Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/bb90e68b77b3550fc14d04870fe86f772674e0c1
富士山7合目よりも高い場所にある空港
ネパールの首都カトマンズから東に約130kmの距離にあるルクラという街は、世界最高峰のエベレスト(チョモランマ)に向かうための玄関口です。そこにある小さな空港、テンジン・ヒラリー空港は、「世界一危険な空港」として有名なところ。なぜ、そのように呼ばれるのか、現地で実際に空港施設を見てきました。 【VIPルーム!?】世界一危険な空港はこんなところ 外も中も管制塔も そもそも、このテンジン・ヒラリー空港、2008(平成20)年1月までは、町の名前から「ルクラ空港」と呼ばれていました。しかし、エベレスト初登頂に成功したネパール人シェルパ族のひとりテンジン・ノルゲイと、イギリス人登山家エドモンド・ヒラリー、両名の名前を採って、現在のテンジン・ヒラリー空港へと名前を変えています。 ここへはカトマンズから空路で向かうことができ、日本でも一時期運航されていた双発プロペラ機デハビランドDHC-6なら、飛行時間にして30分ほど。ただ、テンジン・ヒラリー空港の標高は約2860mとかなり高く、なおかつ山に囲まれているため、天候が急変しやすい場所でもあります。 筆者(斎藤大乗:元自衛官ライター/僧侶)も朝6時10分の始発便でルクラ(テンジン・ヒラリー空港)へ向かおうとしたところ天候待ちに合い、ようやく待ちが解除され機内に搭乗すると、またしても天候の影響で待機になるというありさまでした。最終的に約5時間、天候待ちをしたのち、飛行機は離陸しましたが、同乗者からは5時間で済んで良かったとの声が上がったほどです。 テンジン・ヒラリー空港の滑走路は、長さわずか527mしかありません。滑走路はおおむね東北東から西南西にかけて設けられていますが、東北東側は山になっているため、こちらから着陸進入ができません。では西南西方面から進入する場合はどうかというと、こちらも進入しようとすると滑走路のさらに南西の延長線上に山があるため、そこを避けるべく大きく右に旋回する必要があります。 しかも東北東の滑走路端には、急峻な崖が迫っています。ゆえに着陸復行(ゴーアラウンド)は難しく、離陸時に速度を誤ると崖下におちてしまうことになります。そのような挙動をしつつ、上空から527mしかない滑走路を客席から操縦室越しに見ると、さながら艦橋がそびえる空母に着艦するかのような気分になりました。
急勾配だから止まれる 斜度は脅威の11.7%!
その小さな滑走路に無事着陸すると、すかさず斜度11.7%の登り坂を使い減速。速度をコントロールしつつ坂の上に設けられた駐機場(エプロン)に進入し停止します。朝は人員輸送を中心に行うため、その後には続けざまに飛行機が何機も降りてきます。 筆者がルクラに到着した日も、1機目が着陸したあと2分から3分後に2機目、さらに2分から3分後に3機目が到着し、4機を停めることができる駐機場が1か所を残し、10分ほどでいっぱいになってしまいました。 この間、最初に着陸した機体は、速やかに復路の乗客と預け荷物を積み込むと、3機目の飛行機が駐機したと同時にタキシングを開始し、カトマンズへ向けて出発していきました。そのため、ターンアラウンドタイムは10分から15分程度とかなり短く、これを朝6時ころのカトマンズ始発から9時ころまで3時間ほど繰り返して人員の輸送がひと段落すると、今度は飛行機に積めるだけ荷物を載せ、貨物機として運航をするそう。この貨物は近隣の村に送る生活物資のほか、エベレスト登山で使う物資などです。 なお、ターミナルのほうを見てみると、到着ロビーは1階にありポーター(荷物係)やガイドが乗客を待っています。出発ロビーには各航空会社のカウンターがありますが、カウンターでチケット予約するより、ルクラの街で宿をしている主人に手配をしてもらうと比較的気象条件に左右されない早い便を予約してもらえます。この手配ができるかどうかが宿泊客を増やすコツのようです。
ヘリコプターのハブ拠点として超重要
テンジン・ヒラリー空港は、人員や物資の輸送を担う固定翼機用の空港としてだけでなく、近隣の村をつなげるヘリコプターの拠点空港としても位置付けられています。そのためターミナルから5分ほど歩いたところにヘリコプターターミナルが設けられており、こことナムチェバザールやエベレストベースキャンプを含む近隣の村をヘリコプターが行き来しています。 以前は、舗装されていない駐機場からホバリングをして滑走路にでて離陸する方式でしたが、2019年にヘリコプターの駐機場へ固定翼機が突っ込み、死亡事故が発生したことから、その後ヘリコプターターミナルが建設されました。 ヘリコプターターミナルの外観は最近できたということもあって大変綺麗で、ヘリコプターの駐機兼離発着場所であるエプロンはしっかりと舗装されています。離着陸はエプロンから直接行いますが、見ていると滑走路に出て、そこで滑走離陸をする機体もあるようです。 ヘリコプターは固定翼機と比べ搭乗できる人数が少ないため、利用料金が比較的高く、テンジン・ヒラリー空港から最寄りの大きな街であるナムチェという街へ行くのに15万円ほどかかります。しかし、世界最高峰のエベレストを一眼見ようと世界中から人が集まるため、なかにはヘリコプターをタクシー感覚で使うお金持ちもいるようで、ひっきりなしに発着していました。 ここは1964(昭和39)年にエドモンド・ヒラリーによって造られた、猫のひたい程の小さな空港ですが、2019年の利用者は12万9508人と観光客や住民にとって必要不可欠な空港になりました。しかし、これからも需要は増える見込みで、それに応えるにはルクラの街全体の課題である慢性的な電力不足を解決し、離着陸に大きく関係する天候の影響を軽減するための航法・誘導装置の拡充が必須でしょう。 2022年9月現在、日本のODA(政府開発援助)によってテンジン・ヒラリー空港も含むネパール各地の主要空港の安全化対策を行っています。これにより近い将来、世界一危険な空港という汚名が返上されることを筆者は願ってやみません。
斎藤大乗(元自衛官ライター/僧侶)
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