Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/e3d0568493169c9fb36d0a987b675ce6a58a6502
子どもの人権を侵害し、心身に悪影響を与える児童婚。この問題に取り組んできた国際NGO「プラン・インターナショナル」の海藤純子さんに話を聞いた。【朝日新聞with Planet編集部・竹下由佳】 【画像】児童婚をさせられたベトナムの女の子。花嫁人身取引業者に誘拐され、中国で結婚させられるケースもあるという
年1200万人の18歳未満の女の子が結婚
世界では、1年間に1200万人もの18歳未満の女の子が結婚しているーー。 2023年5月、国連児童基金(ユニセフ)が「児童婚」に関する最新の報告書を発表した。 児童婚とは、男女を問わず18歳未満で結婚すること、またはそれに相当する状態にあることを指す。報告書によれば、世界の児童婚は減少傾向にあるが、現在生きている6億4千万人の女の子と女性が、18歳未満での結婚を経験している(推計)。 国連は、持続可能な開発目標(SDGs)のターゲットの一つに、「2030年までに児童婚をなくす」と掲げている。 最新の報告書では、18歳未満で結婚した女性の割合は、5年前の推計に比べると21%から19%に減少しているが、2030年までに児童婚をなくすには、今の20倍以上の速度で減少させる必要があると指摘している。 女の子の教育の機会を奪い、若年妊娠による死亡リスクも高める児童婚。なくすために、一体何が障壁になっているのか。一人ひとりにできることは? 児童婚の問題に長年取り組む「プラン・インターナショナル・ジャパン」のプログラム部、海藤純子さん(51)に聞いた。
児童婚をなくす、一番の障壁は
ーー児童婚をなくしたいと多くの人が思っている中で、なかなか根絶まで至っていません。何が一番の障壁になっているのでしょうか? やはりジェンダー規範や社会規範、「こうあるべきだ」という考え方が根強いことがあると思います。 仮に当事者である女の子が(結婚は)意に沿わない状況だったとしても、それが通らないような家族や地域との関係性が、早すぎる結婚(児童婚)をなくすための障壁になっているのではないでしょうか。 また、新型コロナウイルスのパンデミックの影響で家庭の経済状況が厳しくなったり、気候変動などの影響で、例えば家畜が死んでしまって経済的に厳しくなったりしています。特に女の子は学校に通っていたとしても、経済状況などが厳しくなってしまうと中途退学せざるを得ない状況になってしまう可能性が高いのです。保護者たちが「結婚させることで女の子自身の立場を守ることができる」と捉えているという背景もあります。 実際は、児童婚をすることで当事者である女の子はさらに厳しい状況に置かれてしまうことがほとんどなのですが、こうしたことが重なり合い、なかなかなくすことができていないのではないかと感じています。 ーー新型コロナや気候変動の影響は脆弱(ぜいじゃく)な国ほど大きいと思いますが、国や地域によって慣習や文化が異なることから、一律の対応をしにくいという側面もあるのでしょうか? そうですね。私たちは活動する地域に事務所を構えていますし、スタッフはその国の出身者がほとんどです。一緒に活動している行政や地域のパートナーの団体も、地域に根付いて一緒に活動しています。それぞれの地域の文化背景を踏まえた上で、地域の課題に沿った活動をすることが重要だと思います。 ーー今のままの減少ペースでは、児童婚をなくすまでに300年かかるという指摘もあります。解決に向けて一人ひとりができることは何でしょうか? すごく難しいかもしれないのですが、「自分事として捉える」ということ、まずはこうした問題があるということを知って欲しいです。その上で、もし関心を寄せていただけるのであれば、活動を支えてもらえればありがたいですし、今はSNSの影響も大きいので、SNSで児童婚の問題について広めていただければありがたいです。
16歳で結婚、17歳で出産。女の子自身が啓発活動に
ーー海藤さんご自身も児童婚をさせられたり、させられそうになったりした女の子たちと接してきたんですよね。 今年4月、ベトナムを訪れ、当事者の女の子にインタビューをする機会がありました。 16歳で結婚して、17歳で出産して、11カ月の子どもを育てていましたが、結婚したことで精神的な落ち込みもあり、すごく後悔をしていました。しかし、私たちの取り組みの一つである若者たちのクラブ活動「チャンピオン・オブ・チェンジ・クラブ」と出会い、そのメンバーの一人として、「女の子たちが自分のような早すぎる結婚をしないように」と活動をしてくれています。 このクラブ活動は、女の子も男の子も一緒に、子どもの権利や性と生殖に関する健康と権利(リプロダクティブ・ヘルス / ライツ)、ジェンダー平等のための様々な活動を学んだ上で、地域や学校での啓発活動を主体となって取り組んでいくものです。 その当事者の女の子は、この活動をすることを自分で決めた時に、「暗闇から抜け出すような気持ちになった」と、小さい子どもを抱えながら話して聞かせてくれました。まだまだ若年なのに、成熟した表情で……。児童婚をしたことで、本当に人生が変わってしまうということを目の当たりにしました。 「この活動をしたからすぐにこれがなくなる」というものはなく、根絶のためには、時間をかけた取り組みも必要です。女の子だけではなく、相手も18歳未満という場合もあります。一人ひとりのケースを未然に防ぐことができれば、と考えています。 ーーなくすための「特効薬」のようなものはなく、一人ひとり理解してもらうよう地道に活動をしていくしかないのですね。 そうですね。ただ、暗い面だけではなくて、さまざまな地域でこうしたクラブ活動をしているのですが、若者たちが自分たちの力をすごく発揮している姿を目にします。 人前ではっきりと話をしたり、イベントの司会をしたり。いきいきと活動している様子を目の当たりにし、学ぶ機会と自信を持てるようになることで、本来彼らが持っている力を発揮することができるのだと感じました。活動を通じて、本来持っている可能性を広げる機会にもなるので、児童婚をなくすためだけではなく、地域を支えていくことにもつながるのではないかと考えています。 ネパールでは、女の子たちのクラブ活動があり、啓発活動をしていたのですが、そのメンバーの一人が結婚させられそうになったことがありました。 ただ、その女の子は児童婚の弊害も学んでいましたし、法律的に結婚可能な年齢ではないということもわかっていて、自ら親を説得して、結婚から逃れることができたという事例がありました。 ーーユニセフの報告書によると、18歳未満で結婚した、6億4千万人の女性・女の子を地域別に見ると、最も多いのは南アジア(45%)、サハラ以南のアフリカ(20%)、東アジア・太平洋地域(15%)と続きます。低中所得の国では広く児童婚は見られるのでしょうか? そうですね。ただ、その国の中でも地域によって背景がそれぞれ異なります。私たちは、地域ごとの課題に沿って取り組みを少しずつ変えながら活動しています。 例えば4月に訪れたベトナムでも、私たちが活動しているのは北部です。少数民族が多く住む地域で、まだまだ児童婚の問題が多く見られます。 ーーほぼ全ての国が子どもの権利条約や女性差別撤廃条約に署名や批准していて、児童婚は禁止されているのに、国内の法律で取り締まるのは難しいのでしょうか? 国によっては18歳未満の結婚を禁止する法律があっても、「保護者の同意があれば」などの「抜け道」があったり、法の施行が行き届かないような地域では慣習的にやってきたということで続いてしまったり、必ずしも法律があるから守られている状況ではないことが課題の一つだと思います。 ーー地域の「慣習」なのだから仕方ないのではないか、という声にはどう反論したらよいのでしょうか? その子自身の人生を奪ってしまうだけではなく、若年妊娠などで場合によっては本当に命を落としてしまうことがあるのです。 もちろん当事者の女の子たちにもそれぞれの考え方があるかもしれませんが、親の世代の当事者の中にも、「次の世代には自分と同じような経験をしてほしくない」という方がたくさんいます。 私たちも地域で活動する際には必ず関係を構築した上で始めます。「慣習」であっても、地域の宗教リーダーたちに、児童婚は違法であることや、命を脅かす危険性があることなどを伝えることで、「100%」とは言えませんが、協力をしてくださる方もいます。 そうした方とつながり、同意していただけない方へも影響を与えながら、理解してもらえる人を増やしていくことを目指しています。 「児童婚をなくそう」と呼びかけるだけではなく、地域全体の底上げをすることも重要です。例えば、学校にトイレが整備されていないことで、生理を迎える年代の女の子たちが学校に通いづらくなって、中途退学をしてしまう。そこから児童婚につながってしまうこともあります。児童婚をしないで済んだときには、その代替手段として生きていくための生計向上のためのスキルが必要です。 学校の先生たちも重要なアクターです。児童婚の問題に気づいた場合、家庭訪問をして保護者を説得するなど、子どもたちを支える役割があります。子どもから先生に相談できるような関係性を構築したり、先生の側もどう対処をすればいいか理解したり、子ども自身だけでなく地域の側を支えていけるようなトレーニングや知識をつける活動もしています。複合的に様々な立場の力を合わせることで、児童婚の防止につながると思います。
日本にも通じる課題は……
ーー児童婚の当事者や周囲の支える側の人々と接する中で、先進国であるいまの日本にも通じるような課題を感じたことはありますか? やはり「こうあるべきだ」という考え方は、どの国・地域でもあると思います。女の子だけではなく男の子に対しても「こうあるべきだ」という価値観が押しつけられることもあります。そうした求められる「あるべき姿」に、子どもたち自身が自分を当てはめてしまうような状況もあると思います。 勉強や進学、就職先に関する考え方など、知らず知らずのうちに、「こういうものだ」とすり込まれてしまっているものはたくさんあるのではないかと思います。そこを変えていくことで、本当に全ての人が生きやすい社会につながっていくのではないかと考えています。 ーー先進国と途上国ではもちろん経済格差もありますし、文化的背景も異なりますが、その根底には「こうあるべきだ」という考え方があるのですね。 私たちはよく「ジェンダーステレオタイプ」と言っていますが、そのジェンダーステレオタイプをなくすために、自分の身体の決定権は自分にあることや、パートナーとのコミュニケーションの仕方など、人権教育を含めた「包括的性教育」を活動の中で展開しています。 日本国内でも活動していて、若者たちが「自分の意志で人生を選択して歩んでいける」ように取り組むことは、古今東西共通のことなのかなと捉えています。 (朝日新聞 with Planetで2023年7月12日に配信された記事です)
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