Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/2fee9afb9a1f9d0e8707c9e0eab47fca96c640f0
【実録・人間劇場】アジア回遊編~インド・ネパール(1) 2017年夏、私はインドに向かうため、成田空港にいた。 本連載にも記しているその1年前の旅では、香港からインドや中東各国を抜けてトルコのイスタンブールまで自転車で走破する予定だった。しかし、タイのバンコクに着いた時点で資金は底を尽き、おまけにイスラム過激派によるテロ活動が世界を恐怖に陥れていた。ミャンマーの情勢も芳しくなく、タイから陸路で入国することも不安に思えた。私は「いたしかたない」と自分に言い聞かせながら、わずかに残った資金のすべてをバンコクの夜の街にバラまき、志半ばで日本に帰ってきたのだった。 そして1年後、成田空港からクアラルンプール(マレーシア)を経由して、南部の都市チェンナイにやってきた。念願の初インドである。ポケットからスマホを出すと、画面には「41度」と表示され、本体は2時間の映画を1本見た後のように熱を帯びている。 チェンナイの街はどこを歩いても殺伐としていた。歩道らしきスペースはなく、道路はどこも工事中で、どこを歩いたらいいのかわからない。そのへんをうろついている野良犬たちも困った顔をしながらがれきを飛び越えている。 夜は南インド料理を代表するドーサを食べ、適当なゲストハウスに一泊し、翌朝真っすぐに向かったのはチェンナイ中央駅である。わざわざチェンナイまで来たが、この街には用はなく、鉄道でバングラデシュとの国境付近、西ベンガル地方に位置するコルカタまで北上するのが今回の目的だ。 噂には聞いていたが、南インド最大のハブ駅はインド人たちでごった返していた。これから電車に乗るため駅に入ろうとしているのに、タクシーやオートリキシャの運転手が客引きをしてくる。 「今から駅に行こうとしているのがわからないのか?」 イライラしながら突っぱねても、「電車に乗らなくても、もっといいところがある」とまとわりついてくる。 インドの鉄道は「1A」から「GN」まで、クラスが8段階にわかれている。「1A」は個室のエアコン付きで、主に富裕層が利用するという。一方の「GN」は、当然エアコンはなく、予約なしで乗ることができる。ゆえにキャパを完全にオーバーした数の客が乗り込み、電車の周りに大量の人がぶら下がったまま走るネットでよく見るあの状態が起きてしまうのだ。
さて、私が乗車するのはもちろん「GN」クラスだ。駅の中を見渡しても切符の買い方がわからないので、いかにも「GN」に乗りそうなインド人に話しかけると、「切符なんて買わなくても乗れる」という。彼の後ろを付いていくと、駅員たちは私たちには見向きもせず、あっさり無賃乗車できてしまったのだ。
■國友公司(くにとも・こうじ) ルポライター。1992年生まれ。栃木県那須の温泉地で育つ。筑波大学芸術学群在学中からライターとして活動開始。近著「ルポ 歌舞伎町」(彩図社)がスマッシュヒット。
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