Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/f836e8bfc1ed87d560bb75e93d9d755cca9adff2
いわゆる「エビデンス」が一番堅牢な健康食は、地中海食といわれるもので、地中海沿岸の食事をいいます。その構成要素は以下のとおりです。 ・加工をほとんど施さない、全粒の穀物や豆が主体 ・毎日、生野菜たっぷり ・新鮮なフルーツ、ときに蜂蜜 ・脂質の供給源としてのエクストラバージン・オリーブオイル、ナッツ、植物の種 ・ほどほどに食べる魚 ・少量のチーズやヨーグルト。バターやクリームは摂らない。牛乳もコーヒーに入れる分だけ ・赤い肉や加工肉は週に1回、あるいはそれ以下のみ使用 ・食事のときだけ、ワインを少々、あるいはほどほどに 疫学研究によると、地中海食により、心血管疾患、脳卒中、肥満、糖尿病、高血圧、ある種のがん、アレルギー疾患、アルツハイマー病やパーキンソン病の予防効果があるそうです。 では、なぜ地中海食は体によいのか。そのメカニズムは十分に解明されていないのですが、いくつかの学説はあります。たとえば、不飽和脂肪酸の消費。飽和脂肪酸が心血管疾患を増やす一方、不飽和脂肪酸の消費は、いわゆる悪玉コレステロール(LDL、low density lipoprotein)を減らし、血管の病気の予防効果があります。 地中海食と同様に、臨床医学の世界で推奨されている食事法に、「DASH」と呼ばれるものがあります。これは「高血圧を止めるための食事法アプローチ、Dietary Approaches to Stop Hypertension」の頭文字をとったものです。 高血圧、といっていますが、実際には、健康のための食事、と換言しても構わないと思います。DASHによるコレステロールの低下効果なども実証されていますから。 DASHの特徴は、 ・カリウム、カルシウム、マグネシウム、食物繊維、タンパク質をたくさん ・飽和脂肪酸、トランス脂肪酸を少なく ・塩分、砂糖、砂糖の入った飲料、赤い肉を少なめに ・全粒粉、魚、鶏肉(白い肉)、ナッツ とあります。こうしてみると、じつは地中海食とかなりかぶっていますね。 トランス脂肪酸とは、二重結合のところがトランス型(折れ曲がったシス型ではなく、真っ直ぐになっている)の不飽和脂肪酸のことです。マーガリンのような加工食品、羊の肉などにも入っています。転じて、パンやケーキ、ドーナツ、生クリームにもトランス脂肪酸が入っています。 トランス脂肪酸は、LDLと呼ばれる悪玉コレステロールを高める作用が指摘されており、過剰に摂取しないことがすすめられています。WHO(世界保健機関)とFAO(国際連合食糧農業機関)は、トランス脂肪酸を摂取カロリーの1%未満に制限することを提唱しています。 欧米ではトランス脂肪酸の表示義務など、様々な規制が行なわれています。ところが、日本ではこのような規制が行なわれていません。これは、日本人が1日に摂取するトランス脂肪酸が、全カロリーの0.3~0.47%程度と極めて低く、WHOらの基準を満たしているからです。 ■日本の食事の、DASHや地中海食との親和性 DASHとか地中海食を、そのまんま日本に持ってくると、少し「違和感がある」という感じになると思います。が、よく見てみると、その「本質」は、日本にも持ってこられそうです。というか、ぼくらが普段食べている食事で、十分に地中海食やDASHの「本質」には迫れているのではないでしょうか。 「World Population Review」を見ると、BMI30以上の肥満(obesity)の割合は、日本はわずか4.3%です。日本よりも肥満が少ないのは、インド、ネパール、カンボジア、ベトナムなど、わずかな国しかありません。 ちなみに、韓国も4.7%と「肥満」は少ないです。韓国ではBMI25以上の体重過多は増えていても、30以上の肥満はそうでもないのですね。アメリカ合衆国の「肥満」の割合は36・2%ですから、全然違います。 このレポートでは、日本で肥満が少ないのは驚きではなく、それは日本の食事が魚介類や、新鮮な食材を使っており、食事の量が少なく、砂糖を加えた料理が少なく、乳脂肪分をたくさん摂っていないから、と説明されています。これが「とても健康なアプローチ(very healthy approach)」だというのです。世界的には、日本の食事はむしろ高く評価されているのです。 それはともかく、DASHが日本の食事にアプライできるか、ちょっと考えてみましょう。 まずは、カリウムですが、これは野菜、果物、海藻類に多く含まれます。いずれも日本で容易に手に入ります。食物繊維も同様に摂取できます。 マグネシウムは、魚介類、海藻類に豊富です。これも日本ではいとも簡単に手に入ります。 カルシウム。これは従来の「和食」では不足することが多いミネラルだといわれてきました。多く含まれるのは、牛乳、ヨーグルト、チーズなどの乳製品です。「和食」でいえば小魚などです。 でも、「日本の食事」=「和食」ではありません。どこのスーパーに行っても、牛乳、ヨーグルト、チーズは容易に手に入ります。そういえば、コロナ以降、牛乳が余り気味で消費が励行されています。日本の食事(必ずしも和食にあらず)でも、カルシウムの摂取は難しくありません。 余談になりますが、牛乳は以前から、健康によいのか、悪いのかという、侃々諤々の議論が行なわれてきました。カルシウムとタンパク質の多い牛乳は、健康にプラスな側面を持ちますが、反面、カロリーの高さ、脂肪分の多さはマイナス面です。で、たくさんの臨床研究も行なわれてきました。 が、たいていの侃々諤々の議論がもたらすものがそうであるように、牛乳は「善でも悪でもない」というのが結論です。ほどほどの消費は健康によく、過度の摂取は健康によくないと考えるべきでしょう。あたりまえといえばあたりまえですが、世の中の真理の多くは、案外、「あたりまえ」のなかにあったりするのです。 ※ 以上、岩田健太郎氏の近刊『安い・美味しい・簡単 実践 健康食』(光文社新書)をもとに再構成しました。感染症内科教授でありながらファイナンシャル・プランナーの資格も持つ著者と考える、お金をかけずに美味しく楽しく健康になる方法とは?
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