Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/db19deb39d9dc7a4acc5c270ca984b1839b8598c
日本発着の国際線は急速な回復傾向にある。多くは訪日需要であるが、日本人海外旅行者も徐々に増えている。「海外で鉄道の旅をしたい」という需要も高まっているのではないだろうか。 【写真】整然としているが犯罪も多いヨーロッパの駅、終日大混雑だが危険は感じないインドの駅、もっとも危険な国になったベネズエラの地下鉄・・・ しかし、行きたい旅行先は多々あろうが、安全な旅行先を選択したいものだ。 ■安全な国ベスト10は? 経済平和研究所(オーストラリア)の2022年ランキングによれば、世界でもっとも安全で平和な国はアイスランド、ニュージーランド、アイルランド、デンマーク、オーストリア、ポルトガル、スロベニア、チェコ、シンガポール、日本がベスト10である。
しかし、アイスランドに鉄道はなく、ニュージーランドは都市鉄道と観光列車のみ。鉄道を使っての旅行が安全に楽しめそうな国は、アイルランド、デンマーク、オーストリア、ポルトガル、スロベニア、チェコということとなる。シンガポールも都市鉄道のみだが、隣国マレーシアも安全度18位と、アジアでは日本に次いで安全な国なので、マレー鉄道もおすすめである。 ランキング最下位の163位はアフガニスタンだが、目を引くのはフランスが65位、アメリカに至っては129位といったところだろうか。かといってハワイが危険とは感じないが、日本人に人気の渡航地でも安全度が意外に低い。
アメリカ1カ国まとめて129位には異論もあるところで、地域別に考えないと合理性がない部分もある。安全な国の多くは総じて「田舎」ということもでき、一般的に大都市は犯罪が多いのは世界共通である。フランスもパリの観光地と地方都市では安全度は大きく異なるだろう。 同じ都市でも安全度は異なり、どうしても観光客が集まる地域、そして鉄道ファンには残念ながら国際列車が発着するような大きな駅、および周辺は一般的に治安がよくない。スリ、置き引き、ひったくりといった犯罪が絶えない場所である。夜行列車、地下鉄、地下鉄駅構内も危険度が高い場面だ。前述の安全な国でも、鉄道旅行は一般的に危険な場面があると自覚したほうがよく、油断してはならない。
イメージと実態が異なることも多い。ヨーロッパ主要駅、大混雑のインドの駅、はたまた人混みのネパールの市場、この3カ所でいえば、インドやネパールで危険を感じることはなかった。インドの鉄道駅で列車の写真を撮っていると、裸足の男などから「鉄道の写真を撮るんだったら俺を撮れ」と声をかけられるが、そこに悪意はない。 しかし、ヨーロッパの主要駅で何かを尋ねられたら、「ほかの目的があるのかもしれない」と警戒したほうがいい。1人が訪ねごとをし、気をそらせておいて、仲間がバッグに手を入れるなどはスリの常套手段である。尋ねごとをする人は概して、いわば身なりのきちんとした人だったり、旅人を装ったりしているので「悪意なのか、本当に困っているのか」の判断が難しい。
■筆者はバックパックごと盗まれた もう10年程昔になるが、私は国際列車の車内で、バックパックごと盗まれるという体験をした。車両は日本の特急列車と同じような座席で、コンパートメントではなく、荷物を残して席を離れたわけでもない。アムステルダム発、ブリュッセル北駅、ブリュッセル中央駅経由ブリュッセル南駅行きである。ブリュッセル北駅が近づいたところで、通路を挟んだ斜め前方に座っていた男が、「次の駅は終点じゃないですよね?」と尋ねてきたので、「はい、終点は南駅、そこが一番大きな駅で街の中心にも近い」というようなやり取りをしたが、ブリュッセル北駅発車時点で、荷物棚においた私のバックパックがなくなっていた。
すると、前述の男は「大変だ」と、車掌に通報してくれるのだが、よくよく考えてみると、その男は窃盗犯の仲間で、私の気をそらせていたのに違いないと思った。後で考えるとなのだが、周囲には地元の人が大勢いるのに、アジア人にブリュッセルの事情を尋ねるのは不自然である。 このときは妻も窓側に座っており、私のバックパックは10kgまではないものの7~8kgの重さはあったはずで、それをわれわれに気づかれずに荷物棚から盗んだことになり、かなり手慣れた犯行といえる。しかも、仲間の男はわざわざ車掌に通報したのだから、犯罪者に「余裕」すら感じてしまう。
ネットで検索してみると、パリ―ブリュッセル―アムステルダム間の国際列車や駅構内は要注意路線になっていた。筆者はこのときベルギーを列車で旅するのは4度目だったのであまり緊張感がなかったが、治安悪化を自身で体験したのである。 このときは長距離列車であるが、日本人にしてみれば、通勤電車や地下鉄車内でも荷物棚があるのは当たり前である。しかし、世界的には地下鉄などに荷物棚があるのは日本や韓国など、治安のいいごくごく一部の国である。残念ながら、「荷物棚に荷物を置く=盗んでください」となってしまう国が大勢を占めている。
日本では空いている地下鉄車内ではドアに近い端っこから席が埋まるが、ニューヨークでは端っこは敬遠され、中央から埋まる。端っこはドアに近いので、ひったくり被害などに遭いやすいからだ。 ■偶然を装って話しかけてくるので要注意 私はこのベルギーでの体験以降、少し考えが変わった部分がある。旅先で見知らぬ人に話しかけられることはよくあるが、ひょっとしたら、そのうちのいくつかは「悪意があったのでは」と考えるのである。
前述のベルギーの件も、男に話しかけられた際、私が直上の荷物をチラチラ見ていれば未遂に終わったはずだ。仮に未遂に終わっていたとし、男と話がはずめば、それはいい思い出になってしまうかもしれないからだ。彼らは「偶然を装う」のがかなり上手である。「すさんだ社会」を感じてしまうが、これが世界の現実なのと、「日本人は警戒心が希薄(よく言えばお人好し)」であることも自覚しておいたほうがいい。 発展途上国では、スラム街など「観光客が足を踏み入れてはいけない地域」があり、「そこに近づかなければ比較的安全」というケースは多い。しかし、ヨーロッパの厄介なのは、駅や観光地などで、スーツ姿だったり、観光客姿に扮したりし、フレンドリーに話しかけてくる人が、実はスリの仲間ということが多いことだ。先進国だからという油断は禁物である。
犯罪に手を染めるのはどうしても移民が多い。仕事を求め、祖国を離れてヨーロッパへ来たものの、仕事にありつけず、犯罪の道をたどるケースが多い。かつての移民は、多くの親戚から費用を工面してもらい、やっとの思いで出稼ぎに行ったのだが、近年はLCC(格安航空会社)や格安バスの発達で、気軽にヨーロッパへやってくることが可能になったことも影響している。 ヨーロッパの駅構内で、悪意はないものの、「スモールマネー」などと声をかけてくる人もいる。小銭に崩して欲しいのかと思いきや、「故郷へ行く切符代が足りない」などと言い出される。彼らは大きな金額は要求せず、1日中、駅構内を歩き回って1ユーロ程度の小銭を集めるのである。こちらも駅ではさまざまなホームへ何度も移動して列車を撮影していたので、何度もその男とすれ違ってしまう。日本とは状況がかなり異なる。
自国民ではない人たちが犯罪に手を染めているケースが多く、スリなどに遭うのは大抵が旅行者なので、地元民は治安が悪くなっていることに気付いていないというのも厄介な部分で、個人主義なので、治安正常化意識の希薄さも感じる。 警察に、犯罪に遭ったことを届けることになるが、警察は「また日本人か」といった顔をするだけである。海外旅行保険の関係で警察での書類は大切であるが、日本と違って、窃盗は「盗まれるほうが悪い」というのが基本姿勢で、「お気の毒に」という顔をされれば良心的な警察である。
■スリ遭遇の対処も考えておく 昔から日本人はスリなどの被害に遭いやすいとされていて、それが現在はさらに顕著になっている。同じ東洋人でも韓国人や中国人は日本人ほどスリなどのターゲットになりにくい。それは、日本人は現金を持っている可能性が高いからである。 キャッシュレス化が進んだとはいえ、日本はまだまだ現金主義の人が多い。「日本人イコール現金」のイメージを払拭するためにも、海外では現金を最小限にとどめたほうがいい。人前で多額の紙幣などを見せてしまうのは絶対禁物で、「奴は現金を持っている」と認識されると、何時間でもつけ回して隙をうかがうのだ。
海外でキャッシュレス化が進んでいる背景には、犯罪抑制という考えもあり、現金がほとんど流通しなくなったスウェーデンでは犯罪も減ったという。スリなどにしてみれば、盗む対象がなくなったのである。正確には「犯罪が減った」のではなく、スリ犯が別の国へ移動したと考えるのが妥当だ。 しかし、窃盗被害を完全に防ぐ手立てはないので、窃盗はある程度あることを前提にした所持品、荷物作りも必要である。クレジットカードの複数化、保管場所の分散化、パスポート番号、緊急連絡先などのメモ、インターネット環境も不可欠なので、予備のスマートホンも有効であろう。写真撮影に力を入れている人は、旅行中にデータをコピーしたり、クラウドへ保存したりも、カメラを盗まれた場合に有効である。
日本人は「整った身なり」という特徴を感じることもあり、もっと普段着で旅ができるようにする必要も感じる。どうしても出稼ぎ労働者目線からすると、綺麗な格好で観光旅行という姿は、妬まれる可能性大に感じる。 安全な国、危険な国は流動的でもある。経済発展などで安全度が増した国もあれば、危険になった国も多い。ミャンマーは日本の中古鉄道車両が走ることで日本の鉄道ファンに人気であったが、治安はよかったのに、自由度が急減したため行きにくくなった国である。逆に、民主化によって国民は自由を得たものの、治安が悪くなった国も多い。
筆者はかつて南アフリカ、ジンバブエ、ベネズエラなどでも鉄道を利用したが、現在は治安悪化で鉄道旅行どころではなくなっているという。 ■夜のティワナは危険 南アフリカは人種隔離政策撤廃以降、近郊列車に外国人が乗ることが難しい状況になったという。ベネズエラはかつて産油国として南米で最も潤っており、首都カラカスにはお洒落なメトロが走っていたが、反米政権になってからは極度のインフレなどから治安が悪化、世界で最も危険な国に数えられるようになった。ジンバブエも鉄道の旅が楽しい国であったが、極度のインフレが庶民の生活を圧迫、治安が悪化した。
同じ国でも治安の地図が変化した国もある。かつてのメキシコはアメリカに近い北部ほど経済発展し安全であったが、現在は逆になった。貧しいメキシコ南部やメキシコ以南の中米各国から、人々が仕事を求めて陸路アメリカを目指すのだが、簡単にはアメリカに入れず、けっきょくメキシコ北部にとどまってしまい、治安が悪化している。 アメリカと接するティワナは、アメリカのサンディエゴからトラムに乗ってボーダーへ、歩いて国境を越え、気軽にメキシコが楽しめる場所で、アメリカ旅行にちょっとだけメキシコを味わうのにいい町であった。しかし、現在は治安が悪化、アメリカ人も「夜のティワナは危険」と、日帰りしかしなくなったという。
海外鉄道旅行は楽しい場面が多い反面、危険な場面も多々ある。一般的な安全情報と駅や車内での事情が異なることも多いので、鉄道旅行に特化した犯罪の手口を知っておくことも必要であろう。
谷川 一巳 :交通ライター
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