Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/8115588c7199adc94973d09d32744a34fccb189b
新型コロナウイルス感染症対策で、世界で最も成功している国の1つがベトナムだ。1億近い人口を抱えながら、累計感染者数は5月16日時点で4200人弱に過ぎない。オーストラリアのシンクタンク「ロウイー研究所」が98カ国・地域を対象に実施し、今年1月に発表したコロナ対策の有効性に関する調査でも、ニュージーランドに次いで第2位の評価を受けている。ちなみに日本は45位である。
しかし、最近になってベトナムでも次第に感染者が増えつつある。抑え込めていた市中感染も、4月27日以降に1100人以上が見つかっている。5月16日には過去最高の187人の市中感染者も確認された。こうした感染拡大の元凶として見られているのが、日本からの帰国者たちだ。 日本とベトナムの往来は、1月に日本で緊急事態宣言が発令されるまで一方通行状態にあった。日本発の定期便は運行が停止し、母国への帰国を希望するベトナム人を乗せたチャーター便がたまに飛ぶ程度だった。一方、ベトナム発の便は運行され、日本へ向かう出稼ぎ労働者で混雑していた。昨年11月から1月にかけ日本へ新規入国したベトナム人は、実習生や留学生を中心に5万人近くに上ったほどだ。 そんな状況が、緊急事態宣言以降に一変した。実習生らが入国できなくなったため、来日するベトナム人が激減したのだ。そして逆に、日本を離れるベトナム人が増えていく。チャーター便の本数が増えたからだ。 そうしてチャーター便で帰国するベトナム人の間で、コロナ感染者が相次いで見つかっている。たとえば、4月12日からの1週間で、ベトナムに入国した89人の感染が判明しているが、そのうち39人は日本からの帰国者だった。この頃に飛んでいたチャーター便は週2~3本なので、感染者の割合は決して少なくない。東京都内の会社を辞め、4月にベトナムへ帰国したフイさん(20代)が言う。 「日本を出る際には、簡単な抗原検査だけでチャーター便に乗れました。ベトナム人実習生や留学生には感染者が少なくない。だから抗原検査は陰性でも、ベトナムに到着後のPCR検査で感染が判明する人が続出しているのです」 抗原検査は短時間で結果が出るが、PCR検査と比べて精度が劣るとされる。 日本からの出国は簡単にできても、新型コロナに対するベトナムの水際対策は厳格だ。入国後は2週間、軍の施設もしくは指定のホテルで強制的に隔離される。その間、計3回のPCR検査を受け、陰性が証明されてやっと施設などから出られる。4月中旬に感染が判明した「39人」の日本からの帰国者も皆、入国直後もしくは隔離期間中だった。 そんな中、同月末になって、ベトナム当局に衝撃的は事例が判明した。日本からの帰国者の1人が、隔離を終えた後に発熱症状を訴えたのだ。そして検査で、コロナ感染が発覚した。 この帰国者と濃厚接触があったと見られる人から、少なくとも数人が感染したことがわかっている。その後、ベトナム各地で市中感染者が急速に増えていくのである。 ベトナムには、国境を接する中国などからの密入国が絶えない。以前は密入国者がコロナをベトナム国内に持ち込むケースもあったようだが、少なくとも現在、中国では感染は抑え込まれている。つまり、ベトナムにおける最近の感染拡大は「日本由来」の疑いがある。ホテルでの2週間の隔離を経て、現在はハノイの自宅に戻っているフイさんはこう話す。 「ベトナムでは、『日本から戻った人は危ない』というイメージが広がっています。日本で東京や大阪といった人が『危ない』と見られているのと同じです」 ベトナム政府の動きは早かった。5月5日、入国者に義務づけていた2週間の隔離期間を3週間へ延長することを決めたのだ。
スマホを部屋に置いていれば、外出してもわからない
ベトナムでは3月からワクチンの接種が始まっているが、1回目の接種を終えた人は5月15時点で100万人に満たず、日本の5分の1程度に過ぎない。にもかかわらず、感染者数を抑制できているのは、厳格な水際対策のおかげである。 日本も以前から入国者に対し、2週間の“待機期間”を設けてはいる。だが、ベトナムのように指定施設で隔離されるわけでもなく、本人の「自主性」任せた“待機”要請に過ぎない。 今年1月に首都圏の1都3県に緊急事態宣言が発令される以前は、ベトナム人などの実習生や留学生はPCR検査すら受けず入国できていた。ベトナム出発前も、そして入国後も検査が全く課せられないのだ。11月、東京都内の日本語学校に留学するため来日したベトナム人女性は、筆者にこう話していた。 「アパートまで、やろうと思えば電車やバスで移動できました。2週間の待機中は、スマホに入ったアプリを通じ、私の居場所がチェックされることにはなってはいた。でも、スマホを部屋に置いていれば、外出してもわからない。私も買い物などで、普通に出かけていました。ベトナム(の水際対策)とはあまりに違うので、心配になったほどです」 事実、最近になって「1日最大300人」が自宅などでの待機要請に従っていなかったことが判明している。こうした甘い対応が、昨年末から年明けにかけての感染拡大をもたらした可能性が高い。 政府が昨年6月から一部外国人に実施してきた入国制限緩和措置こそ、1月の緊急事態宣言によって停止された。だが、外国人の入国が完全に止まったわけではない。日本政府観光局(JNTO)が発表している「訪日外客数」によれば、今年3月には推計値で1万2300人の外国人が来日している。その中には、2月下旬から変異株の感染が急速に拡大していたインドからの700人も含まれている。 政府がインドを「新型コロナウイルス変異株の流行国・地域」に指定したのは、4月28日になってからのことだ。しかし指定を受けても、入国当初の3日間を指定の宿泊施設で過ごす必要があるだけだ。入国後の3日目にPCR検査を受け、陰性ならば解放され、自宅などで2週間“待機”すればよい。 ベトナムの場合、「2週間」の隔離でも危ないと判断し、強制的な隔離期間を3週間に延長した。それと比較し、3日間の隔離はかなり甘い。
国際基準に沿う水際対策は必要
米国は5月1日、欧州諸国や中国、ブラジル、南アフリカなどを対象に実施している入国制限措置にインドも加える決定をバイデン大統領が下した。自国民もしくは米国の市民権を持つ者を除き、入国を実質禁止したのである。台湾も5月4日、過去14日間以内にインドに滞在歴のある外国人の入国を停止している。 政府の対応に批判が相次いだのも当然だろう。すると政府は5月10日、インドなど変異株流行国からの入国者に対し、宿泊施設での待機期間を3日から6日間に延長した。しかし、それでも批判は止まない。そのため14日になって急きょ、インド、パキスタン、ネパールの3カ国に過去14日以内に滞在した外国人は、在留資格があっても入国を拒否することになった。 だが、感染力の高さが指摘されるインド型の変異株は、すでに日本でも市中感染が広まっている可能性が高い。5月初旬に東京医科歯科大学付属病院に入院した40代男性から、外国への渡航歴がないにも関わらずインド株が確認されてもいるのだ。 年明けまでの入国制限緩和措置は、新型コロナ「第3波」につながった。そして以降も続いた水際対策の甘さが「第4波」をもたらし、3度目の緊急事態宣言発令となったことは明白だ。 筆者は何も、外国人の入国を完全に止めろと言いたいわけではない。しかし入国を認めるのではあれば、少なくとも国際基準に沿う水際対策は必要だ。ベトナムという「成功モデル」と比較しても、日本の水際対策は実効性に乏しく、しかも後手を踏み続けている。いくら緊急自体宣言で国内の「人流」を制限しようと、肝心の水際がこうでは感染拡大が止まるはずもない。 コロナ感染が抑え込めなければ、そのぶん経済への悪影響は長引く。そのことは、最大の外国人労働者供給源となっているベトナムとの関係においても言える。緊急事態宣言下では、日本が欲する出稼ぎ労働者も受け入れらない。とりわけ農業や建設業などでは打撃は深刻だ。 そして影響は、新規の入国が止まるだけに留まらない。コロナ禍の日本に愛想を尽かし、日本から離れていく外国人も増えているのだ。
出井康博 (ジャーナリスト)
0 件のコメント:
コメントを投稿