Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/fa867eb8304b51f3cdae4f10125f83a9000310ff
ウクライナ政府の焦りを感じた人も多かったようだ。時事通信は2023年12月27日、「50万人動員『要請せず』 軍トップ、大統領と食い違い ウクライナ」との記事を配信し、YAHOO! ニュースのトピックスに転載された。担当記者が言う。 【写真12枚】「美しすぎる」と話題 露出度の高い衣装をまとったロシアの女スパイ【プーチンも絶賛】 ***
「事の発端はウクライナのゼレンスキー大統領が12月19日に開いた会見です。ここで彼は『軍から最大50万人の追加動員が要請された』と発表。26日には追加動員に関する法案が最高会議に提出されたことも明らかになりました。ところが、軍トップのザルジニー総司令官は『軍として人数を挙げて(動員を)要請した事実はない』と否定したのです。時事通信は追加動員を実施すると国内に厭戦(えんせん)ムードが蔓延する可能性を示唆し、その上で大統領と総司令官の不仲説を伝えました」 ウクライナの苦戦を伝える報道も相次いでいる。ロシアは25日、ウクライナ東部の要衝マリインカを制圧したと発表。ウクライナの報道官が一度は否定したものの、その後、ザルジニー総司令官が事実上の撤退を認めた。 「26日未明にはウクライナの戦闘機が黒海のフェオドシヤ市沖でロシアの揚陸艦『ノヴォチェルカッスク』を破壊し、ロシア側も艦の損傷を認めました。本来なら大戦果として注目されたはずですが、ウクライナ軍のマリインカからの撤退でかき消された印象です」(同・記者)
ロシア軍の膨大な被害
そもそもロシア軍とウクライナ軍では戦力差が大きい。CNN(日本語電子版)は2022年2月26日に配信した記事で、両国を「巨人と少年」と形容した(註)。 「CNNはまず軍事費を比較しました。ウクライナの2021年の国防費は47億ドル(約6700億円)でしたが、ロシアは458億ドル(6兆5800億ドル)。ウクライナの現役兵は19万6000人、予備役は90万人、対するロシアの現役兵は90万人、予備役は200万人に達します。軍隊の規模だけを考えれば、ウクライナがロシアに勝てるはずがないのです」(同・記者) そもそもロシア軍による侵攻が始まった際、アメリカをはじめとする主なNATO(北大西洋条約機構)加盟国は、ゼレンスキー大統領に国外脱出を進言している。だが、ウクライナは徹底抗戦を選び、「巨人」を相手に戦果を重ねてきたことも事実だ。 「実際、ロシア軍は甚大な被害を受けています。同じくCNN(日本語電子版)は12月13日、『ロシア軍、地上兵力の9割近くを喪失か 米情報機関』との記事を配信しました。出典は情報機関からアメリカ議会に送られた報告書で、ロシア軍はウクライナに侵攻した兵士36万人のうち31万5000人が戦死、戦車3500台のうち2200台を失い、歩兵戦闘車と装甲兵員輸送車を合計した1万3600台のうち32%に相当する4400台が破壊されたそうです」(同・記者)
傭兵を集めるロシア軍
ところが、である。日本経済新聞(電子版)は12月20日、「ロシア、侵攻長期化視野に兵力増強 ウクライナに62万人」との記事を配信した。 記事によると、ウクライナに展開しているロシア軍の兵力は何と約62万人。《動員による兵士は24万4000人。主力は、「志願兵」として参戦した契約軍人や民間軍事会社の戦闘員などが占めるとみられる》と伝えた。 要するに、ウクライナ軍がロシア軍をいくら撃破しても、次から次へと新しいロシア兵が攻めてくるというわけだ。おまけにロシアは、かなり乱暴な手段を使って兵士を集めている。 「ネパールの警察は12月6日、失業中の若者から1人あたり最大9000ドルを徴収してロシアへの密入国をサポートし、ロシア軍に入隊させたとの疑いで10人を拘束したと発表しました。また、ネパール政府は約200人の国民がロシア軍に加わった可能性があるとし、そのうちの6人の戦死を確認しました。密入国の背景には、若者の貧困があります。ロシア軍が払う数カ月分の給与は、彼らの数年分の収入にあたるそうです。ロシアはネパールだけでなくウズベキスタンやソマリアでも傭兵を集めていることが判明しています」(同・記者)
痛かった反攻作戦の失敗
これに対抗するためには──大統領も総司令官も“醜態”を見せてしまったが──確かにウクライナ軍も追加動員の必要があるのかもしれない。軍事ジャーナリストは「ロシア軍が人海戦術を採用しているのは明らかですが、現代の戦争でこんなことが行われるとは驚きを禁じ得ません」と言う。 「朝鮮戦争にはソ連の軍事アドバイスを受けた中国人民義勇軍が参戦しました。しかし、あまりにも損耗がひどく、人民解放軍の幹部が『今後は二度とソ連の軍事作戦は参考にしない』と決めたというエピソードがあるほどです。味方の損害を無視して突き進むというのは、確かにロシア軍の伝統的な“軍事ドクトリン(基本原則)”なのでしょう。ただ、ウクライナ軍を相手に人海戦術が実施できているのは、ロシア経済が意外に持ちこたえていることも大きいと思います」 経済制裁を科しているとはいえ、依然としてEU(欧州連合)はロシア産のLNG(液化天然ガス)を購入している。ロシアに“日銭”が入っているのだから、高額の報酬を示して傭兵を集めることも可能だろう。 「一方のウクライナ側は、やはり昨年6月の反攻作戦が失敗に終わったことが痛かったようです。結局のところNATO加盟国の軍事支援の足並みが揃うことはなく、ウクライナ軍は不完全な陣容で突撃したため、たちまちロシア軍の反撃に遭いました。今では榴弾砲の砲弾も不足しているという報道もあるほどです。さらに、ゼレンスキー大統領が『ウクライナ全土の奪還』を掲げているのも、やはり非現実的だと言わざるを得ません」(同・軍事ジャーナリスト)
軍部の不満
政治的には正しい発言でも、軍事的に正しいとは限らない。東部戦線でロシア軍の猛攻を食い止めながら、南部のクリミア半島に進撃するという“2方面作戦”を行える余裕は、今のウクライナ軍にはないようだ。 「ゼレンスキー大統領は優れた政治家だと思いますし、いまだにウクライナがロシアに屈服していないのは彼が常に戦い抜く姿勢を見せていたからです。とはいうものの、古来、戦争で完全勝利は稀です。普通は『どうしたら休戦が成立するか』を考えながら戦争をします。クリミア半島を諦めれば、東部戦線に兵力を集中させることも可能です。日本も日露戦争でロシア軍を撃破しましたが、ロシア全土を占領しようとは考えてもいませんでした。ウクライナ軍の幹部から『常に全領土の奪還を掲げられても困る』と大統領を批判する意見が出るのではないかと危惧しています」(同・軍事ジャーナリスト) 2024年を迎えたウクライナは、氷点下も珍しくない気候となっている。陸軍は寒さに弱いため、戦線は春まで膠着状態が続くことが予想される。
ウクライナ支援の行方
「ロシア軍も兵士の数だけは揃っているようですが、充分な訓練を受けたのかという疑問はあります。昨冬に東部戦線で損害無視の猛攻を仕掛けたのは、今年3月に大統領選が控えているためプーチン大統領が軍事的勝利を必要としたことも大きいでしょう。代償は決して小さくない可能性がありますし、3月の選挙が終われば春の訪れと共に無理な進行を開始しなくてもいいという判断を下すかもしれません」(同・軍事ジャーナリスト) となると、戦線はずっと膠着状態が続いたとしても不思議ではない。世界各国の関心がウクライナから離れてもおかしくはないという。 「アメリカ大統領選が11月に行われるからです。ウクライナ問題は政策論争としても重要性が高いと考えられます。各候補はウクライナ支援について持論を展開し、激しく議論されるでしょう。候補者によっては『今すぐウクライナ支援をやめろ』という意見を表明し、それが一定の支持を受けてもおかしくありません。ウクライナの戦場よりアメリカ大統領選の動向に関心が集まる理由です」(同・軍事ジャーナリスト) 註:ロシア軍とウクライナ軍では「巨人と少年」、両国の戦力を比較(CNN日本語電子版:2022年2月26日)
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