Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/a1d88857374bbea0b679d9602936141d2b83d0bc
政治の世界で、説明責任という言葉が多く聞かれるようになって久しい。国民はそれだけ、政治家に「適切な説明」を求めているということになるが、それを「言い訳」でかわそうとする場面もよく見られるようになった。そんな「言い訳」に注目しているのが、エッセイや漫画などが人気の能町みね子さんだ。今回は、言い訳という切り口で政治の世界を覗いてみるべく、能町さんに、様々な「言い訳」を聞いた。
後世に残したい、笑える言い訳
――まずは、有名な政治家の言い訳から教えてください。 能町みね子(以下、能町):では、菅義偉前首相から。当時首相だった菅さんが広島原爆の日に挨拶をしたんですが、原稿を読み飛ばしてしまったんです。それについて追及された時の言い訳がよかったですね。 ――どんな言い訳でしたっけ? 能町:「原稿が糊でくっついていて剥がれなかった」というものです。でもすぐに、糊なんて付いていなかったことまでバラされてしまいましたね(笑) ――あれだけ多くの報道陣がいて沢山のカメラが入っているから、バレることはわかりそうですけど(笑)。 能町:謝ればいいだけだと思うんですけど、なぜか言い訳をしてしまうんですよね。ケツの穴の小ささが伝わってくる「後世に残したい言い訳」です。
「桜を見る会」は“募集”じゃなくて“募っている”?
――他にも有名な政治家の言い訳はどんなものがありますか? 能町:私が好きなのは、公的行事である「桜を見る会」に、自身の後援会関係者を募集して私物化していたのではという野党の指摘に対する、安倍晋三元首相の言い訳です。「幅広く『募っている』という認識で、『募集している』という認識ではなかった」と言い訳しています。 ――かなり話題にもなりましたし、Twitterユーザーの大喜利心をくすぐって、この言い回しを真似るツイートがたくさんでましたね。 能町:今読み返しても、本当に何を言っているのかわからないですよね(笑)。元々の問題がどんなものだったか思い出せなくなるくらい、強烈な言い訳の文言です。 ――こうした言い訳を、能町さんは「好き」と表現されるのがいいですね。 能町:問題自体は、全然シャレにならないことなんですけど、「人間って、逃げ場がないほど追い詰められても、こんなにもがくんだな、愚かだなあ」ということが端的に伝わる言葉なので、好きです。
「マザームーン」山本朋広議員の言い訳
――言い訳はある意味、人間らしさが垣間見える瞬間でもあるかもしれませんね。 能町:最近では、旧統一教会関連で、多くの言い訳が飛び出しています。私は、経済再生担当大臣の山際大志郎議員の言い訳が好きですね。旧統一教会の関連会合に参加したという報道が出て、事実関係を追及された時に「報道を見る限り、出席したと考えるのが自然だ」と言っているんですよ。 都内で行われた会合であれば、記憶に薄いこともあるかもしれませんが、山際さんはネパールまで行って会合に参加しているんです。それを本当に覚えてないんだとしたら、ちょっと記憶力がなさすぎるなと(笑)。この記憶力では政治家が務まるとは思えないですね。 ――他に旧統一教会関連で気になる言い訳はありますか? 能町:言葉が立っているものが面白いです。自民党の山本朋広議員が、教会の韓鶴子総裁を「マザームーン」という尊称で呼んでいたことを指摘された時の言い訳は、「名前の読み方に自信がなかったから、関係者にニックネームを教えてもらいました」という、いい発言でしたよね。ニックネームじゃなくて、名前を聞けばいいだけなのに(笑)。 しかも山本議員、この件が発覚してから報道陣の前に出るときは、電話をかけているフリを1か月近く続けたんですよね。「そんなに考える時間があって、この程度の言い訳しか思いつかなかったのか」と思えるところもいいですよね。
教団の関連施設を訪れた生稲晃子議員は?
――新人の生稲晃子議員も、萩生田光一政調会長とともに、旧統一教会の関連施設を訪れていたことに対して、言い訳をしています。 能町:「暑かったので、顔を直すこととか、自分が間違えないようにしゃべらないといけないとか、そういうことに必死で、その時は周りをまったく見ていなかった」と言って、教団の関連施設だとは理解していなかったという言い訳で、これも好きです。 ――世間では「そんなわけないだろ!」という声が上がりましたが、能町さんは違う見解をお持ちとのこと。 能町:私は、マジで理解してなかったのかもしれないとも思っています。新人で右も左もわからないから、言われたまま連れられていったんじゃないかと。 ――超人気アイドルとして、考える余裕もないまま分刻みのスケジュールで、様々な場所で歌って踊っていた若い頃も、そうだったのかも知れませんね。 能町:だから、旧統一教会がどんな団体なのかさえも知らない可能性もあると思います。それはそれで、政治家の資質として大問題ですけどね。
暴行、わいせつで逮捕された維新の会の港区議
――注目している「言い訳議員」がいるそうですね。 能町:以前、維新の会に所属していた港区議の赤坂大輔です。タクシー運転手を殴ったことで逮捕された時の言い訳をホームページに長文で書いたのがデビュー作です。 これを要約すると、「あまりにもひどい運転手だったので、どうしても我慢できませんでした」という内容です。 こういう事件の言い訳は、普通「殴っていない」とか「手が当たっただけ」などと、暴力自体を否定するものですが、この人は言い訳しながらも、殴ったことは認めたうえで、殴らざるをえなかった、と言っているんです(笑)。 ――言い訳として成立していませんね(笑)。 能町:どれだけ酷い運転手だったかを長々と書いているんですが、殴ってたらおしまいですよね(笑)。赤坂さんはその後、別の事件でも衝撃的な言い訳をリリースします。 ――どんな事件ですか? 能町:公然わいせつで逮捕されていて、報道では、女子高校生に陰部を見せつけたとされています。 その言い訳もまたホームページにあって「(前略)裸同然での飲酒踊り等の乱痴気騒ぎを行い、見咎めた幾人かの通行人と喧嘩状態で揉め、通報を受けて駆け付けた警官が、我々と揉めた通行人や、他の方々(マスコミ報じる私服の女子高生?等々)に事情を聴取。私を含めた数人がいくつかの罪状で逮捕された」と書いています。「全裸になったことは認めるんだ」と思いました(笑)。 ――言い訳は、崖っぷちまで追い込まれたところから逃げ出すために使いますが、この方はもう崖下に落ちちゃってますね。 能町:そうなんですよ。崖下に落ちて大ケガをした状態なのに、元気に発言してますね(笑)。
言い訳が生まれやすい風潮
――政治の世界は昨今、「誤りを認めたら終わり」みたいな風潮がありますね。それによって、こんなにたくさんの言い訳が生まれているのでしょうか? 能町:誤りを認めると、選挙に勝てなくなると思っているのかも知れませんね。それと、言い訳でやり過ごしているうちに国民が忘れてくれると思っているというのもあるかもしれません。 ――閣僚クラスになると、その人の仕事っぷりも多く報道されるので忘れることもあるかも知れませんね。 能町:そういう意味では、自民党を離党した吉川赳議員の言い訳も好きです。18歳の女の子にお酒を飲ませてパパ活をしていたという報道が出ましたが「ラウンジで働いているその女の子が18歳だとは言っていたけど、『そういう設定だ』と思った」というものですね。 この人の場合、この一件で世間に知られたので、デビュー戦でこの結果を残してしまったとなると、今後どんなに言い訳で長引かせても忘れてもらえませんよね。 ――それにしても、大物から地方議員まで、言い訳文化は蔓延しているようですね。 能町:言い訳の言葉自体を「名言集」みたいに残しておきたいですね。 安定している時よりも、追い込まれた時の振る舞いに、その人の人間性が出やすい。そうした意味では、功績や公約以外に「言い訳」から政治家を見てみるのは、新たな視点なのかもしれない。<取材・文/Mr.tsubaking> 【Mr.tsubaking】 Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。
日刊SPA!
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