Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/acad7a1e44c1beb46669500e43a2d99badcf270f
米国人起業家のアート・フィンチは2021年、ブータン王国の政府高官たちに、隣国インドとの国境に位置する風光明媚な町のゲレフを、実験的な環境配慮型のスタートアップ都市に変貌させるというアイデアを売り込み始めた。 この小さな町は、世界中の起業家やイノベーターたちが、知識と富をブータンにもたらす拠点になれると彼は主張した。フィンチのスタートアップ企業であるYung Drung City(ユンドゥン・シティ)社は、ピーター・ティールのVCから出資を獲得し、人工ダイヤのユニコーンのDiamond Foundry(ダイヤモンドファウンドリー)や英国の貨物用ドローン航空会社Dronamics(ドロナミックス)、フィンランドの炭素回収技術企業Carbo Culture(カーボ・カルチャー)を含む19の国外企業から、このハイテク都市への入居の意向を取り付けていた。 このプロジェクトは、間もなく現実のものになりそうだ。同国のジグミ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク国王は12月17日、ゲレフに広さ1000平方キロメートルの経済特区を設立する「巨大スマートシティ構想」を発表し、ブータンとインドを結ぶ鉄道を建設すると宣言した。ブータン政府は、このプロジェクトに外国からの投資を呼び込むと述べている。 しかし、ティールやフィンチらは、このプロジェクトに関与していない模様だ。「外国人コンサルタントの影響下にあるブータンの指導者たちは、現在、別の実行可能とは言い難いプロジェクトを再構築している」とフィンチはフォーブスに語った。 ブータン王国のプロジェクトは、フィンチが描いたビジョンと類似してはいるものの、完全に政府が主導権を握るものに置き換えられた。同国の「ブータン・マインドフルネス・シティ」と政府内で呼ばれるスマートシティ構想は、この件に近い2人の情報筋によると、マッキンゼー・アンド・カンパニーとシンガポールの都市計画コンサルタント会社Cistri(シストリ)によって計画されているという。 しかし、このマインドフルネス・シティ計画は、ブータンの約80万人の国民から強い反対を受ける可能性がある。このプロジェクトは、以前から国民の間では公然の秘密となっており、政府による土地の強奪や現地農民の強制移住につながることが懸念されていると情報筋は述べている。 こうした懸念は、1980年代から1990年代にかけてブータン政府がこの地域のネパール系住民9万人以上を暴力的に追放したゲレフの暗い歴史に根ざしている。その多くは現在もネパールやインドで難民として暮らしている。非営利団体(NPO)のヒューマン・ライツ・ウォッチは、ブータン王国の刑務所には政治犯として30年以上拘留されている囚人が30人以上いると主張している。 起業家のフィンチは、ゲレフに「チャーターシティ」と呼ばれる、独自の憲章によって統治システムが定義される自律的なハイテク都市を作ろうとしていた。このアイデアは、反規制感情の強い投資家が多いシリコンバレーで、すぐに賛同者を見つけることができた(チャーターシティの概念は、中国の深圳や中東のドバイの都市計画に類似しているとも言われている)。 その中の1人であるティールは、自身が出資するベンチャーキャピタルのPronomos Capital(プロノモス・キャピタル)から約100万ドル(約1億4000万円)のシード資金をフィンチのプロジェクトに出資した。また、元子役でビットコインの伝道師となったブロック・ピアースもこのプロジェクトに投資した。
ティールらは政府との取引に失敗
プロノモス・キャピタルの共同創業者で、ノーベル賞経済学者のミルトン・フリードマンの孫であるパトリ・フリードマンは、フォーブスの取材に、2020年にブータンの経済大臣と会談を行い、この計画について話し合ったことを認めた。また、別のユンドゥン社の関係者も、2022年を通じてブータン政府の高官と連絡を取り続けていたと述べている。 ティールらは政府との取引に失敗 しかし、2023年にこのプロジェクトのプロモーションビデオがフェイスブックで広く拡散された後、ブータン政府はフィンチやティールらから距離を置いた。ブータンの政府首脳は4月の声明で、「これらの資料はパートナーシップの存在を偽って描いている」と主張し、政府はユンドゥン社を支持しておらず、正式な関係も持たないと述べた。 一方、ブータン政府は以前から秘密裏にこの計画を進めており、ワンチュク国王はスマートシティのアイデアを投資家に売り込んでいた。現地メディアの報道によると、4月に国王はインドのニューデリーを訪れ、ドラウパディ・ムルム大統領やナレンドラ・モディ首相と会談し、ゲレフの経済特区の創設と、長らく停滞していた両国間の鉄道プロジェクトについて話し合ったとされる。 ユンドゥン社の投資家が王室のプロジェクトから締め出された後に、誰がこのプロジェクトの出資元になるのかは不明だ。しかし、世界の複数の富豪がこのプロジェクトに興味を示している。11月のニューデリー訪問の際に、国王はインドのアダニ・グループの創業者で会長のゴータム・アダニと会談した。アダニはインスタグラムで会談の写真を公開したが、フォーブスのコメント要請には応じなかった。 国王の個人的なネットワークを知る複数の情報筋によると、米国のベンチャーキャピタリストのティム・ドレイパーもこの会話に加わっており、彼のテックインキュベーターであるドレイパー・スタートアップ・ハウスは以前、ブータンの起業家育成プログラムに関わったことがあるという。ドレイパーはブータン政府との関係についての質問に答えなかった。 イタリアのメディチ家の末裔を自称するロレンツォ・デ・メディチ王子も出資元の候補の1人で、フォーブスの取材に対し、ブータンの王室と親しく、投資機会について助言したと語っている。しかし、メディチ王子は「メガシティへの出資の件は、まだ打診されていない」と述べた。 ゲレフのスマートシティ構想は、ブータンがより確かな未来を手に入れるための最新の賭けのひとつと言える。ブータンは経済を近代化し、国外に働き先を求める若者たちの流出を食い止めようとしている。この努力の一環として、王国は暗号資産のマイニングにも注力している。フォーブスは以前の記事で、ブータンがシンガポールのビットコインマイニング大手Bitdeer(ビットディア)と提携したことを報じていた。
Sarah Emerson
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