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『神々の山嶺』集英社 谷口ジロー/漫画 夢枕獏/原作 今回紹介するのは漫画版だが、もともとは夢枕獏による小説で、谷口ジローにより漫画版が作画されている。また映画化されたことでこの作品を知った人もいるだろう。 GW半ば、ある山での遭難事故のニュースが流れ心臓が止まりそうになった。私の友人がその山に同じ日程で入っており、ニュースで心肺停止が伝えられていた人物と年代も一致していた。友人は天候悪化のために途中で引き返し無事だったが、その下山途中に、後に遭難し亡くなってしまった人物とすれ違っていたとの事だった。身近な人が山で亡くなるという事があり得たかも知れないと思うと、山を決して軽んじてはいけないと改めて思い知った。 今回のニュースをきっかけに真っ先に思い出したのが本著である。私も登山は楽しむ。ただ私のように行楽登山をかじる程度の人間にとっては想像もつき得ぬ壮大なスケールで山の魅力と魔力が描かれており、そこに憑りつかれてしまって何度も読んでいる。 ストーリーは、日本からエベレストを落としにやってきた登山隊の撮影をしていた日本人カメラマンが、ネパールの首都カトマンドゥにある登山用具店で1台の中古カメラを見つけるというところから始まる。それは、エベレストの登頂史上を大きく変えるかも知れないシロモノだった。そのカメラをきっかけに出会った人物が、謎を残して日本から消えた伝説の登山家だった。そこから運命が動き出していく。 これは地上で一番神々に近い場所を目指し、ひたすら山に挑む人間達のドラマだ。情景描写がリアルである。希薄な空気の中、雪と氷の岩肌をすがりつく人間たちの一つひとつの息遣いが聞こえてくるようだ。マイナス30℃、巨大な氷壁にぶら下げられながらのビバークの様子などは読んでいるこちらの身体が凍えてしまう。登山の途中で落下しザイルで宙づりになったまま何時間も失神してしまう場面や、巨大な雪崩に瞬時に巻き込まれる場面なども出てくる。 登場する山々の美しさに惹きつけられ、今すぐにでも山を登ってみたいという思いに駆られる一方、毅然とも無情とも言えるそれらの山に対し我々ちっぽけな人間なんかが決して手を出してはいけないのだ、とも思わせられる。 それでも、神に愛されているか否か、今日も人間たちが山に挑む。人類未踏の山、未踏のルート、未踏の時期、無酸素登頂、単独登頂を目指して。なぜそこまでして人は山に向かうのか。「そこに山があるから」だけではない答えがある。 男女が織りなす恋愛やサスペンス要素も混じりストーリー展開も非常に面白い。読み終わったあとに山に向かいたくなるか、はたまたその反対か。今はコロナ感染拡大にてどちらにしろなかなか出かけられないが、本著の中で壮大な登山を体験をするのも良いアイデアかも知れない。
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