Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/bcd2c9dd09e420fdb68b8006500768f63cf7f6e3
インドでは新型コロナの感染者が急増し、5月9日の時点で1日の新規感染者が約40万人、同死者数が約4000人にまで達し、世界中のメディアが医療崩壊の惨状を伝えている。日本政府はインド、パキスタン、ネパールからの入国者について、入国後の施設隔離期間を6日間に延長していたが、さらに14日0時からは同3か国に過去14日以内に滞在していた外国人について、入国を原則拒否することを決めた。水際対策を強化しているが、実効性は未知数だ。
インドで大流行しているのがインド型と呼ばれる変異株(「L452R」と「E484Q」の2つの変異)で、すでに日本国内でも21例(4月27日時点)が確認されている。 インドの累計感染者数は2300万人で、アメリカに次いで世界第2位。だが、人口が14億人近いインドだけに、累計の感染者数は人口比で言えば1.7%と少ない。アメリカ(累計感染者数3280万人は人口の約10%)やフランス(同580万人は人口の約8.6%)、イギリス(同450万人は人口の約6.75%)など欧米諸国に比べれば低く抑え込まれていたと言える。 総じてアジアの国々は、欧米諸国と比較して被害が小さく、新型コロナに強い「ファクターX」なる何かで守られているのではないかと言われてきた。ところが、このインド型変異株が生まれると、今年3月ごろからインドでは感染が爆発的に増え、前述したように1日に40万人もの新規感染者が出ている。 日本では関西でイギリス型変異株(N501Y)が主流になり全国に広がりつつあるが、現在のインドの状況を見て、「日本でもインド型変異株が流行れば、インドと同じ状況になるのではないか」という不安が広がっている。 このインド型変異株は、どれほど警戒すべきものなのか。『コロナ脳』『京大 おどろきのウイルス学講義』などの著書・共著書が話題の京都大学ウイルス・再生医科学研究所、宮沢孝幸准教授にインド型変異株の脅威について訊いた。 「インドで感染爆発が起きていると報道されていますが、増えたといってもイギリスやアメリカ、ドイツなどのピーク時に比べれば全然少ない(*)。感染者急増でPCR検査が追いつかなくなっているともいわれていますが、それを含めても欧米諸国の水準には達していないと考えられます」 【*注:人口100万人当たりの1日の新規感染者数(7日間移動平均)のピークで比較すれば、インドは283人であるのに対し、イスラエルは996人、イギリスは881人、フランスは825人、アメリカは756人(Our World in Data参照)】
宮沢准教授が続ける。 「これから他の国でインド型変異株が流行るのかも不明です。(同型の変異株は)日本を含め、すでに世界19か国で確認されていますが、今のところ既存の株に置き換わるほど感染が拡大しているという事実はありません。 一般論として、変異して弱毒化したウイルスのほうが、感染が広がりやすい。強毒化すると宿主がすぐに発症して寝込んで動けなくなったり、死んだりするので、ウイルスをばらまけなくなるからです。だから、もしインド型変異株が置き換わって流行るのなら、弱毒化している可能性が高い。日本で増えているイギリス型変異株も、感染率や重症化率が高いと言われていますが、陽性者は増えている一方で、発症率は下がっています」 大雑把な計算だが、インドの1日当たりの新規感染者数が40万人で同死者数が4000人であれば、致死率は1%。同じ計算方法で比較してみると、たとえば、アメリカの新規感染者ピークは2021年1月12日の約25万人で、この日の死者数は約3400人なので同1.4%、ブラジルのピークは2021年3月26日で感染者約7万6000人に対し死者は約2400人で、同3.2%である(Our World in Data参照)。 しかし、仮に弱毒化して重症化率や致死率が下がっていたとしても、感染者が大幅に増加すれば、それに伴って重症者や死者の絶対数が増える事態は避けられなくなる。宮沢准教授は昨年来、ウイルスに曝露される量を100分の1にすれば感染は防げるとする「100分の1作戦」を提唱し、「石鹸は不要だが、こまめに手を水洗いする」「エアコンをかけていても換気する」といった対策を推奨している。 緊急事態宣言も3度目ともなれば、世の中の空気が緩むのは避けられない。変異株の流行には改めて気を引き締め直し、実効性のある感染対策を徹底する必要があるだろう。 ◆取材・文/清水典之(フリーライター)
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