Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/0876f1f1f2383b0709f139aeef544b22be757390
世界中から集まった精鋭たちが、国の威信を背負って闘っている。晴れの舞台を建設したのは、劣悪な労働環境に身を置く外国人たちだった。彼らはどのように酷使され、命を落としていったのか。 【マンガ】外国人ドライバーが岡山県の道路で「日本やばい」と驚愕したワケ
司法解剖さえされない
「今大会で選手たちがプレーするスタジアムは、現地に暮らす外国人労働者の奴隷的な働きによって作られています。日本では『政治に絡めたりせずにサッカーだけ楽しめばいいじゃないか』という雰囲気が蔓延していますが、これは深刻な人権問題なんです」(ジャーナリストの安田純平氏) 現在、カタールで開催されているサッカーワールドカップに日本中が注目している。初戦で日本代表が優勝候補と目されたドイツ代表を2対1で下し、12月2日(日本時間)に強豪スペイン代表にも勝利して1次リーグを1位で通過すると、その盛り上がりはさらに大きなものとなった。 しかし、こうした熱狂の裏で起こっている「大罪」についても考えておきたい。 昨年2月、英紙『ガーディアン』は、カタールでのワールドカップ開催が決定した'10年から'20年の間に、約6500人の移民労働者が死亡したという衝撃的な事実を報道した。この数字はインド、バングラデシュ、ネパールなど南アジア5ヵ国からカタールへ渡った労働者のうち、現地で亡くなった人数をまとめたものだ。こうした犠牲の多くは、想像を絶する過酷な労働によって引き起こされたという。
非を認めないカタール
『ガーディアン』紙で約10年にわたりカタールの移民労働者を取材したピート・パティソン氏はこう語る。 「犠牲となった6500人の多くは労働意欲に満ちた健康な若者でした。しかし、彼らのうち7割が『心不全』『呼吸器不全』など、直接の原因が不明の自然死として、司法解剖もされずに処理された。もちろん労災認定もされません。明らかに劣悪な労働環境が原因なのに、カタール側は認めようとしない。 カタール政府は今大会の準備のために亡くなった労働者はわずか数十人、業務上の死者は3人としていますが、こうした主張はあまりに実態と乖離しています」 国土が1万1400㎢ほど、人口は広島県と同程度の約280万人の小国で、なぜここまでおびただしい数の死者が出ることになったのだろうか。中東地域の研究者で、同国の労働環境や経済に詳しい国学院大学教授の細井長氏が、現地の実態について話す。 「外国人労働者たちは、郊外の砂漠地帯の真ん中にあるレイバーキャンプで、バラックのような建物にすし詰めにされて暮らしています。そこからバスに乗って現場へ行き、昼は46℃、夜でも40℃近い酷暑の中で重労働を行う。カタールは海が近いので湿気も多く、少し外気に触れるだけでも汗が噴き出してきます。 休みがあったとしても近所に行くくらいで、あとは現場との往復のみ。これほどの過酷な労働に耐えて得られる月の報酬は、日本円にして約4万円、諸手当を含めても最大で7万円程度です」
夫は睡眠中に亡くなった
今回のワールドカップのチケットの平均額は、一枚当たり約4万8000円。開催のために汗を流した労働者たちは、ただの一試合も観戦することはできない。 国際人権NGO「アムネスティ」は建設現場で働いていた男性の事例を取り上げている。彼は約40℃の炎天下で連日10時間に及ぶ労働を行い、睡眠中に亡くなったという。 同じように炎天下の作業によって亡くなったバングラデシュ人男性の妻は、同団体の聞き取りにこう応じた。 「亡くなる数時間前まで話していたので、最初は信じられなかった。夫の死は元同僚から知らされ、当局からは検死の話どころか連絡さえなかった」 結局カタールからの補償はなく、バングラデシュの福祉委員会から30万タカ(約40万円)を支給されただけだったという。男性と妻の間には、2人の子供もいた。 「こうしたケースは決して珍しくありません。私が取材したネパール人の女性は、24歳の夫を亡くしました。出稼ぎ先で過労によって倒れ、寝ている間に息を引き取ったそうです。当局は『自然死』で片付け、何もしませんでした。女性が夫の会社を訴えてなんとか1500ポンド(約25万円)を得ることができましたが、若い命を奪われたことに対する補償としては、あまりに少ない」(前出・パティソン氏) 悲惨な事例が続けば、労働運動が起こってもおかしくはないが……。 「労働者たちは同じバラックに留まらず、3ヵ月単位で頻繁に移動させられます。同じ人間が同じ現場でずっと一緒にいると、不満が募って団結してしまう。こうなる前に、グループをバラバラにして別の町に移すことで、声が上がるのを防いでいるんです」(カタールでの在住経験を持つ立命館アジア太平洋大学教授の吉川卓郎氏) 「週刊現代」2022年12月10・17日号より 本記事では、多くの命を奪った劣悪なカタールの労働環境について見てきた。後編記事『カタールW杯のウラで、「現代の奴隷労働」が横行している「ヤバすぎる背景」』では、このような凄惨な状況が発生した原因に迫っていく。
週刊現代(講談社)
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