとえ1回当たりの供給分が小規模でも、複数の国でワクチン接種の取り組みを支えてきた。そして、中国政府にとっては、関係強化を進める好機となっている。

 インドネシアは中国の科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)製ワクチンに大きく依存しており、これまで受け取った9500万回分のうち89%を占める。カンボジアは主に中国製ワクチン2種類を投与することでアジア地域で接種率が上位に入っており、少なくとも一度はワクチンを接種した国民の割合は18%に達した。フィリピンは出足は鈍かったものの、今後はペースが加速する見通しだ。月内には約1000万回分が到着する予定で、その半分以上を中国製が占める。

 東南アジアの主要シンクタンク、インドネシア戦略国際問題研究所(CSIS​)のエバン・ラクスマナ上級研究員は「厳しい状況に置かれた際に中国は支援に乗り出したという印象を与えるのは確実だ」と指摘する。その上で、アジア地域の住民には「中国が迅速にロックダウン(都市封鎖)に踏みきり、事態を収拾させ、(他国に)ワクチンを提供した」と記憶されるとの見方を示す。

シノバック製のワクチンが用意されたバンコクの接種会場(14日)

PHOTO: SAKCHAI LALIT/ASSOCIATED PRESS

 中国製ワクチンはまた、インドで生産される英アストラゼネカ開発のワクチンに頼っていた南アジア諸国でも、空白を埋めるのに一役買っている。インドが深刻な感染状況に陥ったことで、同国からの供給が途絶えたためだ。

 ネパールでは、中国医薬品大手の国薬控股(シノファーム・グループ)が開発したワクチン180万回分を使って、60歳超の国民に接種を進めている。無償提供された同ワクチンは、人口3000万人の同国が必要とする水準を大きく下回るものの、少なくとも1つの年齢層の接種を進めることで短期的なギャップは埋められる。ネパール保健省の報道官、クリシュナ・ポーデル氏は「何もないよりはまし。われわれはそう考えている」と話した。

 スリランカはシノファームのワクチン1400万回分を購入することで合意。バングラデシュは同社から1500万回分を調達する方向で交渉している。

 ワクチン供給には積極的な外交攻勢も伴う。中国の王毅(ワン・イー)外相は1月、東南アジア諸国を訪問。3月下旬から4月初旬には、中国で地域4カ国の外相と1対1で会談した。先週には中国・重慶市で地域の全外相と会合を開催し、ワクチン問題を重要議題として扱った。王氏は4月下旬にも、ネパール、バングラデシュ、スリランカ、アフガニスタン、パキスタン各国の外相とビデオ会議を行っている。

 王氏は今月、インドネシア高官と行った会談で、一握りの先進国がワクチンを買い占めているが、中国は途上国と連携してワクチンを生産すると述べている。

 中国は近年、アジア地域で戦略的および経済的な影響力を強め、米国との競争を激化させた。だが同時に、南シナ海問題など、近隣諸国との対立も抱えている。シンガポールのISEASユソフ・イサーク研究所が2月に公表した地域の政策担当者や世論指導者1032人を対象とする調査によると、中国が同地域で最も影響力のある経済国だとの回答が75%余りに上った。一方、東南アジア諸国が米国か中国かいずれかの側につくよう迫られた場合、61.5%が米国を選ぶと回答した。

 中国は南アジアでも、支援や融資、インフラ投資などを通じて、インドと影響力を競い合っている。バングラデシュに無償提供ワクチンの第1弾が到着する数日前の5月半ば、中国大使は「日米豪印戦略対話(クアッド)」に協力しないよう同国に警告した。クアッドは地域における中国の影響力に対抗する目的があるとされる。

 だが、これに反発したバングラデシュのアブル・カラム・アブドゥル・モメン外相は「われわれは独立した主権国家で、外交政策は自らで決める」と、中国のけん制を退けた。

 世界有数のワクチン製造国であるインドは、中国のワクチン外交に対抗する上で大きな役割を果たすとみられていた。当初は6600万回以上のワクチンを他国に供給するなど成功していたが、自国の感染状況が深刻化したことで供給が途絶えた。インドは年内にも、ワクチン輸出を再開する見通しだ。

 ただ、一部では中国産ワクチンの有効性を巡り、議論を呼んでいる。シノバック製ワクチンの治験結果には大きな差が出ており、ブラジルでは症状の予防効果が50.38%となった。これはWHOが基準とする50%をなんとか上回る水準だ。一方、インドネシアの治験では、65.3%の予防効果が示された。

 シノファームはコロナ症状の予防で79%の効果があると主張している。だが、アラブ首長国連邦(UAE)は、同社ワクチン接種後に十分な抗体が生成されていないケースが見られるとの医師らの報告を受けて、住民の一部に3回目のブースター(追加免疫)接種を行っている。シンガポールは中国製ワクチンを承認していない。中国に対して懐疑的な見方が根強いベトナムも、中国製ワクチンの接種は行っていない。

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