Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/581cf131a17aa06b6f76700ce94d71f3d6da030f
出入国在留管理庁(入管)による長期収容のため、心身を病み、一時的に身柄の拘束を解かれるものの、健康保険に加入することも、働くことも、事前申請なしには県境を越えて移動することも認められていない外国の人たち。 【画像】スリランカ人が描いた入管内の様子 保険がないため、ただでさえ医療費が高額になる上、さらに200%、300%の診療報酬を請求する病院もあるように、今、日本社会は、彼・彼女たちに対して容赦なく厳しい。 そんな仮放免者や非正規滞在者を四半世紀にわたり、主に医療面から支えてきたNPO法人北関東医療相談会(AMIGOS)。スタッフは社会保障から振り落とされ、困難な状況に置かれた仮放免者のために、受け入れ病院を探し、医療へとつないでいる。 こうした状況を当事者はどう受け止めているか。支援団体と連携する病院、そして手術を受けることができた仮放免者に話を聞いた。(取材・文/塚田恭子) ●地域柄、早くから外国人の診療を受け入れてきた AMIGOSでは、仮放免者を医療につなぐため、無料低額診療事業(無低)をおこなっている病院に相談している。無低とは、生計困難者が経済的な理由によって必要な医療を受ける機会が制限されないよう、無料または低額で診療をおこなう、社会福祉法に基づく事業だ。 今年7月、医療費の3割をAMIGOSが負担することで労作性狭心症のネパール人男性を受け入れたのが、埼玉県済生会川口総合病院(川口総合病院)だ。社会福祉士として医療相談を受けている同病院医療福祉事業課の八木橋克美さんは次のように話す。 「AMIGOSさんとの付き合いは8年ほどになります。(事務局長の)長澤(正隆)さんから相談がくると、まずは患者さんの状況をよくうかがいます。この方はこれまでかかっていた病院があったので、その病院から情報をいただき、医師が見立てをして、何度かやりとりをしたあと、当院で手術をすることになりました」 川口市には、中東の少数民族クルド人たちのコミュニティがある。こうした地域柄もあって、川口総合病院では早くから外国人の診療を受け入れてきたという流れもある。 「クルドの方の場合、健康保険を持っている方もいますが、他の国も含めて相談を受けている仮放免者の中には医療費の負担が難しい方は少なくありません。病院では分割払いをお願いしますが、それでも厳しくて、支払いが滞ることもあります。 こうしたケースの医療費を負担してくださっているのが、AMIGOSさんをはじめ、いくつかの支援団体です。これは仮放免者の方々だけでなく、私たち病院へのサポートにもなっています」 ●コロナ禍、無低の病院の未収金が増えている 「同じ病院にばかり相談すると、病院側も大変なので、できるだけ分散するようにしています」。長澤さんがこう話すのは、コロナ禍、病院の未収金が増えているからだ。 病院の現状について、八木橋さんはこう話す。 「川口市は外国の方だけでなく、高齢者も多い地域です。年金で生活している方、生活保護につながらないギリギリの収入の方もいて、コロナ以降、生活に困窮し、医療費の分割払いを希望する方は増えています。 社会福祉法人で、無低を運用している病院として、外国の方に限らず医療にアクセスするのが難しい方がいれば、できる限りのことをするのが自分たちの役割だと思っています」 だが、病院と支援団体だけで医療を請け負うのは限界があると、八木橋さんは続ける。 「そもそも病院では、健康保険への加入の問題などを解決することはできません。外に出している以上、国は仮放免の方々にも、何かしらのフォローをするべきでしょう。 仮放免者に限らず、外国の方は言語や文化の違いなどもあって、生きづらさを抱えています。私たちも支援団体と連携していますが、病院にできることには限りがあるので、医療体制を充実するには、行政や地域の関わりが必要だと思います」 健康保険の有無、国籍に関わらず、誰でも病気にはなり得る。 迫害を逃れて国を出たクルドの人たちをはじめ、仮放免者は帰らないのではなく帰れない事情があって日本にいる。だが、多くの当事者が「社会的な権利は何もなく、自分たちは存在そのものを否定されている」と言うように、入管は日本で暮らす仮放免の人々を、(目の前に)いるのにいない存在として扱っている。 「医療相談に来る仮放免の方々はよく、『自分たちは働くことができるのに、なぜ日本は働かせてくれないのか』と口にします。健康保険がないと、手術や難しい治療ケースの場合、医療費がどのくらいかかるかわからず、高額な医療費は支援団体にとっても大きな負担になるはずです。働ける方には働いて、税金も払ってもらい、健康保険にも加入してもらえばよいのではないでしょうか」 ●来日28年、Lさんの場合 今年7月、労作性狭心症の手術を受けたネパール人のLさんが来日したのは1994年。1990年の民主化後、混乱が続き、のちに10年に及ぶ内戦が続いたネパールで政治活動に関わっていたことが、国を離れる契機となった。 バブルがはじけたとはいえ、1990年代の日本、とりわけ地方の中小企業や工場では、労働者不足は深刻な問題で、3K(きつい、汚い、危険)をいとわない外国人労働者はありがたい存在だった。 入管が公表している非正規滞在者数は2022年1月の6万6759人に対して、1993年は29万8646人。この数字は、各職場が在留資格の切れた外国人を労働力としていたことを表している。 だが、2003年、当時の東京都知事による「首都東京における不法滞在外国人対策の強化に関する共同宣言」を機に、法務省・警察庁・東京入国管理局(当時)が超過滞在者の取り締まりの強化を始める。1990年代の来日以来、就労を通じて日本社会に馴染んでいた多くの人たち同様、2007年、Lさんも入管に収容されてしまう。 「帰国を検討してネパールに連絡をしたら、まだ逃げている人もいる、危ないから帰って来るなと言われたんです。それで難民申請をして仮放免になりました」 入管に二度、収容されたものの、Lさんはもう10年以上、仮放免の状態に置かれている。 ●手術しなかったら、この冬を越せたかどうか Lさんが心臓に痛みを覚えたのは、2016~2017年ごろ。最初は急いで歩いたり、走ることで覚えた痛みは次第に悪化し、普通に歩いていても、つらくなっていったという。 「そのとき友人から『無料で健康診断をしてくれる支援団体があるよ』と教えてもらって。自分で健診を受ければ、何万円もかかるので、AMIGOSが宇都宮で開催した医療相談・健康診断の会に参加しました」 この健診でLさんの心臓に問題があることが判明すると、長澤さんは無低の病院などで構成される社会福祉協議会の医療部会に相談。そこで紹介された自宅の近所の無低の病院にLさんは2年間通った。だが……。 「冬場は身体が冷えるせいか、痛みがさらにひどくなります。温めると少し楽になるので、お風呂で50度近い温度にしてシャワーを浴びたりしていました」 Lさんの症状はさらに悪化。手術が必要と診断されたものの、通っていた病院では対応できないと言われたため、長澤さんが当たったのが川口総合病院で、審査を経て、手術日は決まった。 「手術ができることになってうれしかったです。冬は立っていられないほどの痛みがあったので、手術をしなかったら、この冬を乗り越えられたかどうか……」 父親にも心臓の問題があったLさんは、無事、手術を終えた今、そう振り返る。 「小麦粉、オリーブオイル、ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎなど、AMIGOSからは毎月、食糧も提供してもらっています。先生にはいつも助けてもらっています」 来日28年、流暢な日本語を話すLさんに、長澤さんは健診時に通訳をお願いすることもあるという。 「私たちの質問を丁寧に訳して、それぞれの体調をよく聞き出してくれるんです。これはなかなかできることではありません。母語以外にヒンドゥ語、ウルドゥ語もできるので、インドやパキスタンの人が来たときも、彼に通訳をお願いします」 ●在留資格のない外国人に生存権を 新型コロナウイルス感染症流行の兆しを受け、2020年4月7日、日本でも緊急事態宣言が発令され、政府は市民に不要不急の外出を、飲食店、百貨店、映画館などに営業の自粛を要請した。 重苦しい空気の中、行動制限とはどれほど不自由なことか、肌で感じ、ストレスを覚えた人は少なくなかったはずだ。 収容を解かれているとはいえ、就労も、健康保険への加入も、移動の自由も認められない仮放免者は、見えない牢屋に入れられているのと変わらない。多くの人がごく短期間でうんざりし、もう御免と思った緊急事態宣言下に、彼・彼女たちはずっと置かれている。 「治療にしろ、手術にしろ、患者さんにとって必要な医療は、在留資格の有無に関わらずするしかないと思います。ただ、医療費がかかる以上、この問題をどうするか、今後は行政も一緒に考えなければいけないことでしょう」と八木橋さんは言う。 支援団体と病院の連携という細い糸によって、仮放免者の命はつながれている。だが、コロナ禍や戦争の影響による物価上昇のしわ寄せは、まず生活困窮者を直撃する。 仮放免者の医療と生活は、すでに自助共助で何とかできるものではなく、支援団体と無低の病院だけで負っていたら、共倒れしかねない。 今年3月、AMIGOSは仮放免者生活実態調査報告を発表すると同時に次のような提言をおこなった。 (1)就労を認めること (2)国民健康保険など医療保険の加入を認めること (3)無料低額診療事業をおこなう医療機関への支援・未払補填事業の整備拡充をおこなうこと (4)(仮放免者に)生活保護法を適用すること 迫害を逃れて日本にやって来た難民申請中の人。1990年代、人手不足の日本を労働者として下支えしてきた人。日本人の配偶者や家族を持ち、すでに生活の基盤が日本にある人。仮放免者の多くはこのような人たちだ。 長く日本にいて、言葉もできて、習慣も理解し、何より就労を望む人たちが、入管によって身動きの取れない状況に置かれている。誰にとってもメリットのないことを、入管はいつまで続けるのだろう。 病院に行くこと、食べることを我慢し、家賃も払えずに困っている。在留資格がないだけで、仮放免者は生きることも許されないのか。 11月2日(水)、AMIGOSは移住連、反貧困ネットワークなどとともに、「在留資格のない外国人の生存権を求める院内集会と省庁交渉『生きられない!―在留資格のない外国人の現状と支援現場からの提言』」をおこなう。
弁護士ドットコムニュース編集部
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