Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/7e28b0308a73bd9c0ac40adb39cd2d614c66da88
『バリ島で島流し 2022.10.17~12.15 59日間 総費用22万7000円』 日本語学校の経営者A氏に話を聞いた。生徒数は約20人。午前、午後、夕方の3部制で授業をしており生徒の都合にあわせて通学できる。教室では5人の若い女性が日本語の教科書で勉強していた。また個室では青年がオンラインで日本の講師と日本語会話をしていた。 A氏によると、彼の日本語学校では主に介護職の特定技能として日本での就労ビザを取得するために日本語能力試験でN4レベル(JFT Basic A2)を合格させることが第一の目的とのこと。試験では(1)言語知識(文字・語彙・文法)、(2)読解、(3)聴解(ヒアリング)が出題されマークシート方式で回答する。従って書くこと、話すことの能力は問われない。半年の学習で大半の生徒はN4レベルを合格するという。
採用面接では“動機”“やる気”“元気”が合格の決め手
A氏はN4の合格は通過点であり彼の学校の最終目標はテレビ会議方式での日本側事業者との採用面接試験に合格することだと強調した。A氏は生徒の採用面接に同席している。A氏によると日本の受け入れ側(雇用者)が重視するのは“動機”“やる気”“元気”という“三気”であるという。 雇用者は日本語が多少拙劣でも“三気”があれば即決採用するようだ。雇用者は外国人が日本での職場体験を通じて日本語が瞬く間に上達することを熟知しており、むしろ人柄を重視するらしい。 A氏は優秀な生徒に限って「お金を稼いで家を建てて親孝行することです」などと真面目な本音を話してしまうという。面接前に「日本で先進的な介護を学んで帰国後の自分のキャリアに役立てたい」とか雇用者側が期待するような回答をするように指導しているとのこと。
とにかく何がなんでも3年我慢しろ
A氏は就労先が決まり日本に渡航する特定技能の生徒に対して「3年間は死んだつもりで我慢しろ」と諭すという。3年我慢すれば最長5年まで日本滞在を延長することが可能となることを理解させるのだ。 そして制度上は基本3年以上経過し、指定された介護試験(実務者研修)に合格すれば介護福祉士国家試験の受験が可能となる。この難関の日本語の介護福祉士国家試験に合格すれば日本で永続的に就労が可能となる。そして家族を呼び寄せて暮らすことが可能になる。A氏は「介護福祉士国家試験の日本語が難解すぎて実際上は門戸が閉ざされている。この日本語のバリアを下げなければ不合格となり5年で帰国しなければならない。遠からず日本での介護職を目指すインドネシア人はいなくなる」と日本政府の検討を求めた。 なお、上記の介護試験(実務者研修)の成績が良ければ、勤務先の企業次第で就労期間が延長され特定技能2期生に進むことが可能となるという。
インドネシア人にとり日本での就労のメリット・デメリット
A氏によると介護分野は先進国ではどこも人手不足。賃金が高い米国・カナダ・オーストラリアは英語能力が求められる。英会話が達者なフィリピン人との競争となりインドネシア人は不利。他方で台湾は賃金が低い。 日本語能力検定N4合格は必須であるが、半年程度学習すればだれでも合格できるのでハードルは高くない。総合的に判断すれば日本での就労は魅力的ということになるらしい。 他方でインドネシアの人口規模に比較して日本の在留インドネシア人が少ないのはイスラム教という宗教の障壁であるとA氏は分析。女性はヒジャブを着用するので日本の老人には違和感がある。食事は豚肉を調理した鍋、フライパンは使用できないので専用の調理道具が必要となる。バリ島は住民の90%以上がヒンズー教徒なので日本の生活に問題がないと指摘。 2022年の在留外国人統計によると中国人78万人、ベトナム人45万人、韓国人43万人、フィリピン人28万人、ブラジル21万人、ネパール10万人、インドネシア人7万人。確かに2億7000万人の人口に比して在留インドネシア人が少ないのは一目瞭然だ。
山間部の農村の日本語学校
あるとき、2人の可愛い女子が元気よく「オハヨーゴザイマス」と挨拶。聞くと2人は山奥の村の出身でゲストハウスの1つの部屋を2人で借りて近所の日本語学校で勉強しているとのこと。 2人に案内されて日本語学校に行くとオーナー兼校長のB氏が大歓迎。B氏自身、福島県の農家で3年働いて帰国後に実家の建物を改装して日本語学校を開いたとのこと。 生徒は現在50人。先生は他に4人、全員日本での就労経験者。午前の部は9時~12時、午後の部は13時~16時。午前・午後それぞれ25人ずつ勉強している。なんと20人超が遠い村の出身で、下宿生活しているという。残りの30人弱も大半が別の村の出身で延々とバイク通学している。 1人の青年はN4合格して採用面接試験もパスして2カ月後に訪日して千葉県の農家で働く予定であった。教室の前に炊事場があり下宿生活している生徒が朝食を準備していた。
面接試験は純日本式昭和的雰囲気
授業開始までしばらく時間があったので、採用面接試験の様子を撮影したビデオを見せてもらった。建設会社の採用面接で髪を短髪に刈り込んだ5人の男子が名前と受験番号が記載された大きな名札を胸につけた白い開襟シャツ、黒い長ズボンというリクルート・スタイルで背筋を伸ばして椅子に座っている。順番に名前、年齢、家族構成、得意科目、特技などを大きな声で自己紹介する。次に日本の面接官がスポーツは何が得意かなど簡単な質問をして順番に回答する。 B氏によるとやはり元気よく大きな声で話すことが合否のポイントとのこと。卒業生の日本での就労分野は主として農業、建設、介護という。
医療福祉系大学の日本語クラスの熱気
散歩中に大きな大学があったので立ち寄ってみた。警備員が日本人のゲストが来たと連絡すると日本語教師というインドネシア女性が出てきて案内してくれた。私立大学で1学年200人、約800人が在籍。看護師、助産婦、栄養管理士、薬剤師を養成するコースがある。女子が半数以上で生徒の大半はバリ島出身であるがスラウェシ、スラバヤなど他地域出身者もいる。 看護師コースでは日本の受入機関と提携しており5年前から日本へ介護職として累計125人を送り出している。当日も午後から日本の関係者が視察と打ち合わせに来るという。 授業料は年間日本円で9万円相当。財団からの補助金があるので低く抑えられているという。ジャカルタの同様の医療福祉系私立大学が年間15万円とのこと。ちなみにインドネシアの平均年収は約40万円であり日本の10分の1。 日本語教師の女性は授業を中断して案内してくれたらしい。キャンパスを一通り案内してくれた後に彼女の日本語クラスを訪問。大教室に生徒が70人くらいおり女性教師が筆者を紹介すると大歓声。生徒が希望しているので講話をお願いしますとのこと。マイクを持って教壇から放浪爺さんの経歴、海外放浪歴、バリ島の感想などを段落毎に区切り日本語で話して英語で繰り返すと歓声と拍手の連続。最後に全員で記念撮影と相成った次第。
日本語は必ずしもインドネシアでブームではない
このようにしてバリ島の日本語の教育現場を訪問するとインドネシア全体で日本語がブームのように想像しがちであるが、それは違うようだ。インドネシアでも外国語学習のトップは英語である。公立小学校でも1年生から毎週2時間英語の時間が義務付けられている。インドネシアにおける外国語学習者のなかでは英語、韓国語についで日本語は第3位という。 高校の選択科目である第2外国語に日本語があるのでアニメなど日本文化が好きな高校生が日本語を学習している。インドネシアの日本語学習者の90%は高校での第2外国語選択者という。 韓国語は近年のKポップ、Kドラマの影響であろうか。ちなみに筆者はバリ島滞在中にTVやビデオでKポップ、Kドラマ(吹き替えまたは字幕付き)を散々見聞きしたがJポップ、Jドラマは記憶がない。唯一JKT48を一度だけテレビで見かけたくらいである。 なお、5年前にインドネシアのジャワ島、スマトラ島、スラウェシ島を放浪した時に地方都市で頻繁に見かけたのは中国語教室である。確かに多数の中国企業が中国に進出している現状からは中国語教室が繁盛するのは理解できる。
日本で就労するために平均年収3年分の借金を背負い込む
滞在中泊まった、あるゲストハウスのオーナーの2女は栃木の養鶏場で働いている。満3年経過したので年末に一時帰国するという。さらに1年延長する予定で最終的には累計5年就労してから故郷に戻る計画という。 オーナーによると5年間就労しないと元が取れないという。オーナーによると日本で就労するためにはエージェントに合計125万円相当を渡航前に一括で払い込む必要があるという。 エージェントによると125万円の半分くらいが日本語学校費用+航空券という説明らしい。残りについては必要手数料とのことで明細は開示されない。往復航空券が20万円、日本語学校授業料が10万円(月額1万円×6カ月+教材)と仮定しても30万円である。就労ビザ取得手続き代行料を数万円としても90万円超が不透明な手数料である。オーナーによると日本就労のコストとしてエージェントに払い込む費用125万円は一般的水準という。インドネシア人の平均年収40万円から換算すると年収3年分という莫大な金額だ。 オーナーは自己資金と親戚からの借金で資金調達した。しかし大半の親は銀行から高金利で借りるので日本に渡航してから1~2年間は銀行借り入れの元利返済でほとんど手元に残らないという。 現地紹介会社や監理団体を介在させる現行制度ではかねてから不透明な仲介費用が問題視されてきた。直接当事者から話を聞いて改めて日本の制度設計に疑問を感じるとともに闇の深さを想像した。
日本就労のために渡航前に支払いが必要な金額とは?
報道でお馴染みのようにベトナム人やネパール人の技能実習生も同様に多額の費用と負担して訪日している。5年前にカトマンズ近郊の村で聞いた話では日本で仕事をするためには1万~1万5000ドルをエージェントに払い込むのが相場であった。 日本の政府機関の調査では数年前の時点でアジアの技能実習生は渡航前に平均75万円の借金をしていたという。昨年の入出国管理庁の聞き取り調査では借金は平均55万円だった。自己資金含めて実際にエージェントに支払った平均金額は統計数字が見つからない。 特定技能と技能実習生でも異なるだろうし、出身国や地域によっても異なるだろう。例えばデンパサール近郊で聞いた話では渡航前費用(日本語授業料、寮費、教材、受験料含む)は、30万円~40万円+航空券というようなケースもあるようだ。フィリピンには日本の老人介護施設団体が運営している日本語学校があった。おそらく似たような運営形態の日本語学校で学べば本人負担は比較的少ないであろう。また上記の医療福祉系大学も日本の受け入れ側と提携しているので費用は抑えられるだろう。
アブナイ感じの元技能実習生のヤバそうな儲け話
ウブドの目抜き通りで、日本語で話しかけてきた29歳の青年の話を思い出した。彼は茨城県の農家で技能実習生として3年働いて数年前に帰国。最低賃金の時給でいくら真面目に働いても借金を返済したら手元にほとんど残らない訪日後まもなく悟ったという。 そこで仲間から紹介された東京の日本人の配下で週末のアルバイトをした。新宿や池袋の繁華街で店の呼び込みのようなことをしていたらしい。どうも他にもあぶない仕事をしていたような感じだった。週末は新宿近くのインドネシア人数人が雑魚寝しているアパートをねぐらにしたという。こうして彼は3年で600万円貯めたと豪語した。 彼は最近ビジネスの元手資金を稼ぐために例の東京の日本人と組んで日本の建設業界にインドネシア人を送り込む仕事を始めたという。1人紹介すれば最低でも10万円になるので100人紹介して1000万円稼ぐのが目標だと言った。 やはり現行の日本の外国人就労制度には深い闇があるようだ。
高野凌
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