Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/35c0524337c69281ade1338a10e4d3833e698c6b
「孤立」が浮き彫りに…
加盟国合計の人口が世界の半数近くを占める巨大地域協力組織「上海協力機構(SCO)」は9月15、16の両日、ウズベキスタンのサマルカンドで首脳会議を開いた。今回の首脳会議は、新型コロナウイルスの感染拡大後、初めての対面形式をとり、新たにイランを加えて10カ国体制にする成果を挙げた。 【写真】韓国・文在寅、引退後の姿がヤバすぎる……! ところが、会議に集まった首脳たちが繰り広げた外交では、ロシアのプーチン大統領が孤立1歩手前の苦境に立たされていることが浮き彫りになるハプニングもあった。本来ならば、中国とSCOを主導してきた功績でロシアの影響力が拡充してもおかしくない状況なのに、ウクライナに軍事侵攻したことが災いし、プーチン大統領に苦言を呈したり、明確に距離を置いたりする首脳が現れたのである。 何と言っても冷ややかだったのは、中国の習近平・国家主席だ。事前には、両国の蜜月関係の演出に腐心するとの見方もあったが、15日に開かれた両首脳の会談で目立った同主席の発言は、具体的な項目を示さずに「中ロの核心的利益に関わる問題について、相互に力強く支援する」と述べたことぐらい。ウクライナ侵攻に対する直接的な言及を避けた。 また、インドのモディ首相は16日、プーチン大統領との会談で、面と向かって「いまは戦争の時代ではない」と苦言を呈した。そのうえで、民主主義や外交、対話の重要性を説き、返す刀で食料や燃料の確保といった問題に触れて「解決の方法を見つけなければならない」と早期停戦を迫る発言もした。
プーチンの思惑とは正反対に
このところ、ウクライナ軍の反攻により、ロシアはウクライナ東部の広い範囲で領土を奪還される憂き目もみている。それだけに、プーチン氏は今回のサマルカンド会議で、ロシアが国際的に孤立していないことを内外に示したかったはずだ。ところが、結果は、その思惑とは正反対に終わった格好である。 SCOの前身「上海ファイブ」は、1996年の設立だ。旧ソ連の崩壊後、中国と国境を接していたロシアと旧ソ連の3カ国が結集した。結成当初の主目的は、それぞれの国の間にできた新しい国境の管理だった。 その後、2001年にSCOに衣替え。本部は北京に置く。各国間の国境地域の安定、信頼の醸成、加盟国間の協力促進を目的とし、緩やかな協力を目指している。現在は、中ロ2カ国のほか、カザフスタン、ウズベキスタン、キルギス、タジキスタンの中央アジア4カ国とインド、パキスタンの8カ国が正式に加盟している。加盟国のGDPは世界の約2割、人口は半数近くを占めている。 すでにベラルーシが加盟申請を終えているほか、今回、米欧との核合意を巡って孤立感を深めていたイランが加盟の覚書に調印した。これにより、インドで開催する来年の首脳会談から正式な加盟国として参加することになった。 SCOには、正式な加盟国のほかに、オブザーバー国(アフガニスタン、ベラルーシ、イラン、モンゴル)や対話パートナー国(アゼルバイジャン、アルメニア、カンボジア、ネパール、トルコ、スリランカ)もある。このうちトルコは正式加盟を希望しているという。
習近平の“プーチン冷遇“
一連の首脳会合に臨み、習主席は、事前に目されたほどプーチン氏との蜜月の演出をしようとしなかった。首脳会談の順をみても、開催国カザフスタンを最初にし、ウズベキスタン、キルギス、トルクメニスタン、タジキスタンの中央アジア4カ国と会談。次いで、モンゴルを挟み、ようやく6番目にプーチン氏と会談した。 冒頭で記したように、習主席はウクライナ問題に沈黙。これに対し、プーチン氏は「中国のバランスの取れた立場を高く評価している。我々は中国側の懸念を理解している」と慮るかのような発言をした。 そればかりか、プーチン氏はあえて台湾問題に言及。「我々は『ひとつの中国』の原則を堅持している。台湾海峡における米国とその衛星国の挑発を非難する」と習主席をバックアップした。これに対して、習主席は「評価する」と述べるにとどまったのだ。 習主席の“プーチン冷遇“ぶりは、中国共産党の機関紙「人民日報」の報道を見ても明らかだ。同紙は、習主席のウズベキスタン訪問やウズベキスタンのトップとの首脳会談などの様子をトップ記事や2番手で扱った。その一方で、プーチン氏との首脳会談の扱いは3番手に抑えた。しかも、ウズベキスタンのトップとは固く握手する写真を掲載したのに、プーチン氏との会談はそれぞれが正面を直視している写真を載せるにとどめたのである。
「いまは戦争の時代ではない」
こうした冷遇ぶりには、ロシア軍のウクライナ侵攻によって、日米欧豪韓などの西側が結束、中ロと対峙する冷戦の構図が固まってしまったことに対する中国の焦りや、軍事面での中ロ関係強化や軍事、武器支援を打ち出すことによって中国が西側の制裁対象になっては堪らないという、中国の思惑が反映されているとみられている。 また、インドのモディ首相が首脳会談で「いまは戦争の時代ではない」などと苦言を呈したことに対し、プーチン氏は「あなたの懸念は理解している」と応じた。停戦交渉を拒否したのは、ウクライナの方だと釈明しつつも、「すべてが一刻も早く終わるよう手を尽くしていく」と約さざるを得なかったという。 よく知られているように、インドは伝統的なロシアの友好国だ。ウクライナ問題を巡っては、これまで、その関係の維持を優先して直接的な批判を控えてきた。 例えば、国際原子力機関(IAEA)が15日に開いた理事会で、ロシアに対して、占拠中のウクライナ南部ザポロジエ原子力発電所からの退去を求める決議を35カ国中26カ国の賛成で採択した際も、インドはロシアに配慮して採決を棄権した。ところが、今回は豹変、これまでと違い、モディ首相が真正面から苦言を呈したのだ。それだけに、プーチン氏は決して心中穏やかではなかったと推察される。 当のプーチン大統領は16日のSCO首脳会議後の記者会見で、ウクライナ侵攻に言及した。ウクライナ軍が東部ハリコフ州の要衝を奪還するなど攻勢に転じているものの、「(東部ドネツク州とルガンスク州を指す)ドンバス全域の解放が最大の目的」であり、「計画を変更することはない。ドンバスでの攻撃活動は停止しておらず、ロシア軍は徐々に新しい領土を占領している」と強気を装ったのである。 しかし、直近は、ウクライナが奪還した東部ハリコフ州の複数の場所で民間人を含む約500人の遺体が確認され、ウクライナのゼレンスキー大統領は国際社会に向けて「ロシアはテロ国家だ」とSNS(交流サイト)での非難を強めている。 強気一辺倒だったプーチン・ロシアの姿勢が一朝一夕に変わるとは考えにくい。が、今回の習主席やモディ首相との首脳会談での発言がロシア軍のウクライナからの早期撤退に向けた序章になることを期待したい。
町田 徹(経済ジャーナリスト)
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