Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/b26ee22a75a0006042e95626ca0839452c6af39a
ブックオフコーポレーションがマレーシアで展開する中古品店「ジャラン・ジャラン・ジャパン(JJJ)」が順調に店舗数を伸ばしている。同社は11月、マラッカ州に初進出し、国内10店舗目を開業した。新型コロナウイルスの流行前と比較すると店舗数は倍となった。その背景にはコロナ禍で得た経験や、店舗を支える組織づくりがあった。【降旗愛子】 ブックオフは2016年に衣料や生活雑貨など書籍以外の日本の中古商材を扱うJJJをスランゴール州スバンジャヤで開業。ブックオフの海外店舗のうち、衣料や生活雑貨など、書籍以外の中古商材をメインに扱う業態は、マレーシアが初めて。 ブックオフの日本の店舗では、中古品の販売とともに買い取りも行っているが、売れずに廃棄・リサイクルとなるものがある。それらは年間4万トンに達し、その解決手段となる「出口戦略」の一つがマレーシア進出だった。日本で売れ残った商品でも、海外では受け入れられることがある。ブックオフによると、マレーシア国内店舗の仕入販売率は90%超と売れ残りはほとんどなく、年間2,600トンの商品を販売しているという。 JJJを運営する現地の合弁会社、BOKマーケティングの守随大地最高経営責任者(CEO)によると、売れ筋は女性服やバッグ、おもちゃなど。売れ行きに応じて値下げすることで新陳代謝を促し、棚の商品は1カ月で入れ替わる。中には未使用品も含まれるが、「(以前の所有者に愛用されていた)中古品の方が売れ行きが良い」(守随氏)のだという。誰かに選ばれ、大事に使われていたことを意味する「Pre―loved」は店のロゴにもなっている。 JJJはマレーシア進出から約2年後の18年にヌグリスンビラン州で3号店を開業し、首都圏外に進出。ペナン州やジョホール州でも出店し、地方展開を進めている。マラッカ州での開業は今回が初めてとなる。 既存店の顧客はイスラム教徒(ムスリム)のマレー系が大半で、出店地は地元に密着した郊外の商業施設が中心だ。守随CEOによると、来年にはマレー半島東海岸のパハン州クアンタンへの出店を計画しており、現在複数の出店候補施設と交渉中。 東海岸部は人口の大半をマレー系が占め、首都クアラルンプールなど都市化の進む西海岸よりも宗教色が強く保守的な地域だ。長期的には隣国タイと国境を接するクランタン州やその隣のトレンガヌ州、さらには東マレーシア・ボルネオ島への出店も視野に入れるが、物流網がネックとなっているという。 ■コロナ禍は「得るもの大きかった」 JJJの5号店(スランゴール州バンギ店)開業から約3カ月後の20年3月、マレーシアでも新型コロナの流行が始まった。全国的に厳格な規制が敷かれ、食品や医薬品などを除く小売店舗は非必須業種として閉鎖を命じられた。ロックダウン(都市封鎖)が断続的に行われていた1年半の間、JJJも数カ月にわたる休業を余儀なくされた。厳しい日々が続いたが、守随CEOは「得るものが大きい日々でもあった」と振り返る。 大きな収穫となったのは、店舗に立てない中で従業員と始めたオンラインミーティングだ。中古商材を扱う業態であることから、リサイクルやリユースへの意識を高めようと勉強会を開始。そこから派生して、ESG(環境・社会・企業統治)の取り組みも進めた。一例として、現在1号店と2号店は店舗ぐるみで近隣の孤児院を支援しており、こうした活動は従業員の提案から始まったものだという。守随CEOは「孤児院を巣立った子どもたちの中から、未来の従業員や顧客が生まれてくれれば」と目を細める。 コロナ下での経験は、販促活動にも変化をもたらした。それまで新店オープン時にはソーシャルメディア上で大々的に宣伝していたが、人が押し寄せることで従業員に負担がかかり、顧客満足度も下がってしまう。特に、コロナ流行下では「密」を避けることが不可欠となったため、事前の告知をやめた。その結果、開業時のにぎわいは劣るものの徐々に客足が伸び、半年後には客数が25%程度増加したという。 これは、店舗数が増え、現地でのブランド認知が進んだからこその販促方法でもある。 ■多様性を認める組織に 店舗の拡大には、現場の支えとなる人材育成が欠かせない。しかし、コロナ禍からの景気回復を急ぐマレーシアでは現在、労働力不足が社会問題化しており、中でもサービス業は顕著だ。 一方、JJJは現在、店舗や倉庫などで約400人を雇用し、うち60人程度は正社員。社員の顔ぶれは進出当初からほとんど変わっておらず、幹部の育成も進んでいる。より良い職場環境や昇給を目指して転職を繰り返す「ジョブホッピング」が一般的な同国で、現場の社員が中心となって事業を成長させているという達成感が、高い定着率につながっているようだ。 また、やる気のある人や成果を出した人を評価する制度づくりも進めている。先月開業したマラッカ店のアラミン店長(28)はバングラデシュ出身。当初は倉庫作業員として採用されたが、業務遂行能力や人柄が評価されて昇進を重ね、ついには新店舗を任されることとなった。次なるステップとして、複数店舗を束ねるエリアマネジャーを目指している。 人口3,200万人超のマレーシアでは、外国からの出稼ぎ労働者があらゆる産業を支えている。特に、地元人材が忌避するいわゆる「3K(危険、汚い、きつい)」の現場では、インドネシアやバングラデシュ、ネパールなどからの外国人労働者が必要不可欠だ。その一方で、地元の人が嫌がる仕事を引き受ける彼らに向けられる視線は厳しい。進出当初、外国人労働者とのつきあい方を周囲に尋ねると、「労働者の名前をいちいち覚える必要はない」との声すらあったという。「そういう点については、『郷に入っても郷に従わなかった』ことが良い組織作りにつながった」(守随CEO)。 また、マレーシア人同士であっても民族間の溝は深い。特に、イスラム教徒のマレー系とビジネスに強い華人系は歴史的な経緯や生活習慣、宗教観の違いから摩擦を生みやすい。そうした中で、あらゆる人が正当に評価され、チャンスを得ることができる職場を作るのは並大抵のことではない。守随CEOは「外国人である日本人が経営するからこそ、彼らの間に立てる」との考えをもとに、積極的に組織のダイバーシティー(多様性)化を推進する方針だ。(下に続く) <メモ> ■BOKマーケティング ブックオフとマレーシアで二輪製造や物流など幅広く事業を手がけるコイケの現地法人との合弁で、2016年4月に設立。出資比率はブックオフが70%、コイケとそのマレーシア法人が合わせて30%となっている。店舗名に含まれる「ジャラン・ジャラン」はマレー語で「ぶらぶら歩く」という意味。
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