Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/a65b22b18bda2d246915fb824e53c096c23aa47e
スキャンダルと反人権の課題だらけだった
カタールで開かれたサッカーW杯は、決勝戦でアルゼンチンがフランスをPK戦で破り、36年ぶりに優勝した。 日本やモロッコの活躍も目立った。アジア・アフリカ諸国の水準が著しく向上していることを示している。 カタールは秋田県くらいの面積しかない小国であるが、石油や天然ガスに恵まれた豊かな国である。 この国が、今回のような一大スポーツイベントを開催できることを示したことは、中東諸国にとって大きな励みとなった。サウジアラビア、UAEのような中東の産油国は、ポスト・石油の産業を模索しており、カタールのスポーツ立国もそのモデルである。UAE のドバイでも、競馬のW杯を開催したり、観光に力を入れたりして、大きな成功を収めている。 今後は、カタールと並んで、エジプトやサウジなども、サッカーW杯、夏季五輪、万博などに立候補する予定である。 しかしながら、今回のW杯については、人権問題やEU議会への贈賄疑惑のように政治に関わる争点が浮上している。 イギリスのガーディアン紙によれば、2010年から10年間で外国人労働者6751人が死亡したという。低賃金で非人間的な労働条件で働かせたのは人権問題だとヨーロッパの先進国は非難しているのである。 カタールの人口は約280万人であるが、その9割は外国人で、様々な分野で働いている。カタールは石油生産量で世界15位であり、天然ガスでは6位であり、その輸出で稼いだ金を国作りに注ぎ込んでいる。特に2010年にサッカー2022W杯の招致が決定して以来、会場建設などのために、インド、パキスタン、バングラデッシュ、ネパール、スリランカなどから外国人労働者が多数流入してきた。 今回の大会の開催費用は30兆円と言われており、東京五輪の3兆円の10倍である。まさに桁違いのお金のかけ方である。 また、LGBTQを認めていないことも人権に反すると批判されるが、カタール側はイスラム教は同性愛を認めていないと反論している。 さらには、屋根のないスタジアムに強力な冷房を効かせているが、それが大量の温室効果ガスを排出することにつながると批判されている。 このような欧州諸国からの批判を封じるためか、カタールはEU議会に対して賄賂攻勢に出ていたことが明らかになった。ベルギーの検察は欧州議会のエヴァ・カイリ副議長(ギリシャ出身)ら4人をカタールからの収賄容疑で逮捕した。カタールは、人権問題などでの国際社会からの批判を免れるために、欧州議会の影響力に期待して賄賂を贈ったようだ。 カイリ議員のアパートから15万ユーロ、他の容疑者の自宅から60万ユーロ、ホテルの部屋のスーツケースから75万ユーロの現金が見つかっている。欧州議会は、カイリ議員を副議長から解任した。欧州議会は11月にカタールの人権状況の改善を求める決議を採択しているが、その際にカイリ議員はカタール擁護の発言をしている。 欧州議会のロベルタ・メツォラ議長は「ヨーロッパの民主主義にとって困難な日々だ」と述べているが、検察によると、「犯罪組織の参加、マネーロンダリング、汚職」の容疑だという。捜査が進めば、一大スキャンダルとなる可能性がある。 この汚職問題は、実は札幌五輪誘致にも大きく影響する。東京オリンピック・パラリンピックを巡って贈収賄事件を検察が捜査することになり、それが日本への五輪誘致のハードルとなってしまった。カタールの今回の不祥事で、スポーツに絡む贈収賄事件に対し、IOCはますます神経質にならざるをえなくなっている。安易に札幌に決定されることはあるまい。 ウクライナでは戦争が続いているが、ゼレンスキー大統領は、サッカーW杯決勝戦の開始前に世界平和を映像で訴えたいと要望を出した。しかし、FIFAはこれを拒否した。 この決定は、スポーツに政治を持ち込まないという観点からは妥当である。先述した主催国カタールの人権問題は、W杯準備に従事した労働者の問題なので、カタール批判が起こり、議論されるのは納得できる。しかし、今回のゼレンスキーの希望はカタールとは何の関係もない。 ウクライナのクレバ外相は、FIFA の拒否に対して、「『スポーツと政治は別』とのうたい文句は偽善に過ぎないとわかった」と不満を表明したが、決定が覆ることはなかった。スポーツの政治化は極力避けるべきである。
舛添 要一 (国際政治学者)
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