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ハリソン・フォード主演「インディ・ジョーンズ」シリーズが最新作『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』(6月30日公開)で42年の歴史に幕を閉じる。60年以上続く「007」シリーズはあるが、単独の俳優が長きに渡って、同じ主人公を演じた例はない。最新作の見どころを紹介しつつ、シリーズを振り返ってみる。
齢70歳、80年代最高のブロックバスター
ハリウッドでは最近、1980年代のブロックバスター映画の復活が一つの潮流になっている。『ゴースト・バスターズ/アフターライフ』(2021年)、『トップガン マーヴェリック』(2022年)。そして、この本作は前作『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』(2008年)以来15年ぶりの新作だ。特に、80年代に多感な10代を過ごした映画ファンは気になる作品だろう。しかし、見たくないかも‥‥との感想を持った人もいるはず。 かくいう私もその一人だ。ハリソン・フォードは1980年代から40年以上追い続けていたフェイバリット・スター。今年7月には81歳の誕生日を迎える元気なシニア俳優の代表格だが、昨今、再登場した『ブレードランナー』『スター・ウォーズ』シリーズでは、老いも目の当たりにした。しかも、今回はアクション映画である。怪我はしないか、と余計な心配もしてしまった。 本作でも、おじいさんになったインディが登場するのかと思ったら、違った。冒頭は1940年代、ナチスとのチェイスシーンから始まる。インディは第1作『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(1981年)と変わらぬ若々しい姿。顔はCG処理だ。アクションもおそらく代役だろう。だが、そんなことは気にせず、20分以上に及ぶ冒険活劇を堪能した。ハリウッドの最新技術はすごい。 メインストーリーの舞台は、前作『クリスタル・スカルの王国』(2008年)の設定から12年後の1969年。諸説あるのかもしれないが、「インディは1899年7月、ニュージャージー生まれ」なので、本作の年齢設定は70歳となる。 70歳のインディには、冒険の日々は過去のものになっている。『失われたアーク《聖櫃》』では、大学の講義でインディに色目を使う女子大学生もいたが、今はあまり熱心ではない学生を相手に考古学の講義をする退屈な毎日。そんなところに、旧友の娘で自身が名付け親になったヘレナ(フィービー・ウォーラー=ブリッジ)が現れ、秘宝「運命のダイヤル」探しの旅に出ることに。これこそが、インディが人生をかけて探していたものだった‥‥。かつてのド派手アクションとまではいかないが、メインストーリーでもカーチェイスや飛行機の上でのアクションなど果敢にチャレンジしている。
すべての始まりは映画界の至宝が集まった聖櫃
映画版「インディ・ジョーンズ」シリーズは『失われたアーク《聖櫃》』、『魔宮の伝説』(1984年)、『最後の聖戦』(1989年)、『クリスタル・スカルの王国』(2008年)、『運命のダイヤル』と全5作あるが、ベストは『失われたアーク《聖櫃》』だと思っている。 1981年の公開時には『ジョーズ』(1975年)のスティーブン・スピルバーグと『スター・ウォーズ』(1977年)のジョージ・ルーカスが夢のタッグを組んだことが話題になった。そのきっかけは4年前の1977年のハワイにさかのぼる。『スター・ウォーズ』の全米公開1週間前、ルーカスは大ゴケすると思い込み、現実逃避するため、ハワイへ旅行し、スピルバーグと偶然出会った。国際的なスケールとエキゾチズムを兼ね備えた「007」シリーズが大好きなスピルバーグが「将来は『007』シリーズを作ってみたい」と言うと、ルーカスは「10年前から温めていた、もっと面白い企画がある」と話したのがインディ・ジョーンズだった。 そうして、ルーカス製作総指揮、スピルバーグ監督という製作体制が組まれ、シリーズ最高傑作の呼び声も高い『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』(1985年)のローレンス・カスダンが脚本、ジョン・ウィリアムスが音楽を手掛けた。 『失われたアーク《聖櫃》』には、シリーズを決定づけたものがすべて詰まっている。考古学への興味、世界をまたにかける冒険劇。歴史ミステリー、オカルト、アクションにさらにはラブロマンスも。物語は歴史という縦軸と、ペルーの密林、ネパールの山奥、カイロの砂漠という移動という横軸がうまくハマっている。また、悪役も世界征服を目論むナチスというのがいい。敵は強大であればあるほど、物語は深みを増す。 とにかく、インディが魅力的だ。トレードマークはツバ広のソフト帽。武器はムチという考古学者のイメージからは離れている人物。マーシャル大学(プロデューサーのフランク・マーシャルにちなむ架空の大学)で教鞭をとる知的さ、幻の秘宝を探し求めて冒険に出る野心もあるタフガイ。クールさだけではなく、ユーモアもある。 しかも、当時の「007」シリーズのジェームズ・ボンドと違って、ちゃんと弱点もある。長いムチを自在に操るのに、ヘビは大の苦手。そのインディがアークの隠し場所「魂の井戸」では6000尾もののヘビに直面。弱点を徹底的に攻めるのがいい。完全無欠のヒーローではないところが共感ポイントになっている。
それぞれのインディ・ジョーンズがある
私は中学1年のクリスマスシーズンに千葉市内の映画館で2回連続観た。当時、映画館は入れ替え制ではなく、ずっと居続けることができた。この映画を見て、映画界や考古学者を目指した人も多いだろう。『運命のダイヤル』で元ナチス科学者フォーラーを演じたデンマーク出身のマッツ・ミケルセン(57)もその一人だ。北欧の至宝と言われ、ハリウッド作品にも多数出演する彼も「15歳のときに兄と一緒に初めてインディ・ジョーンズを観て、ぶっ飛んだよ。そして、何回も見返したんだ」と語っている。 『運命のダイヤル』は、原点『失われたアーク《聖櫃》』に立ち返った内容になっている。ナチス台頭期の1940年代から、宇宙開発時代の1969年まで、約30年間の因縁と、世界をまたにかけた冒険劇。今回のインディの弱みは、老いであり、過去の過ちである。自由奔放に生きてきたインディにも、最愛の相手へ深い後悔がある。これから見る人の楽しみのために、細かいネタばらしはやめておくが、最終作ならでは、の仕掛け、サプライズキャストもある。 シリーズは、その後のエンタメにも多大な影響を与えた。映画では、キャサリン・ターナー&マイケル・ダグラス共演の『ロマンシング・ストーン 秘宝の谷』(1984年)、ブレンダン・フレイザー主演『ハムナプトラ/失われた砂漠の都』(1999年)、ニコラス・ケイジ主演の『ナショナル・トレジャー』シリーズ、アンジェリーナ・ジョリー主演『トゥームレイダー』シリーズ(2001、2003年)。ほかにも、類似するコミック、ゲームなども数えきれない。洞窟に岩石が転がってくる仕掛けなどは何度目にしたことだろう。 キャスト陣では、子役たちも素晴らしかった。『魔宮の伝説』で戦災孤児のショート・ラウンドを演じたのは、ベトナム出身のキー・ホイ・クァン(51)。『グーニーズ』のデータ役でも好演したが、その後は、アクション映画の武術指導も手掛け、本格的に俳優業を再開した『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』では第95回アカデミー賞助演男優賞にも輝いた。『最後の聖戦』で若き日のインディを演じたリバー・フェニックスも忘れがたい。 『運命のダイヤル』を観ると、シリーズでの出来事、個人的な体験が蘇ってくる。完結してしまった寂しさもあるが、映画は一種のタイムカプセルだ。観れば、熱き思いを思い起こさせてくれるだろう。インディが世界で宝探しを繰り広げる「インディ・ジョーンズ」シリーズだが、このシリーズこそ、最高の宝物だ。インディ最後の雄姿をしっかり目に焼き付けて、全シリーズを見返したい。
文 / 平辻哲也
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