Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/45b272d0420a4f81b8cc6d2173523dde2e31a338
<ワクチンの大量接種でようやくコロナを抑え込んだイギリスの一部でインド変異株の感染拡大が始まった>
[ロンドン発]大規模なワクチン展開で1日当たりの新たな死者が一桁に落ちたイギリスのボリス・ジョンソン首相は14日、インドで発見された感染力が非常に強いインド変異株(B.1.617.2)が英イングランド北部ボルトン、北西部ダーウェン、ブラックバーンで拡大しているとして正常化のロードマップを遅らせる可能性に言及した。【木村正人(国際ジャーナリスト)】 【動画】ゲームにあらず、降り注ぐロケット弾を正確に捉えるイスラエルの迎撃ミサイル インド変異株がワクチンの効果を弱める証拠がないため、ジョンソン首相は英予防接種合同委員会の助言に従い50歳以上への2回目の接種を加速し、インド変異株の感染が広がる地域では2度の接種期間を12週間から8週間に短縮する方針を打ち出した。17日からロードマップのステップ3として飲食店の屋内営業や大型イベントを再開するものの、来月21日の正常化には黄信号が灯る。 英内閣府ブリーフィングルームA(COBRA)で行われる緊急事態対策委員会に科学的助言を行う緊急時科学的助言グループ(SAGE)は今月13日に開催された会合の詳報を翌14日、異例のスピードで公開した。バース大学のキット・イエーツ上級講師(数理生物学者)は「科学者は正常化の日程について私たちに何かを伝えようとしている」とツイートした。 ワクチン予防効果を弱める恐れ SAGEは「特に懸念されるインド変異株の感染拡大はB.1.1.7(英変異株)より速いのは間違いない。インド変異株の感染者は1週間以内に倍に増えており、英変異株より最大50%も感染力が強いとみるのが現実的だ。インド変異株の感染が広がっている地域で、感染防止対策を緩和すれば感染はさらに急激に広がるだろう」と指摘する。 インド変異株の感染力が英変異株より40~50%強いと想定したSAGEのモデルでは、ステップ3の屋内営業再開だけでもこれまでのピークを上回る入院患者が発生する。ステップ4として6月に正常化に踏み切れば、さらに入院患者は膨れ上がる。インド変異株は、ワクチンの効き目がある英変異株とワクチンの効果を弱める南アフリカ変異株の間に位置する。 このためインド変異株は重症化や死亡リスクよりもワクチンの感染予防効果を弱める恐れがあるとSAGEは分析する。インド変異株が流行している地域の入院患者数はまだ増えていないことを理由に、ジョンソン首相はワクチン展開の加速と週2回の自己検査による変異株のあぶり出し、隔離の徹底でステップ3に進む判断を下したが、SAGEは否定的だ。 インド変異株の感染力は脅威である。コロナウイルスのゲノム解析を行う英ウエルカム・サンガー研究所のデータを見ると、英変異株が昨年11月以降、急激に拡大。今年3月には100%近い勢力を占めるようになった。インド変異株の勢力は現在まだ6.1%だが、英変異株より50%も感染力が強いとなると2~3カ月で100%近い支配勢力になるだろう。
英変異株も手に余る日本で流行したら
ベルギーのルーベン・カトリック大学のトム・ウェンセリアーズ教授(生物学・生物統計学)がウエルカム・サンガー研究所のデータをもとにイングランドの9地域でどれだけ急速にインド変異株(ピンク色、B.1.617.2)が広がっていくかを予測し、ツイートしている。 イギリスでは政治の手抜かりで死者15万人を超える欧州最大の被害を出した。ライフサイエンス分野の科学者や全市民に無償で医療を提供するNHS(国民医療サービス)の努力でワクチンの迅速な開発と展開、変異株の探知に成功し、正常化に向け着実に歩みを進めてきた。しかし未知のウイルスに根拠のない素人の楽観ほど恐ろしいものはない。 SAGEが警告するようにインド変異株が大流行し、第2波のピークを超える入院患者が発生したら、犠牲者はさらに膨れ上がるのは必至だ。ロンドンを流れるテムズ川沿いにある「白衣の天使」ナイチンゲールゆかりのセント・トーマス病院の壁には犠牲者一人ひとりを悼む小さなハートが描かれている。筆者より若い命もたくさんある。 ジョンソン首相はインド変異株による入院患者の増加など医療が逼迫する兆候が見られたら即座に立ち止まり、後退する勇気を持つべきだろう。幸いにも筆者は生き残り、2回のワクチン接種を済ませたが、もうあんな悲劇は繰り返してほしくない。ステップ2(屋外営業)に戻ったり、ステップ2とステップ3の間の対応を設けたりすることもできるはずだ。 英ではコロナ対応を検証する調査委設立 イギリスではコロナ対策に落ち度はなかったかを検証する調査委員会が来年設けられる。2024年に予定される次期総選挙をにらみ、調査の開始時期や調査結果の公表時期を巡り早くも政治的な駆け引きが行われている。コロナ危機が終わったと考えるのは時期尚早だ。しかし人命を尊重する立場からは一日も早い検証と公表が求められよう。 7月の東京五輪開催が迫る日本では高齢者へのワクチン接種は1日最高9万回近くに達したものの、1回目の接種を終えたのはまだ66万人弱。それに対して入院患者は1万6620人、宿泊療養者は1万328人、自宅療養者は3万4537人にのぼり、病院からは「医療が崩壊する」と悲鳴が上がる。 日本は、通常株より最大70%感染力が強い英変異株に苦しめられている。その英変異株よりさらに最大50%感染力が強いインド変異株がインドで猛威をふるい、イギリスで流行し始めている。日本政府は今月12日、インド、パキスタン、ネパールに直近で滞在歴のある外国人について入国を原則拒否すると発表し、水際作戦を強化した。 日本国内でインド変異株が流行する兆候が少しでも見られたら、菅義偉首相は東京五輪の開催について科学者の声に耳を傾け、再検討する勇気を持たなければなるまい。ワクチンの展開が遅々として進まない日本で英変異株より感染力が強いインド変異株が大流行したら医療現場は完全に崩壊してしまうだろう。
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