Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/50581ac7e939b71ef8bd40ac8d459b54e1b9d2cc
配信、ヤフーニュースより
各国の研究を俯瞰して見えてきた、高温が妊婦と胎児に及ぼす悪影響
東京では2022年、猛暑日が歴代最多を更新した。世界各国で、高温の日が以前より頻繁になりつつある。こうした高温は、妊婦や胎児にどのような影響を与えるのだろうか。また、どんなタイミングが危険なのか、どんな地域でより深刻なのか、これまでの研究から紹介しよう。 【写真】インドの首都ではアパートの外壁にエアコンの室外機が並び、5月には連日のように気温が40℃を超える。 アフリカ、ケニア南東部の街キリフィでは、夏の間、気温は38℃近くに達する。「昔から暑い土地ではありますが、今はものすごく暑いです」とナイロビにあるアガカーン大学の医療人類学者、アデレード・ルサムビリ氏は言う。 2021年の夏、ルサムビリ氏と同僚の研究者たちは、猛暑が妊婦や胎児の健康に及ぼす影響を調べるため、キリフィに住む妊婦とその家族、医療従事者、地域社会のリーダーたちにインタビュー調査を行った。医療従事者の1人は、早産や分娩時の合併症が増えていると証言している。 こうした証言を裏付ける研究報告も相次いでいる。 たとえば、妊娠中に高温にさらされると、出生時の体重が少なく合併症のリスクの大きい「低出生体重児」が多くなるとする報告が複数ある。ほかにも世界27カ国における70の調査を分析した2020年の研究では、気温が1度上昇すると早産と死産のリスクが5%増すという結果が示された。この研究で対象となった地域は、米国や中国、ヨーロッパのほか、サハラ砂漠以南のアフリカ数カ国を含んでいる。 「大した数字ではないと思われるかもしれません」と、後者の論文の著者で南アフリカ、ウィットウォーターズランド大学の疫学者マシュー・ケルシック氏は言う。しかし気候変動により異常な熱波が頻発している今、気温の上昇が妊娠中および出産後の女性や新生児を、一層の危険にさらす可能性があることを論文は指摘している。
出産直前は要注意
猛暑が大きなリスクとなるのは、妊娠のどの期間だろうか? その答えはまだはっきりしないが、妊娠初期と後期に注意が必要なようだ。 解明を難しくしているのは、猛暑と個々の死産や早産の事例を結び付ける明瞭な兆候がないことだと、米ネバダ大学リノ校の疫学者、リンジー・ダーロー氏は言う。 こちらも複数の研究がなされており、研究者は妊娠期間と気温データを突き合わせ、猛暑の強度や持続日数など、どの要素がどう妊娠に影響しているかを調べている。 ある研究では、猛暑は出産予定日間近の妊婦に大きな影響を及ぼすと結論づけている。妊娠期間の終盤を高温の中で過ごすと、死産や早産を引き起こす確率が高くなり、生まれた赤ちゃんは呼吸器疾患や神経発達障害を患ったり、幼児期に亡くなってしまう可能性があるという。 一方で妊娠初期に高温にさらされると、胎児の心臓や脊髄(せきずい)、脳の発達に異常が生じ、早産や死産につながる可能性を示す研究結果もある。このほか、妊娠の全期間を通して、猛暑は妊婦に悪影響を及ぼすとする報告もある。 猛暑が妊婦に影響を及ぼす生理学的な仕組みはまだ解明に至っていない。しかし仮説はある。 妊娠中の女性の体温は平均よりもやや高く、気温や室温の上昇とともにさらに上がる。そのため妊娠中は脱水症になりやすく、体温調整が難しくなる。これが原因のひとつだ。 このほか、脱水状態になると血液の粘度が高まり、血圧が上がる。そのため血流が減り、お腹の赤ちゃんに運ばれる酸素や栄養素も減る。それが低出生体重児や早産につながる可能性がある。 高温によって、胎盤に炎症が起こり、早産を引き起こす可能性もある。また分娩時に子宮収縮を促すホルモンの分泌が増加することで早期に分娩が誘発されるとする、動物での研究結果もある。 ただし、こうした生理学的メカニズムについてはまだわかっていないことが多いと、ボツワナ大学の新生児生理学者ブリット・ナクスタッド氏は言う。
進む研究、低・中所得国でも
ダーロー氏の研究グループは、米国の6州(カリフォルニア州、フロリダ州、ジョージア州、カンザス州、ニュージャージー州、オレゴン州)で、1991年から2017年の胎児の死亡記録を調査した。すると、妊婦が出産する1週間前に4日間連続して猛暑を経験すると、死産のリスクが3%上昇していたことが判明、学術誌「Environmental Health」に2022年6月16日付で発表した。気温が35℃を超えていた場合、リスクはわずかだがさらに上昇していた。 ノースカロライナ州では、夜間の気温が早産と密接に関係していることを研究者は突き止めた。2011年から2015年の5月から9月の間、気温が24℃から約1度超えるたびに早産のリスクが6%上がっていたことがわかったのだ。「夜間、気温が下がらないと、日中の高温状態から受けたダメージを回復することができないのかもしれません」と、米デューク大学で気候と健康の関係を研究するアシュリー・ウォード氏は言う。「夜も気温が下がらない日が増えてきているので、気をつける必要があります」 猛暑が妊婦に及ぼす影響を、エチオピア、ナイジェリア、ネパール、南アフリカなど14の低・中所得国で調べた研究もある。出産に先立つ7日間で、猛暑と蒸し暑い夜を経験すると、早産と死産の確率が高くなると研究者は報告している。 低・中所得国で母体の健康を調査する研究者は、これらの国々の妊婦が気候変動による熱波や高温から受ける影響は、他の国に比べてはるかに大きいと考えている。そうした国々の妊婦は、栄養のある食べ物を得る機会も限られている上、妊娠後期に入っても炎天下、長距離を歩いて水を汲み、畑を耕し、薪を集めなど、過酷な家事を強いられている。 多くの研究では、対象が高所得国に住む妊婦に偏っている。そういった現状を変えようと、ルサムビリ氏のチームはキリフィで活動するグループと共同で、猛暑が妊婦にもたらす悪影響や、過重な家事労働を減らす重要性を社会に説いている。一方、ケルシック氏は猛暑が予想される日には、妊婦に対し警報を出すシステムを構築したいと考えている。
文=Priyanka Runwal/訳=三好由美子
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