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『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』は、シリーズとしては4作目、6月30日から公開される『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』の前作にあたります。ここで『インディ・ジョーンズ』シリーズをおさらいしておくと、公開順に以下のようなタイトルが並びます。 【写真】最新作のインディ・ジョーンズ 『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(1981年) 『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』(1984年) 『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』(1989年) 『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』(2008年) 『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』(2023年) いずれもインディ(インディアナ)・ジョーンズという考古学者にして冒険家の主人公が、超常的な古代の秘宝をめぐり、それを狙う悪い奴らと戦う、というもの。 『スター・ウォーズ』の生みの親であるジョージ・ルーカスと、名監督スティーヴン・スピルバーグが手を組んだ大活劇です。 5作の公開年を並べてみてわかる通り、『失われたアーク《聖櫃》』『魔宮の伝説』『最後の聖戦』で一旦シリーズが終了。これら3本は物語の舞台も1930年代後半、第二次世界大戦前夜のお話です(なお物語の年代設定的には『魔宮の伝説』の方が『失われたアーク《聖櫃》』より前の事件です)。 しかし、インディ復活を望む声もあり、『最後の聖戦』から実に19年後に作られたのが『クリスタル・スカルの王国』だったわけです。そこからさらに15年後にリリースされたのが新作『運命のダイヤル』なのです。 スピルバーグは、2005年に暗く重めの社会派サスペンス『ミュンヘン』を手掛けており、その反動で気分転換に娯楽映画を作りたいと考え、もう一度インディに着手したと言われています。アイデアは“年老いたインディが、第二次世界後の世界で冒険する”というもので、舞台は1957年。当時は米ソ冷戦の時期であり、それを反映してソ連(ロシア)が敵になっています。題名のとおり、神秘のパワーを持つ古代の秘宝“クリスタル・スカル(水晶の骸骨)”を新たな兵器とにしようとソ連が狙い、インディがそれを食い止めるという話です。 ちなみに、東京ディズニーシーのインディ・ジョーンズのアトラクションは「インディ・ジョーンズ・アドベンチャー:クリスタルスカルの魔宮」という名前ですが、本作と一切関係ありません。このアトラクションの登場は2001年で、映画よりも早いのです。 『金曜ロードショー』での放送を楽しみにされている方も多いので詳しくは書きませんが、前3部作との大きな違いはSF映画テイストを盛り込んだことです。というのも前3部作は魔法とオカルト的な要素がありますが、本作ではジョージ・ルーカスの意向を反映し、50年代に流行していたB級SF映画(空飛ぶ円盤もの)の要素を入れました。加えてインディが戦う相手も50年代の冷戦を反映してソ連(ロシア)、さらにインディ自身が“赤狩り”(かつてアメリカ社会において共産主義者とみなした人間を公職から排除した)の対象になったりします。また、インディと行動を共にする若者マットは、革ジャン、ポマード、バイクと50年代の若者ファッションを取り入れています。 一番の見せ場は、ジャングルでのソ連軍対インディたちのカーチェイスでしょう。このジャングルはアマゾン。そう、南米での冒険がクライマックスです。なお、過去のシリーズでは必ずアジアが重要な場所として出てきました。例えば『失われたアーク《聖櫃》』はネパール、『魔宮の伝説』は上海・インド、『最後の聖戦』はトルコ。この映画はシリーズ初の“アジアなし”です(笑)。 車から放り出され、またその車になんとか戻ってきての大乱闘というのはインディならではのお約束。また、このシリーズはちょっとグロいシーンも売りですが、本作もジャングルのくだりでとある生物の群れが襲いかかってきます。ここはちょっとぞっとします。この生物襲撃のシーンはもともと『最後の聖戦』で採用されなかったアイデアに基づくそうです。没アイデアの再利用という意味では、インディが冷蔵庫に入って難を逃れるシーン。これはスピルバーグが製作を務めた『バック・トゥ・ザ・フューチャー』からの流用。当初『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のタイムマシーンは、デロリアンではなく冷蔵庫に入るという設定だったのです。 本作のメイン・ヴィランはソ連の女将校のイリーナ・スパルコ。演じているのはケイト・ブランシェットですが、彼女はもともと金髪。この映画のために黒いカツラを被っています。だから撮影当初、ハリソン・フォードはカツラをはずしている、つまり金髪のケイト・ブランシェットをみて「あの金髪の女性はだれ?」と言っていたそうです。 というわけで、インディ・ジョーンズらしい楽しさもいっぱいですが、正直言うと、僕は劇場公開当時『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』があまり好きではありませんでした。やはりクリスタル・スカルの正体が明らかになった時に、前3作が持っていた神秘的なオチの方が好きだったので、ちょっと唖然としたんです。恐らく本作がイマイチだったという人の理由もそこにある気がします。しかし本作を再見して、これはこれで十分面白い『インディ・ジョーンズ』映画だと思いました。というのも、この映画はファミリー・ドラマとしての趣もある。例えば第1作のヒロインであるマリオンが登場。また前作『最後の聖戦』ではショーン・コネリー演じるインディの父親が登場し、ドラマ性を盛り上げましたが、本作にはなんとインディの子どもが登場。大アクションの最中、痴話げんか、親子げんかが盛り込まれて笑ってしまいます。クリスタル・スカルうんぬんより、このインディ・ファミリーのドタバタ劇が面白いんですね。映画の最後で、インディが自分の役割を次の世代に譲る? と見せかけて、そうはしない。ここから『運命のダイヤル』につながるわけですね。
『運命のダイヤル』の予習の意味でも観るべき一作
というわけで『運命のダイヤル』の予習の意味でも観てほしいし、公開当時本作にノれなかったという人は、ぜひもう一度見直してみてください。この作品が封切られた2008年は『アイアンマン』と『ダークナイト』が封切られた年であり、今日に続くアメコミヒーロー映画ブームが本格的に始まった年です。 その後、インディが休んでいる間、アメコミヒーローたちがスクリーンを席巻しました。そのアメコミヒーローたちに挑戦すべく、今年インディが帰ってきたのかもしれません。 『運命のダイヤル』は『クリスタル・スカルの王国』ですでに“年老いていたインディ”がさらに年をとっています。しかし、変に若返えらせず、年相応のままでアクションさせることが素晴らしい。僕はインディのカッコいいシーンと言えば馬なのですが、『クリスタル・スカルの王国』になかった馬のアクションがちゃんとあります。そして敵はナチス(の残党)。これをあのマッツ・ミケルセンが演じます。スピルバーグは邪教との戦いを描いた『魔宮の伝説』を撮ったあと、「インディの敵は『失われたアーク《聖櫃》』と同様、やはりナチスがいい」と言って『最後の聖戦』でこの路線に戻しました。 だから、『運命のダイヤル』ではインディ最後の冒険に最強の敵が立ちふさがるわけです。 最後に話題を『クリスタル・スカルの王国』に戻してトリビアを。スピルバーグは『魔宮の伝説』のヒロイン役のケイト・キャプショーと結婚しましたが、2人の間に生まれたサーシャ・スピルバーグも俳優になりました。そして、サーシャは『クリスタル・スカルの王国』でカフェで「あたしの彼氏になにすんの!」とマットを殴る女の子役で出演しています。
杉山すぴ豊
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