Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/790758d6af881bcef9c4c438616aa9554dbe4e52
もはやブームというよりは、ジャンルとして定着している観のある、スパイスカレー。そこから派生して人気が広がっているのが、「チャイ」だ。チャイとは、インドを中心に広く飲まれている、スパイス入りの甘く煮出したミルクティーのこと。 以前はインド料理店でしかお目にかからなかったが、最近では一般的なカフェメニューにもなりつつあり、都内では中目黒を中心に、高円寺や恵比寿などでもチャイ専門店を見かけるようになった。なぜ今、チャイにハマる人が増えているのか。チャイブームを象徴する2店で、その人気の秘密を探った。
①チャイ専門店ブームの起点となった「モクシャチャイ」(中目黒)
現在のチャイ専門店ブームを語るのにはずせないのが、ブームに先立ち2019年にオープンした「Cafeモクシャチャイ 中目黒」(以下「モクシャチャイ」)だ。週1回の営業からスタートした同店は、2021年4月24日から週5営業に拡大してグランドオープン。現在では“チャイの聖地”とも呼ばれる存在となっている。 場所は中目黒駅から池尻方面に徒歩8分の山手通り沿い。「ドン・キホーテ」の少し手前の向かい側といえばわかりやすいかもしれない。
山手通りに面しているが、2階なので店内には通りの喧騒も届かず、静か。居心地のよさそうなテラス席もあり、都心なのにどこかリゾート感のある空間だ。「カフェから徒歩30秒には目黒川が流れていますので、この目黒川沿いに散歩をしながらご来店いただくのもおすすめですよ」と、若き店主の大久保 カプール 玲夫奈氏。
大久保氏はインド人の父と日本人の母を持つハーフ。早朝に起床して出勤する介護職の母のために、父が母の体調を見ながら毎朝、スパイスの量や種類を変えてチャイを淹れている姿を見ながら育った。店で提供しているのは、そんな父親譲りのチャイ。生姜、シナモン、カルダモン、クローブなどの様々なスパイスを、無添加100%インド産のクラフトリーフティーにブレンドしている。
最も人気のあるメニューは、定番の「ロイヤルマサラチャイ」。それ以外にもラム入りやコーヒー入りなどの個性豊かなチャイが店内で味わえる。
オリジナルのスイーツも独自で開発しており、「濃厚チャイジェラート」「焼きドーナツ」が売れ筋商品。また「季節のチャイのチーズケーキ」も人気で、現在はチャイモンブラン、これからはラ・フランスのチーズケーキを予定している。夏の「チャイかき氷」も大変好評だったとのこと。
一番人気の「ロイヤルマサラチャイ」を味わってみた。最初にミルキィなコクと紅茶の濃厚な香りを感じるが、時々、ピリリとした刺激も感じられ、その後に時間差で、さまざまなスパイスの香りや風味が立ち上がってくる。一般的なカフェのチャイでは感じたことがない、鮮烈な風味の重層感。チャイ専門店が流行るわけが、この1杯でわかった気がした。
■NYでも増えているチャイカフェ。「この流れは日本にも来る」
大久保氏が日本にチャイ専門店を開くきっかけとなったのが、日本企業の駐在員として、イタリアに6年滞在したこと。 「イタリア人にとってエスプレッソが日常に欠かせない飲み物であるように、インドではチャイが日常には欠かせない飲み物です。イタリアに住みエスプレッソ文化に触れたこと、自分が幼い頃にインドで飲んだチャイや家で両親がいつも淹れてくれていたチャイという二つの原体験を、多くの人に知って欲しいと思うようになりました」(大久保氏) 「イタリア人がエスプレッソを、インド人がチャイを楽しむ時間を大切にしているように、日本でも、チャイを楽しむ時間をもっと広げたい」と考え、チャイのブランドを立ち上げた。モクシャチャイはチャイを販売しているというよりチャイを飲む「時間」を提供していると考えているそうだ。 「モクシャチャイ」はチャイのメーカーでもあるため、同店では“お店でしか飲めないチャイを提供すること”ではなく、“家庭でも再現できるチャイを体験してもらう”ことがコンセプト。そこで、店頭で物販している茶葉でチャイを作って提供している。また1~2ヶ月に回、お店でワークショップを開催し、チャイの作り方を体験してもらっている。 大久保氏にとって、実はチャイ専門店は最終目的ではないという。「『モクシャチャイ』というブランドは、手軽にいろんな味やスパイスの種類が自宅で飲めるチャイ専門のメーカーだと考えています。実店舗はその味を確認できる場所であり、ここから日本だけではなく、世界に発信していけるメーカーになるイメージをしています」(大久保氏)。 大久保氏は海外旅行が趣味で、世界30カ国150都市以上を訪れているが、インドでチャイ専門のカフェチェーン、そしてNYでも新たなチャイカフェが登場しているのを目に詩「この流れはこれからじわじわと日本でも増えていくと思っています」という。
■「令和に求められているのは、リラックスしながら感性を磨ける飲み物」(大久保氏)
なぜ今、チャイがブームになりつつあるのかについて、大久保氏の見解を聞いてみた。 「昭和から平成の時代は、カフェインたっぷりのコーヒーで覚醒する感覚が求められていました。でも令和に入り、覚醒よりもどちらかというと、“リラックスしながら感性を磨く”ことができる飲み物がより求められているのでは。また『モクシャチャイ』の利用者の8割が女性であることから、スパイスの効能による健康意識や美意識も、人気の要因と感じています。その意味でこれからは、好みや体調でカスタマイズ可能なスパイスを使用する入るチャイの時代でもあると思っています。とはいいつつも、カフェではコーヒー入りのチャイ(ダーティーチャイ)も人気ではあります」(大久保氏)
スパイスによる健康感や美意識が女性に受けている、だからこそ、大久保氏は男性にこそぜひ、チャイの魅力を知って欲しいと力説する。
「ぜひチャイの淹れ方を学び、奥様や恋人につくってみてください。きっと喜んでくれるはずです。遠くにいる大切な人にちょっとしたプレゼントもGOOD。『レンジdeチャイ』というレンジで作れるチャイも販売しており、そこからチャイにはまっていく方も多いです。ブランドのECサイト(https://mokshajapan.jp/)では、『チャイ体験キット』などの商品も人気です」(大久保氏) 取材協力・画像提供/Cafeモクシャチャイ中目黒 https://mokshajapan.jp/ インスタアカウント https://www.instagram.com/moksha_chai/ ツイッターアカウント https://twitter.com/MokshaChai
②チャイブームを牽引する「チャバ(CHIYA-BA)」(中目黒)
最近のチャイブームを象徴する賑わいを見せているのが、2022年3月5日にオープンしたばかりのチャイ専門店「チャバ(CHIYA-BA)」だ。 お店があるのは中目黒駅のガード下。東横線の高架沿いなので道に迷うことはないが、祐天寺方面にかなり歩く(中目黒駅
それでも、取材に訪れた平日アイドルタイムの店内はほぼ満席。ひっきりなしにテイクアウトのお客も訪れる。あたりはひっそりした住宅街。何かのついでではなく、この店目当てに訪れる客がほぼ100%であることがうかがえる。
■ヒマラヤ高地の茶園との運命的な出会い
「チャバ」は、道路を挟んだ斜め向かいにあるモダンネパール料理店「ADI」の姉妹店。「チャバ」誕生ストーリーは、ネパール出身の「ADI」オーナーシェフ、アディカリ・カンチャン氏が2017年、ネパールの親族を訪ねた際、ヒマラヤ地方の標高2,500mでお茶を栽培している茶園と出会ったことから始まる。カンチャン氏はたちまち、その茶園で作られるお茶の味に魅了されたという。
「お茶の名産地・ダージリンと国境を境にして接しており、標高はほぼ同じ。山々から運ばれる養分が堆積した土のアロマティックでワイルドな力強い味わいが感じられる、感動的に美味しいお茶だったのです。私はこのお茶は世界に通用し、必ずネパールを代表する特産物になると確信しました」(カンチャン氏) もうひとつ、カンチャン氏が感銘を受けたのは、高い志を持って真摯にお茶栽培に取り組んでいるお茶農家の人々の姿。丹精こめて育てたお茶が不当に安く買い取られ、貧しい生活を強いられている彼らの姿に心を痛めたカンチャン氏は、この茶園をサポートするために帰国後、「Teaamor」というお茶のブランドを立ち上げた。2020年、クラウドファンディングで資金を調達し、「チャバ」としてリブランド。ヒマラヤから取り寄せたお茶のEC販売を開始する。 「CHIYA」は、ネパール語でお茶を意味し、「BA」は「葉」と「場」を意味する。お茶を通した場づくりを行いたいという思いから名づけたという。 ほぼ同時期にカンチャン氏は、母親譲りのネパール料理と日本の食材をミックスさせた“モダンネパール料理”の店「ADI」をオープン。食後に提供していたチャイが人気を呼び、店の一角に専用のチャイ・スタンドを作るまでになった。ちょうどその頃、店の斜め向かいにあった店舗が空いたことから、「チャバ」初の実店舗をオープンすることになった。
■チャイはその日の気候に合わせてスパイスをブレンド
同店のチャイは、ネパール産アッサム茶の葉をチャイに適したCTC製法で加工したものを使用。CTC製法とは、専用の機械をつかって茶葉を細かく丸める製法。短時間でしっかりした味わいが抽出できるため、牛乳との相性がいいとのこと。シナモン、カルダモン、ブラックペッパー、ショウガをベースに、その日の気候に合わせてスパイスをブレンドし、紅茶の風味とミルクの甘さを引き立てている。
カンチャン氏のパートナーで広報を担当するアディカリ・明日美氏によると、ネパールでは朝はチャイの香りで目が覚め、一日中何杯もチャイを飲み、まさに生活の一部になっているとのこと。同店で提供しているチャイは、そんなネパールで飲まれているものと全く同じ味わいなのだという。
「ネパールのチャイはインドのチャイと比べると、使っているスパイスの種類も量も控えめ。やさしい味わいで、初めての人も飲みやすいと思います」(アディカリ・明日美氏) ちなみに同店でチャイと並ぶ人気商品が、「ホワイトティー」。バイ・ム・ダンという品種で、芽吹く直前の若い新芽と若葉部分で、収穫時に白い産毛が生えていることが名前の由来と言われている。最小限の工程で加工され、自然に一番近い状態の茶葉のため、健康効果が非常に優れているともいわれているとのこと。「どのお茶とも比べられない、独特なフローラル&フルーティーな心地いい香り。ヒマラヤの大自然の芳潤な香りを感じていただけると思います。ぜひ一度、お試しいただきたいお茶です」(アディカリ・明日美氏)
■「チャバ」が愛される理由
茶葉の作り手への敬意と同様に、物作りの職人への敬意を商品で形にしていることも、この店の特色だ。例えば茶葉を入れている銅製の茶缶は、一つずつ手作りをする缶職人をネパールで探しまわり、あきらめかけた時にパタン市で偶然出会った小さな工房で造られている。手作りなので、一つひとつ形が少しずつ違っているが、その温かみも人気だ。
定期的に開催しているワークショップも、あっという間に満席になるほど盛況。店の利用者もワークショップの参加者も、男性が約半分ほどだという。 「特に宣伝もしていないし、駅からも遠いのに、ありがたいことに毎日たくさんの方に来ていただけているのが、私達も本当に不思議なんです」と語るアディカリ・明日美氏。 実際に店を訪れて感じたのは、この店が、知らなかったネパールの美しいもの、美味しいものとの出会いに満ちた場所であるということ。またチャイの味わいとともに、生産者の生活を支えようとするカンチャン氏のビジネスへの姿勢、純粋な情熱にひかれて通うファンも多いように見えた。そして同店のファンが、「ADI」の食後のチャイでその魅力を知った人がベースになっていることを考えると、インドのチャイとは違うこの店独特の味もまた、人気の理由のひとつのように思える。 2店のチャイを飲み比べると、同じ「チャイ」という飲み物であっても、味わいは大きく違う。それぞれの店のバックボーンが反映されていることや、気候などに合わせてスパイスを調合していることがその理由だ。その意味で、チャイ専門店で味わうチャイは、一期一会。どこに行っても同質のフレーバーを楽しめる、大手コーヒーチェーンと対極の存在といえる。“その店で今しか味わえない、特別なチャイ”を求めて、多くの人がチャイ専門店に足を運ぶのかもしれない。 取材協力・画像提供:「CHIYAーBA」(チャバ)」 https://www.instagram.com/chiya_ba/ インスタアカウント https://www.instagram.com/chiya_ba/ 文/桑原恵美子 編集/inox.
@DIME編集部
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