Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/9c604d1d6a040b4fcb838a6a702a56db21933933
配信、ヤフーニュースより
2016年に英ロンドンで発足した「UKティーアカデミー」は、世界の茶葉に関した「ティー・プロフェッショナル」の資格認定プログラムを提供する英国唯一の機関。そこでただ1人の日本人講師がスチュワード麻子さんです。紅茶の奥深さや魅力を広く伝えるため、インストラクターやコンサルタントとして活躍中の麻子さん。英国の人気ドラマを用いるなど分かりやすい解説で人気を集める一方、権威あるさまざまなティーコンテストで審査員を務めています。先日も英国で開催された国際的なコンテストに参加し、日本の紅茶が世界のトップに輝いた瞬間を目の当たりにしました。ティーコンテストとは一体どんな形式で行われるのでしょうか? そこで麻子さんに、白熱した会場の様子を教えていただきました。 【写真】日本の和紅茶が世界トップに選ばれた表彰式 華やかな会場や登壇するスチュワード麻子さんに注目 ◇ ◇ ◇
英ロンドンで開催された国際的なティーコンテスト
水よりも多く紅茶を消費する国・英国で、2022年10月に初めてのインターナショナルティーコンテスト「ザ・リーフィーズ」が開催されました。 主催は茶類全般の資格授与機関であるUK Tea Academy(UKTA)。UKTAダイレクターのジェーン・ペティグリュー氏は故エリザベス2世女王からBEM(British Empire Medal)を授与された世界的に有名なエキスパートで、UKTAには「フォートナム&メイソン」や「トワイニングス」など英国内の紅茶会社や、「ザ・リッツ・ロンドン」など有名ホテルの他、インドのダージリンやネパール、台湾、中国から茶園のマネージャーも資格取得に訪れます。 UKTA講師で日本校ティーアカデミージャパンの代表でもある私も、審査員の1人として「ザ・リーフィーズ」に参加。貴重な体験をしてきましたので、熱気のあふれる世界のお茶のコンテストと、ロンドンの高級百貨店「フォートナム&メイソン」本店で執り行われた華やかな授賞式の様子をお伝えします。 今回のコンテストは緑茶、紅茶、烏龍茶、白茶、黒茶(プーアル茶など)の部門に、さらに紅茶は「インド、スリランカ産部門」と「中国、台湾、ミャンマー、ベトナム、日本部門」、「その他の国部門」に分かれて、それぞれが金賞、優秀賞を競いました。 ロンドンの会場での5日間にわたる審査は、ジェーン・ペティグリュー氏の他に「フォートナム&メイソン」をはじめ英国紅茶会社のティーバイヤー、ロンドンの有名お茶専門店オーナー、スリランカと中国、台湾のお茶エキスパートに加えて、日本茶大使でもある私の8名で行われました。
さまざまある、世界のお茶の審査方法とは
審査方法は「ブラインド審査」といわれるもので、審査員は目の前のお茶がどこの国の誰が作ったお茶なのかは分かりません。運ばれてくるのは茶葉、茶がら、淹れたお茶の3点。茶葉や茶がらからはいろいろな情報が見て取れますので、これらも大切な審査対象です。 6月に私が審査員を務めた英国の別のフードコンテスト「グレート・テイスト・アウォード」お茶部門でも、同じようにこの3点でのテイスティングを行いました。そこでは一度に10点近くのお茶が淹れられて、審査員3~4名が端から順番にテイストし、その場で評価を下します。 対して「ザ・リーフィーズ」ではお茶を1点ずつテイストし、評価表に従って各自が審査結果を記入します。他審査員がどのような評価をしているのかは発表するまで分かりませんが、部門ごとに専門審査員が簡単な説明を行います。 例えば紅茶専門の審査員がプーアル茶の審査に加わった場合、専門家の説明なしでは評価基準が難しかったりするからです。私は元々紅茶が専門で、ロンドンのティーブローカー(買い付けや品質管理などを請け負うテイスティング専門会社)からスタート。今は教育がメインですが、在英22年の間に起きた日本茶ブームで日本茶の需要が高まったことから日本茶インストラクター資格を取り、2016年からは日本茶大使として活動しています。 そのため、今回は紅茶部門、緑茶部門を中心に審査に参加し、「中国、台湾、ミャンマー、ベトナム、日本の紅茶」部門では、日本の紅茶について専門審査員として説明する機会をもらえました。
世界の審査員に和紅茶を分かってもらうために
ところが体調を崩してしまい、肝心の「日本の紅茶」部門の審査日は欠席することに。ここで思わぬことが起きました。寝込んでいる私のところに、審査会から「和紅茶に関する評価が割れすぎて審査ができない状況なので、何とか来てもらえないだろうか?」という電話が入ったのです。 日本の紅茶は「和紅茶」または「地紅茶」とも呼ばれ、最近日本では若い方にも人気が高い分野ですが、まだまだ世界に出回っているわけではありません。私が担当するUKTAの授業では英国人への和紅茶特別セミナーも人気ですが、紅茶のプロにとっては他の産地の紅茶と比べて審査が難しい紅茶です。 昔ながらの紅茶産地であるインドのダージリンやスリランカのウヴァなどには、それぞれに持つべき特徴があります。産地ならではの特徴で、ワインのテロワールのようなものです。 ですが、日本の現在の紅茶は生産者さんの作り方や目指すところによる個性が大きく、この地方ならこんな味がするべき、という決まったものがありません。紅茶作りに取り組む生産者さんは、さまざまな試行錯誤を重ねて独自の香味を作っているのです。 また、品種が大きく影響するのも日本のお茶の面白いところで、これは世界の中でも特にユニークな特徴です。ただし品名には、「べにふうき」「香駿(こうしゅん)」などの品種が多く登場しますが、外国人にはこれが何のことなのかさっぱり分かりません。 いくら目隠し審査とはいえお茶の品名は書かれますので、「べにふうき」が何度も出てくると「これは何のことなの?」と審査員は疑問に思います。それらを説明するべき私がいない状況で始まった審査が暗礁に乗り上げ中断してしまったのは、そんな事情からでした。
和紅茶について理解してもらえた!
私が何とか審査に復帰すると、「中国、台湾、ミャンマー、ベトナム、日本の紅茶」部門はやり直しになりました。 まず品種について説明し、次にそれらの品種がどのような特徴を持つか、さらに生産者はそれを生かす作り方をしていると話すと、紅茶専門の審査員たちが俄然興味を持ち始めたのが分かりました。 例えば「香駿」は桜の葉のような香りを持つ品種ですが、紅茶にしてもそれが感じられるものもあります。ただ私が伝えられるのはそこまで。後はそれぞれの紅茶の完成度が問われます。 和紅茶は知らなくても、紅茶のキャリアが長いエキスパートなら、製造上の問題点などはすぐに分かります。発酵の度合いが低すぎる、乾燥機の温度が高すぎるなどは、舌だけでほぼ瞬時に判断されるのです。香りは素晴らしくても余韻が続かない、しっかりした味が足りないなど、紅茶ファンが選ぶものとプロが選ぶものは多少違いが出てしまう可能性はあるでしょう。 特に渋みは、それを嫌う人に「あっさりしている」と好まれる紅茶もありますが、「紅茶」として評価する場合に“のど越しの良い渋み”は不可欠な要素です。また、淹れたての香りが良くても他に欠けているものがあれば、評価は高くなりません。
日本の和紅茶が世界一に選ばれた理由
そんな中、今回この部門で金賞を取ったのが、熊本県水俣市芦北の「お茶のカジハラ」さんが出品した「夏摘みべにふうき」。さらにすごいことには、全部門の金賞の中から1点だけ選ばれる「Best in Show」という最優秀賞もまた、カジハラさんの「べにふうき」が受賞したのです! 全部門に世界から出品された300種類近いお茶の中で、トップに輝いたのが日本の紅茶というのは実に素晴らしい功績です。 評価が全会一致で決まったことからも、カジハラさんの和紅茶が素晴らしかったことが分かります。私が審査会で感じたのは、「べにふうき」の良さを最大限に生かした香り、しっかりと紅茶としての重みを持つ味、そして茶葉そのものの生育や出来の良さに加えて、作る工程に何も問題点がなかった、別の言い方をすれば「完璧に作られた紅茶だった」からだといえます。
これからますます期待される日本のお茶 将来的な課題も
和紅茶の魅力は一言で言い表せず、これからもさまざまな生産者さんが独自のやり方でユニークなものをたくさん生み出していくことと思います。ただ、海外の紅茶と競争する場合においては、ユニークさだけではなく、やはり「紅茶」としてあるべき味や香りを持つことが大前提であるのだと感じました。 世界から出品された紅茶の中で、本場英国の審査員たちから選ばれたトップが日本の和紅茶であったということは大変うれしいニュースです。それと同時に、和紅茶の魅力を知ってもらい、正当に評価してもらうためには、まだまだ伝えなくてはならないことがたくさんあるのだとも感じます。 和紅茶とは何なのか、何が特徴で何を目指していて、評価ポイントはどこなのかが説明なしで分からない場合、正当な評価を得られないリスクはまだまだあるからです。そこをつないでいくことが自分の今後の使命かな、と思う経験でした。 他にも日本のお茶は「釜炒り緑茶」部門と「フレーバー紅茶」部門、「抹茶」部門などでいくつもの賞を受賞。「フォートナム&メイソン」で行われた授賞式では、世界から集まった参加者の注目を集めていました。この快挙を受けて、さらに多くの素晴らしい日本のお茶が世界に知られることを期待したいですね。
スチュワード麻子
0 件のコメント:
コメントを投稿