Source:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGS212JN0R20C21A5000000/
20、21両日に開いた第26回国際交流会議「アジアの未来」(日本経済新聞社主催)では、各国首脳からデジタル技術を活用して経済回復を目指す意向が相次いだ。新型コロナウイルス危機を克服するにはデジタル市場の開拓が欠かせないとみているためだ。中国の広域経済圏構想「一帯一路」によるインフラ整備を、経済の起爆剤と位置付ける国も少なくない。
「ニューノーマル(新常態)に移行するには科学技術が必要だ。世界のデジタル経済の一員として活躍したい」。フィリピンのドゥテルテ大統領は強調し、外資企業などに向けてデジタル分野への投資を呼び掛けた。
アジアはワクチンの普及が遅れており、先進国と比べて経済回復が鈍い。フィリピンでは2回のワクチン接種を終えた人の割合がわずか0.7%にとどまる。コロナ対策の外出・移動制限が続いており、2021年1~3月期の実質国内総生産(GDP)は前年同期比4.2%減と低迷した。変異ウイルスの拡大などを受け、通年の成長率見通しも下方修正した。
コロナの封じ込めに成功してきたベトナムは1~3月期に4.5%増と成長を維持したものの、足元で感染者が増加傾向だ。ワクチン接種はほとんど進まず、今後の経済への影響が懸念される。
コロナ下ではネット通販やリモートワークなどデジタル経済が急速に広がった。アジア開発銀行はアジア太平洋地域で25年までに8兆6千億ドル(約940兆円)の利益を生み出すと予測する。ラオスのトンルン・シスリット国家主席は「ポストコロナの世界では新技術やデータを活用し、互いに学び合わなければならない」と述べ、デジタルデバイド(情報格差)解消の必要性を訴えた。
デジタル経済のけん引役はスタートアップだ。今月、経営統合を決めたインドネシアの配車大手ゴジェックとネット通販大手のトコペディアは積極的な海外展開に打って出る。米市場上場を計画するシンガポールの配車大手グラブは、東南アジアでネット銀行事業を広げる方針だ。国境を超えた競争は各国にデジタル経済の恩恵をもたらす。
最大の課題は人材の不足だ。米アマゾン・ドット・コムの委託調査によると、高度なデジタルスキルを持つ労働者の割合はインドネシアで6%、インドでは5%。ベトナムのファム・ミン・チン首相は「国民のデジタル知識を改善させる」と強調し、人材育成に注力する考えを明らかにした。
パキスタンのイムラン・カーン首相はデジタル化の必要性を訴えつつ、「アジアの経済成長は物理的な接続性の向上に大きく依存している」と指摘。一帯一路に基づくインフラ整備事業「中国・パキスタン経済回廊(CPEC)」では500億ドル規模の投資が見込まれる。「経済活動や雇用を生み出し、地域の貿易を促進する」と期待した。
ネパールのオリ首相も一帯一路に関して「中国と接続することでネパールの成長が引き出される」と意義を語った。ただ中国の援助を受けたことで外交などで圧力を受ける、いわゆる「債務のわな」に陥る懸念は残る。
自由貿易の重要性を指摘する意見も相次いだ。ニュージーランドのオコナー貿易・輸出振興相は「貿易はより多くの仕事と賃金をもたらし、技術革新と生産性向上を促進する」と強調した。ワクチンの囲い込みなどを念頭に、コロナ下で起きた保護主義を批判した。
マレーシアのマハティール前首相は保護主義に関し「一部の地域が(富を)独占するのではなく、世界全体の繁栄を考えるべきだ」と提言した。経済格差の拡大は国際社会にひずみをもたらす。危機を克服する協調体制が今こそ求められる。
(バンコク=村松洋兵)