Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/3870370f13efe0cd097e6a453f3edad39f041f4a
敏腕クリエイターやビジネスパーソンに仕事術を学ぶ「HOW I WORK」シリーズ。 東京・三鷹で農家を営む理由。「都市で農業をする」意義とメリットとは 今回お話を伺ったのは、東京都三鷹市で「鴨志田農園」を営む、コンポストアドバイザーの鴨志田純さんです。 鴨志田純さんの仕事歴 中学生時代のラオスへのボランティア派遣を発端に、地球一周、自転車で日本縦断などを経て、2010年から8年間、東京都内の私立高校で数学教師として勤務。2014年、父の急逝をきっかけに家業の農園を継ぎ、「半農半教」をはじめる。地域からでる生ごみなど未利用資源の堆肥化と有機農業のシステムづくりを行うコンポストアドバイザーとして、国内外の事業に関わっている。 日本の農業は「食べ物を作っているのに、食べていけない農家が多い」と鴨志田さんは問題点を指摘します。いかにして売上を伸ばし、利益を確保すればいいのか。また、都市部にあることを活かした営農方法とは何なのか。 鴨志田さんの仕事術、「都市部で農業をする意味」について伺いました。今回は後編です。 ▼前編はこちら
アルバイトを雇うと利益がなくなる
──前編では売上を伸ばす方法についてお聞きしましたが、減価率を下げて利益を確保する部分についてはどうですか。 鴨志田農園は少量多品目でやっているので、販売は「お任せ野菜セット」を出していく戦略をとっています。野菜を個々に受注すると作業工数が大幅に増えるため、採算が合わなくなってくるからです。 現在、定期購入してくださっているお客様は月に120名ほどで、その時々のおいしい野菜をお任せで出荷させてもらっています。もちろん闇雲に出すのではなく、珍しい野菜だと手書きのレシピをつけて、実際に料理したものをInstagramで見てもらえるようにしています。 あと、ECサイトを通じた直接取引だと感想を送ってくださる方もいて、そうしたフィードバックはすごくやりがいになりますね。 ──作業は一人でされているのですか? そうですね。1日の出荷量は10~15件で、一箱あたりの利益が1,000円だと仮定すると、アルバイトを雇うと利益がなくなってしまうので。 ただ、レシピづくりやSNS運用に関しては、助産師で現在育休中の妻がサポートしてくれています。元々料理が趣味だったので、趣味が仕事になったという好例ですね。 Instagram経由で取材やレシピ監修の依頼がいただくことが多いので、SNS効果にびっくりしています。「メディア編集部の方ってすごくリサーチされているんだな」と思うのと同時に、「情報発信している農家さんはすごく少ないな」ということも感じましたね。
都市部だからこそ、生ごみを使った完全堆肥で農業できる
──都市部で農業をするメリットは何だと考えていますか。 一般的な農家さんは肥料を購入しているのですが、鴨志田農園ではほとんど自給しています。20km圏内の地域から生ごみ、落ち葉、米ぬかなどの未利用資源を集めてきて、自分たちで堆肥をつくっているからです。こういうものは都心のほうが手に入りやすいんです。 たとえば、米ぬか。地方でつくられた米が都心に運ばれる際、基本的には玄米の状態です。それを都心で精米するのですが、その際使うのに困るほど大量の米ぬかが出てきます。 逆に地方だと、米ぬかは結構手に入りづらい。都市部より米の消費量が少ない分、出る量は限られていますし、狩猟時のぬた場としても米ぬかが使われているからです。 また、通常は焼却処分になってしまう都心の街や公園で拾い集めた落ち葉も、ごみではなくて価値資源に変えていくことができます。こうすることで、せいぜい資源を運ぶ車両費がかかるくらいで、肥料を購入するコストがかかりません。 農薬も使っていません。自家製のしっかりと発酵させた完熟堆肥を使うことで、野菜の細胞壁の構造が強くなり、害虫が葉を嚙み切れなくなります。 だから防虫ネットも不要。また、葉にツヤがしっかりと出てきて、ワックス効果のように水を弾いてくれます。そうするとカビ類もつかないので、全然虫がたからない状態で収穫することができるんです。 また、農地は教育の場としても活用されています。私自身も、近隣の小学校や中学校で、農業や食に関する授業をさせていただく機会が増えました。都市農業って、一般に思われているよりずっと多面的な機能性があるんです。
その土地に合った農業のやり方をすればいい
──なるほど、農地は野菜をつくるためのものだけではないのですね。 今ある農地をしっかり残していくことは、非常に大事だと思います。実は、生産緑地は基本的に防災時の避難所にも指定されているのです。 ここに来れば、食料があったり、水の備蓄があったり、自家発電機があったり、農地によっては井戸があるところもあります。また、バックホウ(ショベルカー)もあるので、家が倒壊したときには助けにもいけます。 「都市農業は自分たちの身近に残していかなきゃいけないものだな」というところは、自分が実際に農園を継いでみて、強く感じるところですね。 だから、普段からその地域の方とつながって生ごみを供給してもらう。そして、農産物を買っていただく。そういう形でその都市農地を支え合う仕組みをつくっていく。 いざ何かあったときに顔が見えてない関係性の方にはすごく頼りづらいと思うんですけど、都市農地と近くの消費者の方がつながることによって、防災機能性を付与していくこともできます。 営農はコミュニティー作りとも言えますし、やっていけばやっていくほどすごく奥行きが広いと感じますね。 ──農業といえば新鮮な水と空気のある田舎が望ましいと考えていただけに、目から鱗が出る思いです。 都市農業と地方農業、別にどちらがいいとか悪いとかではなく、その土地に合うやり方があると思っています。都市は都市のやり方をすればいいし、地方は地方のやり方をすればいい。均質化・同質化する必要はありません。 堆肥に関しても、完熟堆肥の考え方もあれば、中熟後半で止めたほうがいい、などの考え方もあります。だからそれは、最終的に自分が目指しているものや方向性から決めていけばいいと思っています。 逆に危険だなと思うのは、「このやり方が絶対に正しい」と視野を狭めてしまうこと。受容性がないと、他の農業関係者さんが来てくれなくなるんです。多様な意見が入ってくる状態に自分の身を置いておくということが大事だと思います。
「野菜を生かじり」こそ究極の時短料理
先ほど完熟堆肥を使うことで野菜の生命力が違うとお話ししましたが、ちょっとこれを見てください。このきゅうり、ポキっと折って、ギュッと押さえると、またくっつくんです。
生命力が豊かな野菜って再生しようとするんですよ。タネも仕掛けもあるマジックなんですけどね(笑)。よろしければ、そのまま食べてみてください。 ──おいしい! 何もつけていないのに、味わいがありますね。 実は、野菜をつくる段階で味付けをしているんです。きゅうりは加熱せずにサラダで提供する場合が多いので、植物性を主体とした肥料を使ってすっきりした味わいにしています。 逆にナスや甘長とうがらしなど火入れしたほうがおいしい野菜に関しては、ちょっと動物性の混じった肥料を与えておくとコクが出てきます。 家事の時短が流行っていますが、料理に関しての究極の時短は「おいしい食材」を買うということです。おいしくないから添加ということが必要になるわけで、素材にしっかりと味がついていれば純化で良いんです。 だから、時間を大切にしようとする人ほど、おいしい食材を買うといいと思いますよ。
ネパールでの生ごみの堆肥化事業を完成させたい
──今後目指すところは? 直近でやりたい目標が、2つあります。ひとつは、現在関わっている「ネパールでの生ごみの堆肥化事業」の完成です。現状はまだ70名ほどですが、1万人の雇用も生んで、子どもたちが満足に生活できる環境を作っていきたいです。 もうひとつは、「コンポストアドバイザー」という仕事をなくすこと。生ごみを利用してこうした完全堆肥を作って農業をすることで小さな循環型システムを作り、環境の保全にもつなげているわけですが、一般的な常識として広まれば「アドバイザー」なんて必要ないですよね。 地球環境において、2030年がひとつの分水嶺だと言われているので、そこを目標の期限として考えています。 ──教育者としてはどうですか? 農業に集中するために一度教育現場から離れましたが、農業という現場を踏んだからこそできる教育の仕方や取り組みがあるので、そのあたりは今後やっていきたいと思いますね。 ▼前編はこちら 図解即戦力 農業のしくみとビジネスがこれ1冊でしっかりわかる教科書 1,650 Amazonで見る 1,650 楽天で見る Photo: 大崎えりや
北野啓太郎
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