Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/d5f7ec181fd3211371b0e2b1f571584e67745bf5
【BOOK】 8000メートル超のヒマラヤの高山では一瞬の判断ミスが死につながってしまう。世界的なアルピニスト、野口健さんも常にその恐怖と闘い続けてきた。それでも登り続けるのは何のためか? とかく安定志向になりがちなイマドキの若者たちへ贈るエールの1冊。 文・梓勇生/写真・飯田英男 --生か死か、進むか撤退か、山でのジャッジの難しさが書かれている 「年を重ねて自分の命の使い方を考えるようになりましたね。若いときなら自分の夢のために命をかけることに疑問など感じなかったのですが、今は少し意識が変わったと思う。1回しか使えない命を『自分のため』に使っていいのか? その死に方は正しいのか? という問いです」 --多くの登山家が山で命を落とした。野口さんの知人・友人も 「植村直己さんも、谷口けいちゃんも、栗城史多(くりき・のぶかず)君も亡くなった。ただ、そこが、自分が絶対的に信じたものから与えられた死に場だと考えれば、登山家が山で死ぬことは決して不幸なことではないと思う。でも僕は遭難して意識が薄れてゆくときに『これで良かった』とは思えない気がする。他にもやらねばならない仕事がある。山で死んだら、その役割も果たせないって思うのです」 --それでも、山に登り続けたい 「そうですね。ケガで一時、山から離れたときに講演で、挑戦について語っている自分がイヤになりました。自分ができていないことなのに“演じている”って。そうするとどんどんモチベーションが下がって、精神的にもつらくなった。つまり挑戦し、山へ登り続けることは、他の仕事を行う上での活力源にもなっていたのです」 --現代の日本の若者は冒険しない 「1980年代、エベレスト街道には日本人の若者があふれていた。今は中高年ばかりです。(登山を支援する)シェルパが僕に聞くんです。『日本から若者がいなくなったの?』って。留学生も青年海外協力隊の参加者も減っている。こうした若者の姿に今の日本という国の勢いの無さを感じてしまいます」 --最近、ニュージーランドの高校に留学中の長女の絵子(えこ)さんと一緒の活動が多い 「まぁ、コロナ禍でもう1年半も会えていませんけどね。海外にいるので、日本から出張できないテレビのクルーの代わりに、紀行番組のリポーターをやったりしています。コロナによるアジア人差別で、いきなり体当たりをされたり、『コロナ』って罵声を浴びせられたりしているようですが、中学から海外留学に出ている娘は結構平気らしい」 --愛らしいルックス。絵子さんに芸能活動の誘いも多いのでは 「芸能事務所からのオファーは結構ありますよ。まだ高校生で海外に居るし、今は全部断っていますけどね。高校を卒業した後は、本人の意志次第です。どうやら娘は写真の仕事に興味があるようですが…」 --コロナ禍の1年半。仕事に影響は 「海外には行けないし、国内での清掃活動などのイベントも人数を減らしたり、中止になったり…半分くらいに減ったでしょうか。取材もリモートが増えました。3年前に事務所を山梨県内へ移した当初、周りはみんな反対したのに、(コロナ禍で)今じゃ隣に大手芸能事務所まで引っ越してきた。先を読んでいたでしょ(苦笑)」 --東京五輪開催についての考えは 「首相はまず、国民にちゃんと聞くべきですよ。『これこれのリスクがあります。これくらいの死者も出るでしょう。それでも開催しますか?』って。前回(1964年)の五輪のときもリスクはあったけど、たぶん国民の多くは『それでもやりたかった』のだと思う。何もかも、あやふやなままに開催に突っ込んでゆくのが一番ダメですよ。アスリートだってやりにくいでしょう」 ■『登り続ける、ということ。』(学研プラス1540円・税込) アルピニストとして世界で活躍している野口さんは、エベレストで雪崩に巻き込まれたり、何度も生命を失いかけた。それでも冒険を止めないのは、チャレンジする気持ちが次の仕事へのエネルギーになっているからだ-。ハーフの外見でいじめられた少年時代から登山でのギリギリの体験。ネパールで続ける支援活動への思いなど、子供たちに向けて書かれた本だが、大人が読んでも感じ入るところが多い。 ■野口健(のぐち・けん) アルピニスト。1973年米ボストン生まれ。47歳。亜細亜大卒。父は元外交官でイエメン大使など歴任。母はエジプト人。25歳で当時の世界記録となる7大陸最高峰最年少登頂を達成し、注目を集める。登山だけでなく、エベレストや富士山での清掃登山、ネパールでの学校建設、植林活動など幅広いジャンルで活躍している。最近は、高校生の長女の絵子さん(17)と一緒の活動も多い。
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