Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/a5e6749892a14bcf37307102037def6e9f7d0cf9
「国際教育」をセールスポイントにしている私立中高一貫校は多い。特に英語好き女子には魅力的に映る。研修旅行や短期留学といった海外体験はその中核的なイベントとなるのだが、新型コロナ禍で海外渡航が不可能となり、想定通り実施できない事態に陥っている。いま、国際教育はどうなっているのか。首都圏121校から寄せられたアンケート結果なども参考に、その現状を見ていこう。(ダイヤモンド社教育情報) 【この記事の画像を見る】 ● 新型コロナに直撃された海外渡航プログラム 時差が少なく治安もいい南半球の英語圏、ニュージーランドやオーストラリアは、私立中高一貫生の国際交流プログラムで人気のデスティネーションだ。春先にオークランド国際空港で、首都圏を代表する3つの難関・上位校の生徒グループと出くわしたことがある。 中高一貫校には高校受験がない。中だるみの時期となる中3から高1にかけて、現地のホストファミリー宅にお世話になりながら、数週間、現地の学校にも通って同世代の生徒と交流を持つ在外研修プログラムが多くの学校で採用されている。大手旅行会社の仕切りで、ある程度パッケージ化されており、送り出す学校側としても安心感がある。 ところが2020年の春先からの新型コロナウイルスのまん延で、こうした海外渡航を伴うものはことごとく中止もしくは延期、あるいはオンライン利用や国内での新たなプログラムに振り替えられてしまった。 「現地に行くこと」を国際教育の中核に据え、それで受験生を引きつけてきた学校にとっては一大事である。そこで、森上教育研究所の協力を得て緊急アンケートを実施、121校から回答が寄せられた。うち男子15校、女子34校で、残りは共学校である。このアンケート結果も交えて、各校の置かれた現状を見ていこう。 まずはおカネの問題からである。希望者参加型なら一時金の徴収で済ませる場合もあるようだが、全員参加ともなると、修学旅行のように積み立てることが一般的だ。その費用だが、南半球なら1週間程度で30万円が相場だろうか。学校によっては複数回実施したり、半年や1年間の短期留学も用意されており、こちらはケタが一つ上がる。 まず、121校中65校は積立制度がなかった。積み立てを行っている学校のうち30校は返金している。残りの学校のうち19校は実施可能となる日を待って保持しており、18校は代替プログラムに充当している。合計数が回答校数を上回るのは、複数のプログラムで対応が分かれた結果である。
● 「代替プログラム」で示される学校の力 アンケートでは、国際交流プログラムの実施についても尋ねている。こちらは複数回答が可能なため、合計は121にならないが、概略を見ていこう。 まず、海外渡航を伴うプログラムを延期している学校が44校ある。高1予定のものを高2に実施予定という具合に、同じ生徒の参加が前提となっており、3校に1校はコロナ禍の過ぎ去ることを祈る状況となっている。一方で、プログラム自体を中止とした学校も15校ほどあり、今年度の対応を決めかねている学校も見られる。 多かったのは、「海外交流プログラムの内容に即し、オンライン等を利用して実施」した学校で、50校(うち男子1校、女子21校)ある。思い起こせば、昨年の新学期は泥縄のオンライン授業から始まった学校も多かった。公立中学校がプリントを配って手をこまねいていたのと比べると、曲がりなりにも生徒とオンラインを利用して意思疎通を図ることができた学校は私立が圧倒的に多かった。前回見たように、2022年受験生が増加気味の傾向を見せているのも、この点がかなり大きいはずだ。 こうしたオンライン活用が、国際交流プログラムでも遺憾なく発揮された。中心となるのは、訪問先の現地の学校や大学との、リアルタイムでの語り合いである。初対面の人とネットでやりとりするのは間合いが取りにくいものだが、その点も経験することができた。 そのままの実施が困難な場合には、新たなプログラムを作成することになる。3分の1にあたる41校がそのように取り組んでいる。 その具体的な例として、男子校の巣鴨中学校・高等学校が「Learning in Adversity (逆境における学び)」をテーマに、今年3月から1カ月弱の間に実施したプログラム「Double Helix(二重螺旋)2021」を挙げておきたい。 二重螺旋(らせん)というと、DNAを思い浮かべるが、ここでは「基礎知識」と「高次の思考力」が絡み合い、つながりを意識できるような姿を想定している。パンデミックの中でのブレークスルーをイメージ、巣鴨のみならず、駒場東邦、広尾学園、市川、そして女子校(鷗友学園女子・豊島岡女子学園・洗足学園・南山女子部)の高校生にも呼びかけている。 50人ほどの参加者が小グループに分かれてプレゼンの準備をしながら、芸術・言語・医療・免疫・歴史を専門とする5人のイギリス人講師とオンラインでセッションした。このプログラムの参加費用は2万円と格安だった。
● 問われるのは「国際教育」の構想力 コロナ禍で海外研修に参加できなくなった高校生向けに、8月末に企画されたプログラム「英語体験合宿in Tokyo」もユニークな企画だった。村上春樹氏の小説の舞台ともなった学生寮を利用して、泊まりがけで実施した。 「パンデミック中に日本は移民を受け入れるべきか」に関するディベートを、日本に滞在している移民政策に詳しい3人の研究者(出身国はネパール、ジョージア、アメリカ)をファシリテーターとし、7人のアジア人留学生がメンターとなって参加者28人をサポート、演劇的なゲームで緊張をほぐすため役者も1人加わっている。 以前ご紹介したものでは、東京男子御三家の武蔵が実施している「REDプログラム」なども、国内で充実した時間が過ごせる国際教育プログラムの一つである。 アンケートの中でも、「国際教育を国内で進めていくためのヒントにコロナ禍で気付くことができた」といったコメントが多く寄せられている。準備のため手間も時間もかかるものだが、きちんと保護者に説明し、生徒を巻き込んでいけるか。そうした観点で「国際教育」を見ることも、偏差値だけでは分からない学校選びの際には大切である。 この連載と連動する形で、「本当に子どもの力を伸ばす学校」(ダイヤモンド・セレクト2021年8月号)が7月5日に発売予定となっている。ぜひ今年もお手に取っていただければ幸いである。
ダイヤモンド社教育情報/森上教育研究所
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