Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/fa9a1b76cb1468d709e2a1b0cc83f736fbcc5e8c?page=3
インドでの新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。「インド株」ともいわれる感染力の強い変異株はインド国内で猛威を振るうのみならず、新たな感染の波が南アジアや東南アジアにまで広がっている。「コロナ独り勝ち」と自信を見せていた中国だが、周辺国が最悪の状況に陥っていく中で、ある懸念が広がっている。(ジャーナリスト 姫田小夏) 【『インド、ネパールの1日当たりの新型コロナウイルスの新規感染者数の推移』はこちら】 ● インドの感染拡大、深刻な事態に… 今年5月7日、インドの累計感染者数は2149万人を超えた。4月7日には1280万人だったが、わずか1カ月で868万人増えたことになる。WHO(世界保健機関)の専門家は「インドの感染者数は、報告されたものより少なくとも20~30倍は多い」とも推計しており、事態の深刻さを訴えている。 2月、インドの新規感染者数は1日当たり1万人ペースで推移していた。しかし3月中旬から徐々に増える傾向を見せ始め、4月初旬には1日当たり10万人台を突破した(参照:「Our World in Data」)。 インドの感染拡大を許した要因として、政府の拡大防止措置や国民の防疫意識の不十分さ、変異株の感染力の強さが指摘されるが、これ以外にも、政治や習俗に関わる要因が挙げられる。特に、今年のクンブ・メーラ祭は、12年に一度の大祭に当たり、インド中から修行者が数百人規模で集まってガンジス川で沐浴したことが変異株の拡散につながった。 5月6日、インディアン・エクスプレス紙などインド各紙は、インド各地で発見された変異株は3532種類にも上るとも報じている(参照)。 そんなインドの状況を、自分事として懸念する声が中国でも聞こえてきている。中国では厳しい対策措置と情報管理で感染を抑えているというが、「インドの感染拡大が中国に伝播するのは時間の問題だ」という声があるのだ。なぜなら、日本とは異なり、周辺国と「陸続き」になっているからだ。
● インドから陸続き、ネパールで感染拡大した理由 インドは、バングラデシュ、ネパール、ブータン、パキスタン、中国と国境を接し、陸続きの移動ができる。それが今回の「あだ」にもなっている。 例えば、3月28日・29日に行われたホーリー祭はネパールにも共通する宗教行事で、ネパールからインドに訪れた信者の間で感染を引き起こした。5月7日現在、ネパールの累計感染者数は36万人にまで拡大している。 「Our World in Data」(オックスフォード大学)のチャートを基に、ネパールの2020年1月27日~2021年5月7日までの1日当たりの新規感染者数(7日間の平均、報道されている数字とは誤差がある)を追ってみると、昨年10月半ばをピークに今年3月15日まで減少傾向が続いていたが、4月17日は561人に増加したのちわずか20日後の5月7日には7773人にまで増えたことがわかる。 原因は国境管理の緩さにもあった。インドとネパールの間には、長くて開かれた国境が続いている。国境とはいっても出入国にパスポートやIDカードの提示を必要とせず、人の往来がほとんど管理されていない地帯もある。実際、インドの感染拡大を恐れてネパールに逃げ込んだ避難民もいる。
● 最悪の状況に直面する周辺国 ネパール以外の南アジアの国々も最悪の状況に直面している。(参照:Our World in Data) インドの南西に位置する諸島国のモルディブは、インドから離れているにもかかわらず、4月中旬以降、急激に新規感染者が増加し、5月8日には累計感染者数は3万4724人となった。美しい景観を資源として観光業に依存するモルディブは、「インドの感染拡大から避難する富裕層を受け入れてきた」(CNN、5月8日)。これが感染拡大の最大の原因だとされている。 インドの南東に位置する島国のスリランカは、4月初旬まで減少傾向をたどっていたが、5月7日の新規感染者は4月初旬の10倍の規模に拡大した。 インドの北東に隣接するブータンは、2020年12月27日に1日25人の新規感染者を出したが、その後感染者はほぼゼロの状況だった。しかし、5月10日には新規感染者数は17人に増えた。 インドの東に隣接するバングラデシュは、1日当たりの新規感染者数が2月13日に357人にまで減少したが、2カ月後の4月9日には7000人超に急増した(現在はピークアウト)。 インドの西に隣接するパキスタンは、4月23日には5694人と二番目に高いピークに達した。 東南アジアでも、タイやカンボジアなどで感染拡大している。これらはいずれも中国を取り巻く周辺国だ。
● 中国を取り巻く変異株 感染力の強い変異株には、国境という人為的な境界線は通用しない。 中国は今、インドを発生源とする変異株に大騒ぎで、「インドの感染拡大が中国に伝播するのは時間の問題だ」と懸念する “中国人インドウォッチャー”もいる。“アジアで最も安全な中国”に避難民が押し寄せてくる事態を想像しているためでもある。 そんな中、中国疾病予防コントロールセンターの専門家は「中国にそれほど影響をもたらすものではない」と楽観視している。国民を不安がらせないといった配慮もあるだろうが、空港や港湾などの水際で、「PCR検査」や「抗体検査」「14日間の集中隔離」、さらに「7日間の自宅での健康観察」など「これだけ厳重な措置を講じている」といった自信があるからだ。 だが、中国への入国は必ずしも空港や港湾からとは限らない。雲南省とミャンマーの国境は尾根線が国境線を成していることが多いが、国境はあっても両側の国における居住者は同じ民族というケースは珍しくない。このようなアジアの緩い国境警備体制において、避難民がもたらす感染拡大を封じ込められるかは未知数だ。 実際、雲南省瑞麗市では、3月29日にPCR検査でミャンマー籍の男性が陽性と判定された。「政変による混乱が発生したミャンマーから、避難民が川を泳いで逃げ込んだ」ともいわれ、同市では外部からもたらされたコロナウイルスで、新規感染者が増加した時期があった。こうしたことを直近で経験しているだけに、一部の中国人は「インドの避難民も国境をすり抜け中国に逃亡してくるのではないか」と強い懸念を示しているのだ。
● 「一帯一路」構想にも暗い影 インドの変異株拡大の影響は「一帯一路」構想にも及ぶ。 というのも、中国が最重要視する協力国といえばパキスタンやバングラデシュ、ミャンマーをはじめとする南アジアや東南アジアの国々だが、このまま終息を見なければ、プロジェクト計画が大幅に狂う可能性もあるのだ。 医療強国を目指す中国は、「健康のシルクロード」を掲げて、途上国を中心にワクチンや医療用品の支援を熱心に行ってきたが、今回のインドの感染爆発により対象となる支援国は数を増やしそうだ。医療用品のみならず、場合によっては人的支援も検討しなければならないだろう。サプライチェーンも大きく影響される。インドは中国のスマホメーカーにとって重要な戦略拠点だが、すでにその供給体制にも累が及んでいる。 “独り勝ち”といわれた中国も、周辺国で果てしなく続くコロナウイルスの感染拡大によって消耗戦に引きずり込まれる気配だ。 さて、当コラムは「China Report」というタイトルがあるので、本来ならばここで筆を置くところだが、最後に、日本の状況についても言及したい。日本も変異株による感染拡大を封じ込めることができなければ、第4の山を形成し、過去最悪の事態に陥ってしまうだろう。現在、東京オリンピック・パラリンピックの是非が取り沙汰されているが、周辺のアジアの国々は混乱と苦しみの真っただ中にある。 こうした状況でゲスト国が安全な状態で参加ができ、またホスト国が安全な状態でゲストを受け入れられるとはとても考えにくい。日本に今、必要なのは「山を下りる勇気」ではないだろうか。日本政府には責任ある決断が迫られている。
姫田小夏
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