Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/bc45d64f37dda7ed40de9c98486785b139a99746
昨年4月の1回目の緊急事態宣言発令から1年以上が経った。感染拡大が続くなか、東京都の人口が転出超過となる月が多くなり、「脱東京」を掲げる記事が散見されるようになった。本当にそうした流れが進んでいれば、東京一極集中にも変化が見られるはずだ。 この記事の写真を見る 実態はどうなっているだろうか。 2021年4月下旬に公表された総務省の「2020年住民基本台帳人口移動報告」の詳細データ(参考表)と2021年4月1日現在の東京都人口(住民基本台帳による世帯と人口)の2つを基に、「東京の人口」を検証してみた。
■東京の「日本人人口」はむしろ増えている 結論から言おう。初の緊急事態宣言が出た2020年4月と、3回目の緊急事態宣言が出た今年4月のデータ(それぞれ1日時点)を比較すると、コロナ禍の1年で「東京の日本人人口」は依然として増えていた。 東京都のホームページに公開されている住民基本台帳ベースの4月1日時点の人口は次のとおりだ。 外国人を含めた総人口は2万5443人の減少だが、日本人に限ってみると、コロナ禍にもかかわらず7440人の増加となっているのだ。都の人口減少ばかりが注目されているが、筆者はこの状況下でなお日本人人口が増えていることに驚きを感じた。
都の発表を受けてあるメディアは「東京4月人口2万5000人減少」という見出しを掲げ、その背景として<新型コロナの感染拡大とともに都外に転出する人が増えた>と報じた。最近、目につく論調である。しかし内訳をみると、実態は少し異なることがわかる。 繰り返すが、「2万5000人減少」は外国人を含む総数である。日本人に限ってみると7440人の増加なのだが、その点にはいっさい触れていない記事も見られた。
確かに、都の推計として、3月中に都外に移った日本人は6万7007人で前年同月比6019人増えている。しかし、転入した日本人は前年同月比で減ってはいるものの9万1966人となり、転入者のほうが約2万5000人多い結果となっているのだ。
こうした事実に言及せず、3月の日本人転出者が増加していることを示すことで、「コロナ禍で転出増」を印象付ける記事が散見された。 ■総務省のレポートでも… さらに、総務省統計局のレポート「新型コロナウイルス感染症の流行と2020年度の国内移動者数の状況(2)」でも、<2020年度の東京都の「転入超過数」は7537人で、2019年度の8万3455人から大幅に縮小し、前年度の1割にも満たない>と指摘している。
確かにそのとおりなのだが、このレポートが言及している数値も、あくまで日本人と外国人の移動者数を合算した総数である。2020年度の東京都の日本人に限った「転入超過数」を算出すると1万5237人。外国人を含む7537人と比べると印象はずいぶん変わってくる。 コロナ禍の1年間を通じて、東京都の「転入超過」の総数が大きく減ったのは事実だが、外国人の「転出超過」という要因を見落としてはならない。 コロナ禍にもかかわらず、東京都の日本人人口は増え続けているのが現実だ。
「コロナ禍で東京脱出」という現象は、確かに一部では存在しているが、世の中の流れを変えるような潮流とまではなっていない。むしろ、コロナ禍でも人口流入が続き、東京都には「村」1つに当たる規模の日本人が増えているのだ。 東京都からの転出者の増加は、人口減少のイメージを与えるが、数字のマジックのようなもの。総体として「一極集中」の構図に大きな変化が見られないことを見逃してはならない。 次に、東京23区(東京都特別区部)の状況はどうなっているかを住民基本台帳ベースの数値で見てみよう。
総人口は約3万人の減少だが、日本人は481人の増加となっている。23区も微々たる数字ではあるが、日本人人口は増えている。区部の状況をもう少し分析してみると、日本人人口が増加したのは12区、減少したのは11区と拮抗している。 人口増加が多い区は、 ①江東区 2793人 ②品川区 2123人 ③台東区 1887人 ④中央区 1698人 ⑤墨田区 1085人 の順となっている。増加率で見ると千代田区の1.60%(1014人増)が最高だ。
新築のタワーマンションなどが建つエリア、再開発が進むエリアを中心に、富裕層を中心とした都心回帰が続いているのだろう。 興味深いのは、人口10万人当たりのコロナ感染者数がダントツに多い新宿区の人口増減だ。日本人は872人増となっている一方で、外国人は前年の4万219人から3万6354人へ3865人もの大幅減少となっている。 減少数で見ると①韓国943人 ②中国805人 ③ベトナム345人 ④ミャンマー343人 ⑤ネパール332人と、アジア系住民の減少が目立つ。
■どこから新宿区にやってきた? 一方、新宿区に転入してきた日本人はどこから来ているのだろうか。住民基本台帳人口移動報告の2020年参考表を基に、日本人転入者2万9479人の移動状況を都道府県別に調べてみると、こんな結果が出た。 ①東京都 1万5428人 (特別区部1万3051人) ②神奈川県 2411人 ③埼玉県 1885人 ④千葉県 1444人 ⑤大阪府 907人 ⑥愛知県 622人 ⑦福岡県 576人 ⑧北海道 543人
新宿へ転入した人の半数は都内からということだ。そのほかは首都近郊や大都市圏からとなっている。コロナ禍が長期化するなかでも、全国から人を引きつける新宿の魔力だろうか。ちなみに2020年(1~12月)の新宿からの日本人転出者は2万8447人で、1032人の転入超過だった。 都内の人口増減で注目は、26ある市部の日本人人口の増加だ。小金井市1691人、三鷹市1515人、国分寺市1388人など合計で7737人も増えている。23区よりも周辺市部の増加が東京の人口増につながった形だ。
東京都の人口増減、転入転出状況を中心に、コロナ禍1年の人の流れを検証してみたが、転入超過数こそ減ったものの「東京一極集中」の大きな流れが変わっていないことがおわかりいただけたと思う。 もちろん、一部に脱東京の動きは出てきているが、エッセンシャルワーカーの人々、リモートワークに消極的な企業に勤務する人々、受験を控えた子どもを抱える世帯、そして非正規で働いている人々、単身高齢者など、コロナ禍だからといって簡単に東京を離れられない人が多い。
リゾート地や首都近郊の広い一戸建てでリモートワークといった新たな生活スタイルを取り上げる記事が目立つようになってきたが、まだまだひと握りの人々の動きだろう。 ■都の調査で「東京は住みよい」が6割 最後に、興味深い意識調査の結果を紹介しよう。東京都がコロナ禍の昨年秋に実施した「都民生活に関する世論調査」だ(有効回収標本2273)。 調査項目の中に「東京の住みよさ」「定住志向」があった。住みよさに関しては57%が「住みよい」と回答し、「住みにくい」はわずか6.8%だった。「東京に今後もずっと住み続けたいか」という質問には、なんと70%が「住みたい」と回答している。「住みたくない」は10%しかなかった。
むろん、一調査の結果にすぎないが、「脱東京」とはやし立てているのはメディアだけなのかもしれない。 とはいえ、東京からの転出者はどこへ向かっているのか。次回は都民の転出先に焦点をあててお伝えしたい。
山田 稔 :ジャーナリスト
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