Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/912acc0a83826f98639a446c09d32ceb35911247
2023年の今年、世界の平均気温が最高記録を連日更新する夏が始まっています。これは気候変動(地球温暖化)がなければ「事実上不可能」だった記録的な暑さ、と言われています。 【写真】のどの渇きだけじゃない!?注意すべき「脱水状態」の10のサイン 今回、Media is Hopeの発起人であり共同代表を務める名取由佳さんが解説するのは、「熱ストレス」。気候変動で気温が上がると、“海面が上がる”などの影響は多く耳にするかもしれません。しかし、それは「熱ストレス」と言う形でわたしたちの生活や健康にも大きな影響を及ぼしているのです。 今回はその気候変動による「熱ストレス」について知り、対処法や解決策、熱ストレスによる意外な影響まで解説していきます。 解説:一般社団法人Media is Hope共同代表 名取由佳 Media is Hope ― 気候変動の正しい知識と解決策を日本の共通認識にするため、メディアの支援やサポートを行い、気候変動解決に向けてあらゆるステークホルダーが共創関係を築くための架け橋となる団体。 2021年に設立。
「基準気温」の上昇に注意!
“異常”なほど高気温が続いている今の事態を、気流の動きが気温に影響を与える自然現象、エルニーニョが原因だと報道する傾向がみられています。しかし忘れてはいけないのは、世界中の基準気温を上昇させているのは気候変動(地球温暖化)だということ。 エルニーニョはあくまで、人為的な気候変動が暑くさせた地球を、より暑くさせる要素の一つに過ぎないと言われています。 日本の夏はただ高温というだけでなく、湿度が高い「蒸し暑い」環境で、人間にとって非常に過酷な夏です。ちょっと油断していると熱中症になりかねず、不快なだけでなく命にも関わる問題です。熱中症による救急搬送での救急車逼迫を懸念し、東京消防庁で7月1日から運用が始まった「救急車逼迫(ひっぱく)アラート」も7月10日にはじめて発動しました。 気候変動(地球温暖化)の緩和に努めることが最優先ではありますが、ここでは根本的な解決を目指しながら、正しい知識をまずは紹介します。
他人事じゃない、熱ストレス
熱ストレスは高温にさらされることによって、心や体、生活に対する健康被害や不快感を引き起こすこと。地球温暖化による健康問題のリスクが年々増えていることから生まれた言葉です。
“ただ生活をしているだけで” 熱中症のリスクが上昇
熱ストレスによる一番大きな健康被害は、「熱中症」。 熱ストレスが引き起こす熱中症は、体温が上がり、体内の水分や塩分のバランスが崩れたり、体温の調節機能が働かなくなったりするもの。体温の上昇やめまい、けいれん、頭痛などのさまざまな症状を起こします。 そして熱中症は従来、高温環境下での労働や運動活動で多く発生していましたが、近年は気候変動(地球温暖化)による影響により、一般環境において発生するケースが急増。 何か“特別な”負荷がかかっていなくても、ただ生活をしているだけで、高温によって熱中症を引き起こすようになったのです。
酷暑で胃腸も不調に…
また、冷たい飲み物を飲みすぎたり食べすぎたりすることで胃腸の働きも低下に繋がります。 すると食欲が落ちて体力が落ちるので、体力低下により疲労を感じやすくなる傾向にあります。対策としてできるのは、衣服などで温度差をなるべく作らないことや冷たいものを摂取しすぎないことなど。
「心の健康」にも警鐘
夏の暑さが続くと、特に理由がないのに「何だかやる気が起きない」「イライラしやすくなった」といった反応が出てきます。それは、外の高温とクーラーによる涼しい室内の温度差により1日に何度も体温調整を行う現状によって自律神経がうまく働かなくなっていくから。 その結果暑さによるストレス状態が長い間続き、心に負担がかかり過ぎて、いわゆる「夏バテ」のだるさを伴います。 また夏は日中だけでなく、夜も気温が高い状態が続くため、睡眠の量や質が他の季節と比べて、十分に確保できない日も出てきます。さらに、食欲が減退し十分な栄養を補給できなくなると、身体だけでなく、こころの健康を保つための栄養素も不足するようになります。
平均気温が1℃上がると、 家庭内暴力は6%以上増える…
<JAMA Psychiatry>(米国医師会が発行する月刊の査読付き医学雑誌)に掲載された研究では、気候危機は南アジアにおける家庭内暴力の増加に関連しているとの結果が見られています。 その研究では2010年から2018年の間にインドとパキスタン、ネパールの15~49歳の194,871人の少女と女性を対象に、感情的・身体的・性的暴力の経験を記録。そのデータを、同じ期間の温度変動と比較しました。 その結果、年間平均気温の1℃の上昇は、身体的および性的暴力の家庭内暴力の6.3%以上の増加につながっているという結果が。調査を行った研究者は、以下の通りに説明しています。 「極端な暑さがストレスに影響を与え、攻撃性を高め、精神疾患を悪化させる可能性があるという証拠が増えている」 極端な暑さは、作物の不作やインフラの崩壊、経済悪化、それらの影響により人々を閉じ込め、働けなくするなど、家族を極度のストレス下に置くそう。そしてこれらは、暴力性を押し上げる可能性のあるすべての要因と言われています。 すべての所得層で熱ストレス関連の暴力が増加しましたが、中でも最も増加したのは低所得世帯と農村世帯だったそう。
8,000万人分の仕事の喪失に相当
また国際労働機関の発表では、2030年までに気温上昇によって暑すぎて働けない、または作業ペースが落ちることによって、世界全体で失われる労働時間は世界合計の2.2%に上ると言われています。これはフルタイム労働換算で約8,000万人分の雇用に相当し、世界の経済損失は全体で2兆4,000億ドルに達する見込みです。 その中でも熱ストレスによる経済損失が最も大きいのは低所得国や最貧困地帯の人々なのだそう。その要因は、福利厚生等のない就業形態や自給自足農業が多く社会的保護が欠けていることが多いからと言われています。 そのため熱ストレスがかかることによって、既に貧困の中にいる人々が経済的により不利になる懸念が高まる傾向が強いとされています。
意外と知られていない対策
近年、気候変動(地球温暖化)により家屋の「高断熱」や「機密性」が重要視されています。高断熱や機密性と聞くと、夏は暑いのでは? と思われる方もいるかもしれません。しかしこれは、実は夏を涼しく過ごすにもとっても有能。 高断熱や機密性の高い家屋の特徴は、「頑として室温を外に逃がさない」こと。この性能は「涼しい空気を閉じ込める」ことにも長けているのです。 冷房を使用してもエアコンはゆったりと運転して普通の家ほど電気代がかかりにくいと言われています。冬はもちろん、夏も過ごしやすくなる「高断熱」や「機密性」の高い家屋。都道府県によっては、改修に補助金も利用できるそうです。
熱中症には十分ご注意を!
気候変動(地球温暖化)の影響により急激に暑くなった梅雨の合間の時期(7月上旬) や、7月下旬の梅雨明け直後から8月いっぱいの盛夏にかけて多くの熱中症患者が増えています。梅雨明け直後に暑さが継続する期間は熱中症発症リスクが高く、とりわけ注意が必要です。 屋外にいる際は熱中症対策に意識が向けられることが多いですが、実は室内も要注意。環境省は熱中症の症状や対策のより詳しい情報も発信しています。
根本的解決を目指して…
気候変動を解決するためには温室効果ガスの排出を減らし、2030年には現状から半減、2050年までに実質ゼロを目指していかなければならないと言われています。しかし現状は削減にうまくいっていません。 私たち一人一人が正しい知識と解決策を知り、行動を起こすことが重要です。適応と緩和、どちらも知識を身につけて命を守る行動が大切です。
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