Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/65d0cbb90aa7688061b31c695f396ed4152de175
IOC会長の来日延期の波紋
5月7日、政府は東京都、大阪府、兵庫県、京都府の緊急事態宣言を31日まで延長し、また愛知県、福岡県も対象にすることを決めた。 7つの県の蔓延防止等重点措置も31日まで延長し、新たに、北海道、岐阜県、三重県を加え、宮城県は対象から外した。 4月25日に始まった緊急事態宣言は、5月11日までの期限であり、政府は短期決戦で感染を抑え込む腹づもりであった。しかし、その目論見は見事に外れ、各地で感染が爆発的に増え、大阪など医療崩壊状態に陥ったのである。 東京五輪開会まで2ヶ月半しかない。各競技のテスト大会も行われているが、万全の感染対策を講じているとはいえ、極めて異常な準備状況だと言うほかはない。順調に感染が鈍化して、予定通り緊急事態宣言が解除されても、もう6月である。選手にしても、思い通りの準備や予選ができるとはかぎらない。 しかも、緊急事態宣言下にあるのは日本だけではなく、インドは想像を絶する悲惨な状況になっている。1日の感染者が41万人を超え、死者も4千人という事態であり、病院も崩壊し、酸素吸入もままならず、火葬に使う薪も不足するという状況である。 この事態がさらに続くならば、インド選手の参加は困難になるであろう。隣国のパキスタンやネパールで感染が拡大しており、インド型変異株の感染力の強さが原因の一つだと思われる。 そのような中で、アメリカのワシントン・ポスト紙は5日、日本政府に五輪中止を勧告した。そして、日本国民に負担ばかり求め、収益は自分でとるIOCのバッハ会長を「ぼったくり男爵」と揶揄し、IOCはカネが全てだと批判した。 「開催国を食い物にする」とIOCを非難し、日本は「損切り」をすべきだとたたみかけた。IOCは、中世以来のヨーロッパの貴族社会であり、王侯貴族のいないアメリカの新聞だからこそ吐けた正論である。日本は、全マスコミが東京五輪の公式スポンサーになっており、正しい事も直言できないのである。 バッハ会長は17日に来日し、広島へ行って、聖火リレーを視察するという予定を組んでいた。しかし、広島でもコロナ感染が急増しており、9日には193人と過去最多を記録している。お隣の岡山県189人も、8日に189人と過去最多であった。広島県では、公道での聖火リレーを全て中止することを決めた。 そもそ日本国民には沿道に出てこないように要請しているのに、IOC会長の視察もないだろう。 そのような事情をやっと理解したのか、17日の来日は取りやめ、6月に来日を延期するそうだ。しかし、東京五輪の責任者である調整委員長のジョン・コーツ副会長は、五輪は予定通り開催すると明言している。 読売新聞の世論調査(7~9日実施)によると、東京五輪について「中止」が59%、「開催」のうち、「観客数を制限して」が16%、「無観客で」が23%で合計39%である。緊急事態宣言の対象となっている6都府県では「中止」が64%、東京都では「中止」が61%である。「中止」が6割というのは大きい。 同じ時期に行われたNHKの世論調査でも、「中止」が49%、「観客数を制限して行う」が19%、「無観客」が23%、「これまで同様開催」が2%である。世論は、中止に大きく傾いている。 しかし、東京五輪を中止する権限はIOCのみが持っており、開催都市の東京都も、日本国も何の権限もない。中止を自ら言い出した者が賠償金を支払う羽目になる。 日本が3兆円もの開催費用を投じたのは、33兆円の経済効果を期待してのことである。海外からの客も来ず、無観客試合では経済効果も減少する。中止にすれば、大きな損を生み、まさに「損切り」ということになる。 国民の歓迎ムードもすっかり無くなり、虚しい感じの大会となってしまう可能性もある。菅首相が言うように、「IOCがもう開催を決定している」としても、行くも地獄、引き返すも地獄のような感じである。 1916年のベルリン五輪、1940年の東京五輪、1944年のロンドン五輪は世界戦争のために中止になった。コロナとの世界戦争を遂行中の今、中止にしても非合理ではない。 2024年東京→28年パリ→32年ロサンゼルスと順送りするのも一つの手だと思うが、来日中止の余儀なきに至った「ぼったくり男爵」はどう考えるのだろうか。
舛添 要一 (国際政治学者)
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