Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/b166b40a7d02e76cf761d5bdd2ed18c279185ccf
【列島エイリアンズ】 腰の上までスリットが切れ込むタイトなアオザイに身を包み、腰をくねらせて舞い踊る女性たち。演舞の後は男性客の隣に座り、体を密着させながら接客をしてくれる。希望すれば、ホテルの自室に連れ帰ることもできるという。 これは、かつてベトナム・ハノイで繰り広げられていた日本の土木・建築業者に対する接待の様子である。主催者は、日本の外国人技能実習制度に適合する人材を選考・育成して取り次ぐ、現地の送り出し機関である。彼らは、日本の受け入れ企業に技能実習生として送り出した人数1人あたり、年間15万円ほどの手数料を得ることができる。一般的な実習期間が3年間であることを考えると、実習生1人の派遣で45万円が彼らの〝売り上げ〟となるのだ。 そのため、実習生候補の現地面接に来た社長や人事担当者に対する接待には余念がなかった。毎年一定数の実習生を採用する受け入れ企業の現地面接に対しては、日本ベトナム間のビジネスクラスの往復航空券を含む。アゴ足付きの接待で迎える送り出し機関もあった。 ただ、こうした話は今や過去のものとなったようだ。 本州西部・中国地方の中小建築業者の人事部に所属する30代のAは、昨年夏、現地面接のため、ハノイ出張を命じられた。コロナ禍の前までは、毎年4、5人の実習生を採用していた同社では、毎年ハノイで現地面接を行っていた。現地へは、社長や50代の人事部長が浮かれ調子で出かけていくのが常であり、彼らが帰国後にする卑猥な土産話を羨(うらや)ましい思い出として聞くくらいでしか、実習生の採用事情について知らなかった。 にもかからず、なぜか4年ぶりの現地面接という大役がAのもとに回ってきたのだ。しかし、その内容を確認すると、かねて上長から話に聞いていたような接待旅行とは異なり、自身で航空券やホテルを予約しなければならないようなのだ。 結果、Aは格安航空券のエコノミー席で、ハノイへと飛んだ。もちろん、空港への出迎えに来ている者もなかった。Aは配車アプリGrabを利用し、あらかじめ予約していた1泊3000円台のホテルにチェックインして荷解きを済ませると、すぐに送り出し機関の事務所に向かったのだった。 実習生候補7人への面接を終えたAは少しソワソワしていた。送り出し機関の担当者から、夜の接待にいつ誘われるのか、気になっていたからだ。だが、招待を受けることは最後までなかった。
「できるだけ早くお返事くださいね。他の会社に取られてしまいますよ」
担当者は無表情にそう話すと、Aをビルの出口へと誘導するのだった。
かつては盛んだった送り出し機関の熱烈接待はなぜなくなってしまったのか。その理由については次回以降でお伝えする。 =つづく
■1都3県に住む外国人は120万人とも言われ、東京は文字通りの多民族都市だ。ところが、多文化共生が進むロンドンやニューヨークと比べると、東京在住外国人たちはそれぞれ出身地別のコミュニティーのなかで生活していることが多い。中韓はもとより、ベトナム、ネパール、クルド系など無数の「異邦」が形成されているイメージだ。その境界をまたぎ歩き、東京に散在する異邦を垣間見ていく。境界の向こうでは、われわれもまたエイリアン(異邦人)という意味を込めて。
■奥窪優木(おくくぼ・ゆうき) 1980年、愛媛県出身。上智大学経済学部卒。ニューヨーク市立大学中退後、中国で現地取材。2008年に帰国後、「国家の政策や国際的事象が、末端の生活者やアングラ社会に与える影響」をテーマに取材活動。16年「週刊SPA!」で問題提起した「外国人による公的医療保険の悪用問題」は国会でも議論され、健康保険法等の改正につながった。著書に「ルポ 新型コロナ詐欺」(扶桑社)など。
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