Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/bf0ac1e17d03de7021551cb3f756b7f08f49eeea
コロナの水際対策が緩和され、9月7日から入国者数の上限が5万人に引き上げられることになった。街に外国人の姿が増えるのは確実で、東京・新宿区にはすでにその兆しが見られる。 この記事の写真を見る 新宿区は約130カ国・地域の人々が暮らす人種のるつぼである。そのグローバルタウンでは、コロナ禍で減り続けていた外国人人口が、今年に入り一転して増加している。まずは、新宿区に住む外国人の人口推移を見てみよう。 コロナ前の2019年9月に4万2000人超いた外国人が、緊急事態宣言下だった昨年9月には3万5000人弱と7000人も減少していた。その後も減少トレンドだったが今年5月以降は増加に転じ、9月には3万8661人まで回復。この4カ月間で約5500人も増えた。コロナ前には程遠いが、行動制限がなくなり、入国が緩和された影響だろう。ちなみに外国人人口全体の36%超が20代の若者である。
国別で見たのが以下の表だ。 国籍別データの最新(9月1日現在)のトップ10で見ると、今年1月と比べタイ以外はすべて増加している。その大半が中国で増加分の7割近くを占めている。コロナ前、2019年9月時点の中国人は1万4773人だった。現在は当時の99.8%まで回復したことになる。2位の韓国の回復率は87%、3位のネパールは80%の水準。要するに、新宿区の外国人増の背景の大部分は、中国人が戻ってきたということでほぼ説明がつくわけだ。
新宿といえば新宿駅周辺の高層ビル群や夜の繁華街のイメージが強いが、実は都内有数の文教地区でもある。新宿区内の大学を見ると早稲田大学、慶応大学医学部、上智大学、東京理科大学、中央大学、東京医科大学など実に20近い大学のキャンパスがある。さらに高田馬場や大久保界隈には予備校や専門学校、日本語学校が集中している。都内きっての学生の街でもあるのだ。 その高田馬場が「変貌中」との情報が入った。そこで、新宿の外国人人口回復の状況を探るべく、高田馬場周辺にスポットを当て、8月末の残暑が残る平日の午後に街を歩いてみた。
再開発が進む駅前では新築ビルが建設中だ。大学はまだ夏休みなので日本人学生の姿は少ない。電車を降りてから、どこか違和感を覚えた。これはいったい何だろうか。駅前の再開発現場を後にして駅構内に戻ったところで、違和感の理由に気づいた。中国語の看板の多さである。駅構内や駅前に「名校志向塾」とか「行知学園」といった、なじみのない学校の看板が何カ所も掲示されているのだ。読めない文字もあるが、いずれも中国人を対象にした日本の大学受験用の予備校である。日本語学校も含め、高田馬場周辺だけで10数校あるという。
日本語表記がある「行知学園」のサイトで、2022年の合格実績(学部・大学院)を見て驚いた。東京大学32名、京都大学24名、一橋大学26名、東京工業大学31名、早稲田大学127名、慶応義塾大学67名、明治大学51名、立命館大学129名など、そうそうたる大学名が並んでいる。 厳しい行動制限、入国制限が実施されていた昨年は、来日がかなわず受験できなかった留学生が多かったが、今年に入り徐々に入国者が増えている。ちなみに出入国管理統計によると、今年6月の留学資格での中国からの入国者は6869人(全国)で、昨年6月の10倍以上に膨らんでいる。
高田馬場の街巡りに話を戻そう。まずは、早稲田通りを小滝橋方向に歩いてみた。驚いたのは、通りを行きかう中国人をはじめとするアジア系の若者の多さだ。学校帰りのようで仲間と話をしながら楽しそうに歩いている。 通り沿いにはアジア系食材を揃えたショップが並んでいる。店で扱っている食材や料理店の国籍は、ミャンマー、中国、台湾、ベトナム、インド、インドネシアなどアジア系ばかり。大久保と違うのは韓国色が薄いことだ。店の構えや品揃えは大久保のイスラム横丁あたりの店に似た雰囲気か。
このあたりの飲食店は中国系が多い。高田馬場駅近くのビルには中国の人気俳優が出資した火鍋店「賢合庄」もある。通り沿いのビルの1階は、牛肉料理の店だろうか、新たにオープンする中国料理の店の内装工事の真っ最中だった。まだまだ増殖中である。 中国系以外では、ベトナム料理店やインド料理店、さらには台湾スイーツの店、シンガポール・台湾料理の店と多彩だ。ベトナム国旗のマークを窓に施した宝石店まである。アジアの世界に足を踏み入れたかのようだ。ある店のシャッターには日本語で「用事があって休息する」といった貼り紙。やはり日本らしくない。
駅前に戻り、今度は早稲田通りを東に、早稲田大学の方に向かう。こちらもアジア系のさまざまな店が軒を連ねているが、目をひいたのは「行知学園」のビル。細長いビルの各階に赤字に白文字で「学部進学」「大学院進学」「美術進学」などのコースが明記されている。さらに進むと、中国人留学生を相手にした不動産屋が見えてくる。「賃貸・売買・学生公寓」「留学生支援」といった文字が表記されている。 2018年に日本初上陸した中国でおなじみの庶民派食堂「沙県小吃」のドアには「高田馬場限定」だという魯肉飯(ルーローハン)のポスターが貼られていた。食欲をそそる。さらに早大方面に進んでいくと、中国で人気のザリガニ専門店もある。横浜の中華街のように飲食店や雑貨店が密集しているわけではないが、街全体に中国、中華の色彩が確実に強まっている感じだ。
ネットで調べたところ、確認できただけでも今年に入ってから火鍋、四川料理、羊料理など中国の現地料理の店が7、8軒オープンしていた。ある店の紹介サイトには「日本人客ゼロ。日本語も通じない」と書き込まれていた。中国人相手の商売をしているのだろう。 高田馬場では、コロナ禍の期間中、学生らに支持されてきた老舗の居酒屋をはじめ多くの飲食店やスーパー、洋品店、ライブハウスなどがいろいろな事情で閉店や廃業に追い込まれた。代わりにアジア系、とりわけ中国系の店が増えているという構図にみえる。
中国人留学生に絶大な人気を誇る早大にも立ち寄ってみた。学生の姿はまばらだが、正門に回ると「早稲田大学帰国生・外国学生共通試験」の立て看板があった。 大隈庭園の中に中国政府が寄贈した孔子像が建つ早稲田大学は、歴史的に中国との関係が深い。1899年(明治32年)以降、清国人留学生を受け入れていて、陳独秀や李大釗といった中国共産党創設メンバーが20世紀初頭に留学している。1998年には江沢民、2008年には胡錦涛と2人の国家主席が来日時に訪問したほどだ。中国人留学生のあいだで早稲田人気が高い背景には、そんな歴史的経緯もあるという。
「外国人留学生1万人」という目標を掲げている早稲田大学。2022年5月1日時点の外国人学生(日本以外の外国籍を持つ学生)は5488人で、その国籍は、なんと104カ国・地域となっている。コロナ前2019年5月1日時点の6124人と比べると636人減だが、昨年の5347人からは141人増。ここでも(外国人が)回復傾向にあることが分かる。 外国人学生を国籍、地域別で見ると、最も多いのは中国。2022年は3322人で全体の約6割を占めている。2位の韓国736人、3位の台湾262人、4位アメリカ137人などを引き離して断トツである。昨年もトップは中国で3314人(62%)だった。中国人学生数は微増にとどまっているが圧倒的な存在感を示している。
新宿区の外国人減少が底を打ち、回復傾向にある中でやはり存在感を示しいるのは中国人だった。そして、その活躍の舞台は新宿の繁華街エリアにとどまらず、最近は高田馬場一帯に広がっていることがうかがえる。 繰り返しになるが、早稲田大学の中国人学生数だけで3300人である。日本の小さな村の人口に匹敵する規模である。さらに予備校や日本語学校、専門学校に通う留学生たちも入れたらどこまで膨れ上がるか。 しかも最近は日本の大学を卒業後、日本企業などに就職して都内に住む若者も多い。高田馬場周辺をはじめ新宿区には外国人、とりわけ中国人が多く暮らしているが、その4割近くが20代であることからして、学生などが占める割合が高いと思われる。つまり、客となりうるだけの人口圏があるから、高田馬場に中国系の飲食店が増えているのではないか。
高田馬場は1990年代後半から多くのミャンマー人が住むようになり、ミャンマー料理店などが集中し「リトル・ヤンゴン」として注目されてきた。アジア系の人々や文化を受け入れる土壌があり、アジア系の人々にとっても暮らしやすい街なのだろう。そんな異国文化を育む街にいま、規模は小さいながらも新たな「中華経済圏」が誕生しつつあるのだろうか。
山田 稔 :ジャーナリスト
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