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これからビジネス競争で生き残るには何が重要なのか。途上国発のアパレルブランド「マザーハウス」副社長の山崎大祐さんは「裏付けのあるファクトが重要になるはずだ。そのためにはニセモノの教養ではなく、一流研究者の方法論を学ぶべきだろう」という。山崎さんの大学時代の同級生で、歴史学者の山本浩司さんとの対談をお届けする――。 【写真】マザーハウス副社長の山崎大祐さん ■本格的な歴史研究はビジネスに活かせる 【山崎大祐(マザーハウス副社長)】2006年に代表の山口絵理子と設立して以来、「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という理念を掲げて、バッグ、アパレル、ジュエリーなどをつくってきました。素材も、職人も、ぜんぶ現地オリジナルです。バングラデシュから始まり、いま工場は、ネパール、インドネシア、スリランカ、インド、ミャンマーの6カ国に拡大しています。 このかたわら、2019年に「Warm Heart Cool Head」という会社を設立し、主にビジネスパーソン向けの経営ゼミを開いています。思いをカタチにすることを目指す経営者に必要なビジネススキームを経営ゼミで提供するだけでなく、ビジネスに必要な教養を学び合う「教養ゼミ」も行っています。 ここ数年、ビジネスシーンでは「教養」がブームになっていて、「哲学や歴史の学び直しが重要だ」などとよくいわれます。でも、よく調べると、エビデンスや出典といった「ファクト」の怪しい話が多いんです。薄っぺらな「教養っぽいもの」では、ビジネスの役には立ちません。本格的で実証的なものである必要があります。 そこで大学で一緒だった山本さんのことを思い出しました。現在は東京大学で経済史の研究者となっている。山本さんのような一流の歴史学者に、本物の教養をうかがいたいと思っています。 【山本浩司】わかりました。今すぐビジネスに役立つかはわかりませんが、僕の専門である17~18世紀イギリスの社会と経済についてはいろいろ話せると思います。 ■ビジネスが行き詰まっている 【山崎】歴史をはじめとする教養への関心が高まるのは、明確な理由があると僕は思っているんですね。 「資本主義はイノベーションだ」といわれます。オペレーションを劇的に改善するのもイノベーションですし、世の中にない価値を生み出すのもイノベーションです。いま後者が圧倒的に足りていない。プラットフォームがあってもコンテンツがないわけです。 そうやってビジネスが行き詰まる中で、どうすれば「0→1」を生み出せるのか。ビジネススクールに限界があって、注目されたのがデザインスクールですが、さらにその先の新しい何かが求められているのです。 そのときに行きついたのが、僕は教養だと思ってるんですよ。 しかし、教養を身に付けたくても、アプローチの方法がわからない。だから、山口周さんをはじめとする、ビジネスの教養をまたぐ著書が人気になるわけです。ベストセラーとなった『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 』(光文社新書)はビジネスパーソンに教養の重要性を広めたという点で、大きな功績があると思います。 ただ、山口さんの本を、そのままビジネスに活用するのは簡単ではありません。たとえば「審美眼が大切」としても、現実のビジネスで審美眼を使う場面がどんなところなのか、実際の経営にはどう落とし込むべきなのか、というのはわからないんですね。 自分の経営ゼミでも、歴史の重要性について話しています。しかし、どうしても歴史のうわべを追うだけで終わってしまう。大局観をつかむにはそれでもいいけれど、ビジネスに活かすとまではいかない。 そこに足りないものは何なのかというと、ファクトなんですよね。それは歴史学的なエビデンスという意味でもそうだし、現代の経営が直面している具体的なケースという意味でもそう。どちらも必要なものだけど、誰もそれを持ってない。 経営側の立場から、なんとか使えるものにしたいな、と考えていたときに、山本さんの歴史研究の話からいろいろヒントをもらったんです。
■バランサーとして社会にインパクトをもっていたい 山本さんは2003年に慶応大学法学部を卒業したあと、イギリスに留学しましたね。むこうでの研究生活が長かったけれど、専門は経営史ということになりますね。 【山本】そうですね。西洋経営史、イギリス近世史、産業革命以前のCSRなどが専門です。2003年にヨーク大学に留学して、2009年に歴史学の博士号を取得したあと、セントアンドリュース大学、エジンバラ大学で研究し、英国学士院特別研究員としてキングス・カレッジ・ロンドン歴史学部に所属したり、ケンブリッジ大学の人文社会科学研究所の研究員を務めたりしました。2016年に東大の経済学研究科で専任講師となって、18年から准教授です。 さっきの話に戻ると、山崎さんが歴史に関心をもつのは、マザーハウスの事業とどう関わっているんでしょうか。 【山崎】マザーハウスは、絶えずオルタナティブでありたいんです。例えば、先進国と途上国の二項対立でいうと、僕らは途上国に光を当てる。工業生産と手仕事の二項対立でいえば、手仕事のほうです。権威主義への反発というか、絶えずカウンターパートとして存在する。「自分は正しいことをやっている」という感覚じゃなくて、パワーバランスを整えにいってる。みんなが生きやすくなるには、どんなバランサーになるべきかって発想ですね。 世界は3Dプリンターの方向へ進むと言われる中、途上国の人たちが手仕事でつくったバッグやジュエリーを売っているわけです。マザーハウスという会社を成長させるというより、バランサーとしてもっとインパクトをもたなきゃいけないという感覚があります。 ■歴史は二項対立の中の“揺らぎ”である 僕が歴史から学んでいることの1つは、バランスの問題なんです。人間はさまざまな二項対立の中で、絶えず行きつ戻りつ揺らいできた。歴史の大原則は“揺らぎ”じゃないかと思えるほどです。 【山本】おもしろい視点です。例えば、経済格差の拡大は、いま世界で問題とされている。でも、「経済発展によって社会はバリバリ豊かになっていく。パイ自体が大きくなっているのだから、格差があっても仕方がない」「パイ自体が増えないよりはマシじゃないか」という発想はかなり昔からあるんですね。分業の重要性を議論したアダム・スミスの『国富論』でもこのことを指摘しています。この発想に基づいて産業界は長いこと生産規模の拡大を追求してきた。 だけど、19世紀になると、工場というしくみが広がると同時に、若い世代や女性が搾取されることへのオルタナティブも出てきました。働く人たちの福祉をちゃんと考えようとかね。 ある種のメインストリームとオルタナティブの併存は昔からあって、山崎さんたちのビジネスもその流れで位置づけられるかもしれない。逆にいえば、オルタナティブとして傍流化していってしまうことも十分考えられる。だから、インパクトを大きくするにはどうすればいいのか、と興味がありますね。 【山崎】今はそれほど傍流化しないのが時代の流れだと思ってるんですよね。というのも、大量生産やテクノロジーの進歩が強まれば強まるほど、逆側の力も強くなると僕は見ているんです。 文化戦略の違いともいえます。例えばイタリアは、中小企業がたくさんあるんですね。アメリカで売り上げ1000億円の大企業が1社できるとしたら、イタリアは50億円の中小企業を20社つくるほうがいいよね、と考える。アメリカとヨーロッパの違いですね。 歴史が二項対立のあいだの揺らぎだとすれば、産業革命後の大規模な工場制機械工業から、また工場制手工業へ戻ることがあってもおかしくない。マザーハウスが途上国で進めているのはまさに工場制手工業です。
■消費者の声には17世紀のイギリス王政を覆す力があった その意味で、山本さんから聞いた石鹸の話には勇気をもらいました。「17世紀のイギリスで、石鹸に対する消費者の不満が王政を覆した」という話です。 17世紀というと、そもそもまだ消費者運動なんていう概念がないような時代。当時イギリスでは、石鹸の大量生産が始まったことで、急激に品質が悪くなった。洗濯は主に洗濯婦の仕事だったから、粗悪な石鹸によって彼女たちの手が荒れてしまった。 山本さんの研究では、当時の文献から、洗濯婦たちが述べた粗悪な石鹸への不満を丹念に拾っています。すると、「やっぱり手づくりの石鹸はいい」といった噂話が広がっていた様子が分かる。大量生産か、手仕事か。石鹸の品質をめぐって大きな揺らぎがあるわけです。さらにその不満が王政を覆すという革命にまでつながるんですね。 僕はビジネスで消費財を扱っているから、洗濯婦たちの不満が広がっていく話はひとごとじゃなかった。消費者のパワーは、ネットやSNSがない時代から強かったんだ、という驚きがありました。 消費財ってめちゃくちゃリアルなんですよ。僕は明日も店頭に立って商品を売ります。お客さんの声を聞いて「自分たちがやっていることはやっぱり正しいな」と確認しながら商売しているわけです。 17世紀のイギリスでユーザーの不満が社会を動かしたと聞いて、「現代の僕たちと同じだな」と歴史から学ぶことができる。歴史研究の大きな価値だと思います。僕が文化人類学を勉強してきたのも、フィールドワークを通して人々のリアルな生活の中にストラクチャーがあることを学べるからなんですね。 ■「手仕事と大量生産との間での揺らぎ」の話ではない 【山本】今の話には重要なことがいくつも含まれています。まず、ただの教養コンテンツとして歴史を消費するだけなら、山崎さんの説明でいいと思います。「昔から手仕事と大量生産の間には揺らぎがあった」という“揺らぎの歴史学”を紹介する教養コンテンツとして。みんながこの記事をクリックして読めば、「ちょっと歴史を学んだ気持ち」になると思う。でもそれで終わり。 ここに歴史の専門家がいる意味は「さっき説明にはちょっと事実誤認がありますよ」って話ができることだと思う。 ちょうど論文を書き進めているところなので、少し詳しく話しましょう。 17世初めのイギリスは、絶対王政で王様の権力がものすごく強かったんです。政治だけでなく、経済でもいろんな政策を上から押しつける。その1つが国際貿易をめぐる重商主義政策でした。 当時はグローバル化が進みつつあって、イギリスに外国の製品や原材料がどんどん入ってきた。対抗して「輸入を減らせ、国産化しろ」という声が国内で高まります。輸入を制限して国内産業を保護し、輸出を促進して貿易収支の黒字化を図るというのがいわゆる重商主義です。トランプ前大統領みたいな感じもしますね。
■国産原料への切り替えで起こった大問題 王様のチャールズI世(在位:1625~1649年)には取り巻きがいて、いろいろ国産化しようとビジネスプロジェクトを立ち上げた。洗濯に使う石鹸もその1つです。1631年に石鹸の原材料を国産に切り替えると決め、「国産材料でも品質は落ちない、証拠もある」と半ば強引に宣言して生産プロセスの独占権を取得し、収益の一部を国庫に納めると約束して会社を立ち上げました。 実際の史料が示しているのは「大量生産vs手づくり」という対立の構図ではありません。当時は植民地貿易が拡大し、通商も急速にグローバル化しつつあった時代なので、「他国からの輸入依存vs国産原料への切り替えによる経済的自立」という軸が論点になったのです。 しかしここで、重大な見落としがあった。石鹸づくりにはアルカリ性水溶液を使いますが、多くは針葉樹を燃やした灰からつくるんですね。だから、原材料として針葉樹の灰を輸入していた。この輸入をやめて、原材料を国産に切り替えたのですが、ここに問題がありました。 イギリスには針葉樹が少ないので、同じ原材料を国産でつくることはできない。そこでどうしたか。「針葉樹」の代わりに、国内でも多く生息する「広葉樹」の灰でアルカリ性水溶液をつくり、石鹸の製造に使ったんです。 ■革命の背景は男性目線でしか語られてこなかった 実は広葉樹由来の灰は、針葉樹のものよりアルカリ性が強いんですね。ここで起こったのが、「手荒れ」の問題です。国産原料の石鹸は、洗濯すると手が荒れるんです。重商主義を推し進めて、石鹸の品質が悪くなった結果、消費者たちが被害を受けてしまった。 当時のイギリスでは、一般家庭の洗濯は95%以上が女性たちの仕事でした。そういう研究データが2020年に出ているんですね。貴族や金持ちは、女性を含め自分で洗濯することは少ないから、粗悪な石鹸でも困らない。被害を受けたのは最下層にいる女性たちでした。 これまでの歴史は、男性中心に語られてきました。文献を読み返しても、石鹸で手荒れして困っていた「洗濯婦たちの声」はほとんど出てこない。だから、1649年に王政を覆したピューリタン革命が起こった原因についても男性目線で語られてきました。絶対王政の下で重商主義が暴走し、石鹸の製造者たち、つまり男性たちの経済的な権利が独占企業により侵害された、と説明されてきたんです。 重商主義への反発からピューリタン革命(1642~1649)が起こり、チャールズI世が処刑される。共和制が誕生し、自由化されていく。これがイギリス近代化のストーリーだったんです。
■真因は消費者たちのボイコットに遭った それが、ジェンダーの視点を持ち込むと話が違ってくる。石鹸の独占が失敗したのは、手荒れを起こした女性たちが独占下で出回った低品質石鹸をボイコットしたからです。洗濯婦をやめてしまった女性だっていたかもしれません。この点は誰も指摘してこなかった。 この視点に立つと、消費者としての女性がもつパワー、消費者を無視した国策の問題、当事者が意思決定に参加していないズレ、ジェンダー的な役割分担……さまざまな視点が見えてきます。 洗濯婦のほとんどは読み書きができなかったので、当事者が書いたものは残っていない。男性たちが書き残したものに「女性たちは洗濯をサボって不平不満ばかり言っている」と出てくる。かき集めれば洗濯婦たちの経験が浮かび上がってくるはずです。 【山崎】歴史家の研究ってやっぱりすごい。感動しました。 山本さんの話を聞いていると、1つの歴史的事実を発見するまでには、背景に膨大かつ緻密な作業があることに驚きます。1つのものを世に生み出す歴史学的アプローチは、ビジネスに通じるようにも感じます。 ■欠けているのはディテールを積み重ねること 【山本】石鹸の研究ができるのも、詳細な記録が残っているからです。例えば独占に反対する署名をロンドン市長に届けたことが理由で尋問を受けた商店主の陳情書には、1633年にテムズ川沿いのある教区に住んでいた3人洗濯婦たちの名前が言及されていました。 当時の裁判の記録や教区教会の史料から、そのうち1人エリザベス・タッカーさんについては、およそ29歳で結婚し、33歳の時に男の子を産んだことがわかります。 ロンドンのスラム街で仮住まいをしていた貧民の調査が1637年に行われていたので、その記録から生活の様子を知ることもできます。貧しい家族ならば例えば1部屋に一家8人が暮らし、ベッドは1つしかなく、生活用品は屋外の路地に置いたなどの生活様式までわかってくる。 こういう女性たちが消費者として国策企業による独占に反対をしていたのです。 一般的な教養講座で、圧倒的に欠けているのはそのような情報ではないでしょうか。 たとえば、メディアもそうです。プレジデント誌はじめ、ビジネス系メディアではよく「ビジネスに立つ歴史学入門」というようなテーマで特集が組まれたりしています。実際どこまでがファクトに基づいた話なのか、歴史学者から見て、怪しいものも多いと感じます。 エビデンス・ベースドと呼ぶならば、多様な史料を発掘してそこからディテールを積み上げなければいけないということです。
■「○○っぽく見せる」ブランドでは続かない 【山崎】僕の会社では「ファクトを大切に」とよく言うんです。ビジネスでは、消費者にはウソをつかない、だまさないということが特に重要です。 企業のブランディングは、これまで「○○っぽく見せる」が中心だったと思います。あえて実態を隠し、秘密主義によってわざと誤解させた部分もありました。例えば、高級ブランドのカバン職人は、実際に会ったことがないから、名工と呼ばれるような腕前の持ち主だとイメージしがちです。立派なヒゲを蓄えたイタリア人とか。でも実際は、アジアの近代的な工場で働くふつうの職人さんたちかもしれないのです マザーハウスの場合は、発展途上国で製品をつくっていることを前面に出しています。「こんな工場で、こんな人たちがつくっているんだ」と知ってほしいんですね。 製造だけでなく、企画、開発、販売、経理その他でもごまかさない。ブランドがさびつかないポイントはファクトだと思うんですね。裏表がないことが一番の正直だと。 ■マザーハウスが「社会起業家」を名乗らないワケ 【山本】ウソやごまかしがないのは大切なことです。ただ、何がファクトかという問題は難しいですね。 つまり、観点は無数あって、切り取り方も無限にある。何をどのように伝えようかと優先順位をつけるのは当然ですし、選択と意思決定の連続になる。完璧な事実とか、完璧な客観性とかいうものはありませんから、ファクトを語ることには倫理的・道義的責任が付きまとうのです。 【山崎】自分たちにとってウソ偽りがないファクトを伝える、ということですね。例えば、僕は自分たちのことを社会起業家と言ったことはないんです。僕にとってファクトじゃないからです。 僕たちのファクトは、バングラデシュに工場があり、300人の雇用を抱え、給料を払いつづけているということです。このファクトはしっかり伝える。 【山本】山崎さんたちが大切と感じるポイントをどう評価するか、それを社会起業と呼ぶのかどうかは社会に委ねていると。 【山崎】マザーハウスの事業に社会性があるか、社会課題を解決しているかを判断するのは僕らじゃないですからね。このスタンスは2006年の創業以来ずっと同じです。
■研究者は価値を生み出す「アーティスト」なのか 【山崎】本物の歴史をビジネスに活かすにはどうすればいいか、と考えてはじまったのが「困難の時代に歴史を学ぶ・歴史から学ぶ アカデミア×ビジネス」です。山本さんが代表を務める「歴史家ワークショップ」と、当社「Warm Heart Cool Head」が共同開催するイベントで、22年にスタートしました。 僕は、歴史家はじめ研究者って「アーティストだな」と思うことがあるんです。研究を通して、新しい価値を生みだすところが。 どの世界にも“クレイジーなアーティスト”みたいな人たちがいて、新しい価値を創造してきたでしょ。過去になかったものをゼロからつくる。アカデミアの世界でいえば、本気の研究者は、みんなが気づかなかった事象を発掘して新しい視点を提示する。クリエイターといってもいいでしょう。まさにいま、ビジネスに求められている力ですね。 山本さんにも、僕はアーティスト、クリエイターを感じています。研究のテーマや内容はもちろんですけど、話し方などにも山本さんのクリエイションがあると思います。 ■ニュートンの研究も社会基盤なしには成立しなかった 【山本】ありがとうございます。うれしい気もするけれど、注釈もつけたくなってしまいますね。 そういう「孤高の天才が世界の本質をえぐり取る」というようなイメージを広めたのは、18世紀末以降に活躍したロマン主義の文人たちなんです。だから、「アーティスト」っていう概念自体が、実は200年ほど前にできた比較的新しいものなんですよね。 実際は、アーティストも社会的な基盤のうえで活動している。放っておけば天才的なクリエイターが自然と出てくるわけではなくて、社会基盤にサポートされるから、知的なイノベーションが起こるわけです。 この点は科学知識の歴史を考えるととてもよくわかります。例えばニュートンやボイルのような科学者が天文学や化学分野で成果を出すためにも、情報網から資金繰りや材料調達が不可欠です。充実した社会的ネットワークなしには科学革命も成立しえなかった。このことを、科学史研究者たちが明らかにしています。 それに、新しい知見もクリエイトするだけじゃ、新しい価値にはならない。新たに生み出された作品や成果を理解し、応用する人たちが必要です。 だから山崎さんがこうして僕たちの研究に関心を寄せてくださっているのは本当にうれしいんです。 僕たち研究者は、上場企業のように短期的サイクルで大きな成果(学問的知見)を生み出すというわけにはいきません。そういう中で、山崎さんの話を聞いていて、アカデミアの世界が社会の基盤づくりにかかわるには、経営的視点やプロフェッショナルな思考が不足しているんだなと思いました。 発想がまるで違うから、フィールドが異なる人と話すのはおもしろい。 山崎さんと一緒に企画・運営をしていイベントでは、毎回最先端で新しい歴史的知見を生み出している研究者をお招きしています。その研究の意義をビジネス界隈で活躍する方々と一緒に考え続けてみたいと思っています。 ---------- 山崎 大祐(やまざき・だいすけ) マザーハウス副社長 1980年、東京都生まれ。2003年慶應義塾大学総合政策学部卒業、ゴールドマン・サックス証券に入社。日本法人で数少ないエコノミストの1人として活躍し、アジア経済の分析・調査・研究に従事。在職中から後輩の山口絵理子氏(現・マザーハウス代表取締役)の起業準備を手伝い、2007年3月にゴールドマン・サックス証券を退職。同年7月、マザーハウスの副社長に就任。現在はマーケティング、生産などを管理している。さまざまなテーマで社外のと議論を深める「マザーハウス・カレッジ」も主催。2019年に「Warm Heart Cool Head」を設立し、ビジネスパーソン、起業家を対象にした経営ゼミを開講している。 ---------- ---------- 山本 浩司(やまもと・こうじ) 東京大学大学院経済学研究科 准教授 2003年慶應義塾大学法学部卒業、2009年英ヨーク大学歴史学研究科博士課程修了。2018年東京大学大学院経済学研究科准教授に就任、現職。専門は近世イギリス史、経済史、経営史。「資本主義の手なずけ」がテーマの『Taming Capitalism before its Triumph』(オックスフォード大学出版局、2018年)が主著。令和元年度東京大学卓越研究員。全国の歴史系研究者を対象に「歴史家ワークショップ」を開講。優れた学術成果を生み出し社会とひろく共有する場を提供している。 ----------
マザーハウス副社長 山崎 大祐、東京大学大学院経済学研究科 准教授 山本 浩司
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