Source: https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/d45be808d471d2e581738ca30f0dff3ff2bad51e
「能登半島地震の津波」と称したフェイク動画は、発生後すぐに国境を超え、多言語で世界に広がっていた――。
地震発生から間もなく1カ月を迎える中で、指摘された課題の1つが、フェイクニュース(偽情報・誤情報)の氾濫による情報空間の汚染だ。
だが、問題は日本国内に止まらない。能登半島地震のフェイクニュースの氾濫は、世界各地に広がっていた。
しかも、地震発生当初に拡散されたフェイク投稿は、多数のインプレッション(表示数)を集め、その多くは今でも閲覧することができる。
国境が関係なく、瞬時に、世界中に広がるフェイクニュース。その対処法とは?
●「能登の津波被害」フェイク、アラビア語で
能登半島地震の発生から4時間以上が経過した1月1日午後8時半前(日本時間)、こんなアラビア語の投稿がXで広がり、12万2,000回を超す表示数を集めた。
だが、投稿に添付されていた津波が街を襲う動画は、2011年の東日本大震災時に、岩手県宮古市役所から撮影された動画に、テレビ朝日系列の「ANNニュース」のロゴがついたものだった。
「地震ショック!」とのアラビア語の投稿をしたのは、「ロシアナウ」というアカウントだ。「ロシアと国際ニュースを伝えるメディア」だとしており、47万のフォロワーを持つ。
同じ宮古の津波被害の動画は、能登半島地震の発生後、日本国内でも拡散していた。
※参照:能登半島地震でXトレンド入り、フェイクとコピペの「インプ稼ぎ」とは?(01/02/2024 新聞紙学的)
だが、このアラビア語の投稿は、中東のユーザーの間で広がっていったようだ。
レバノンの新聞「アンナハル」は、この投稿から6時間半後の1月2日午前1時すぎ、動画が今回の地震とは無関係だとのファクトチェック(アラビア語)を公開している。
イラクのファクトチェック団体「テック4ピース」も、やはり「ロシアナウ」の投稿の検証結果をアラビア語と英語で公表した(1月3日付)。
ヨルダンのファクトチェック団体「ファタベイヤノ」も、同じ宮古の動画を使ったアラビア語の投稿が、「ロシアナウ」とは別のアカウントによって1日からフェイスブックで拡散されていた、との検証結果を公表した(1月2日付、アラビア語)。
●南アジアにも拡散する
同じ宮古の動画を能登半島地震に結び付けた投稿は、他の地域や言語でも広がっている。
インドのファクトチェック団体「ファクトクレッシェンド」のタミル語版は、地震発生当日の1月1日、フェイスブックにタミル語での書き込みとともに、同じ宮古の津波被害動画が投稿されていた、とのファクトチェック結果を公表している(1月1日付)。
タミル語は南インドやスリランカなどで使用される言語。同団体はこのほかにヒンディー語、タミル語、テルグ語、カンナダ語、マラヤーラム語、オリヤ語、アッサム語、パンジャブ語、ベンガル語、マラーティー語、グジャラート語、ウルドゥー語といった、インドなどで使われる言語のファクトチェックをカバー。英語版(1月2日付)などでも、同様のファクトチェックを公表している。
「ファクトクレッシェンド」の検証では、タミル語ではこの他に、東日本大震災時の大船渡市(岩手)の津波被害動画、カンボジアのクメール語では石巻市(宮城)の津波被害動画が、それぞれ能登半島地震の津波被害として投稿されていたという。
インドを拠点にバングラデシュ、ネパールをカバーするファクトチェック団体「ニュースチェッカー」も、地震発生から約2時間後にXに投稿された、ウルドゥー語(インド、パキスタンなどで使用)による宮古の動画の拡散を検証している(1月3日付)。
インドのファクトチェック団体「ヴィシュバスニュース」も、地震発生から約2時間半後にフェイスブックに投稿された、ウルドゥー語による宮古の動画の検証を公開している(1月4日付)。
●「心よりお見舞い」のフェイク
能登半島地震に関連したフェイク投稿は、動画だけではない。
1月2日午前5時半すぎ、英語によるそんな書き込みがXに投稿された。
投稿したユーザーの居住地は「パキスタン」。投稿にはパキスタンとキルギス国旗の絵文字が添えられ、「#earthquake #earthquakejapan #Japan #JapanEarthquake #Tsunami」といったハッシュタグがついていた。これまでに、5万8,000回を超す表示数を集めている。
投稿には、地震や津波で倒壊した家屋が広がる4枚の写真が添付されていた。
だがこのうち2枚は2011年3月の東日本大震災時の気仙沼市(宮城県)、陸前高田市(岩手県)の状況、あとの2枚は2016年4月の熊本地震の際の、益城町(熊本県)の被害を、それぞれ報道機関が公開したものだった。
しかも、同じ文面、同じ写真の、おそらくはコピーによる再投稿が、このユーザー以外にも複数確認できた。
上記の投稿から約20分後、この投稿とまったく同じ文面、写真を使った別のユーザーによる投稿があり、1分後に同一ユーザーが自分の投稿をリポスト(再投稿)している。1回目の投稿は16万8,000回超、2回目の再投稿は16万3,000回超の表示数をそれぞれ集めた。
アイルランドを拠点に、インドもカバーするファクトチェック団体「ロジカリー・ファクツ」(1月2日付)やパキスタンの仏AFP通信(1月11日付)が、これらの投稿のファクトチェック結果を公開している。
●各国に広がったフェイク動画・画像
上記のAFP通信は、グローバルに積極的なファクトチェックを展開していることで知られる。今回の能登半島地震を巡っても、各国で広がったフェイク動画・画像の検証を行っている。
その中には、パキスタン(2021年7月の熱海土石流の被害動画、上述の4枚の組み写真)、タイ(東日本大震災時の宮城県名取市の津波被害動画)、マレーシア(東日本大震災時の仙台空港の動画)、フィリピン(東日本大震災時のTBS系列のJNNのロゴがついた宮古の津波被害動画)、香港(上述の宮古市撮影の津波被害動画、福島県いわき市の津波被害動画)、韓国(釜山の川で盧武鉉元大統領と見られる男性が溺れたように見せた改ざん画像)、米国(2023年12月のカリフォルニア州ベンチュラ市での高潮被害動画)など、様々な過去の動画や画像を能登半島地震の被害に見せかけたフェイク投稿へのファクトチェックが含まれる。
このほか、英ロイター通信、独国営ドイチェ・ヴェレ、米USAトゥデイなどの主要メディアや、スペインのファクトチェック団体「ニュートラル」、台湾のファクトチェック団体「台湾ファクトチェックセンター」なども、能登半島地震関連のファクトチェックを公開している。
●国境を超えるフェイクへの対応
災害や紛争などの緊急事態は、発生地を越えたグローバルなアテンション(関心)を集める。選挙などの重要なイベントも同様だ。
急速に高まるアテンションは、経済的な動機や政治的な動機などから、国境を越えたフェイク投稿を呼び込む。
※参照:「暗号通貨宣伝」「女性スキャンダル」のAIデマ動画拡散、台湾総統選にフェイクの脅威(01/11/2024 新聞紙学的)
※参照:ハマス・イスラエル軍事衝突でフェイク氾濫、EUがXを叱り、Metaに警告した理由とは?(10/12/2023 新聞紙学的)
このようなフェイクニュースの、グローバルな多言語の広がりに対抗するには、どうしたらいいか?
その一例として、ロシアによるウクライナ侵攻直後に立ち上がった「#ウクライナファクツ」のようなファクトチェックの国際連携の取り組みがある。
「#ウクライナファクツ」は、ファクトチェック団体の連携組織「国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)」(本部・米フロリダ州)の70を超す各国の認証団体が、ウクライナ侵攻に関するファクトチェック結果を共有するサイトだ。すでに3,000件を超すファクトチェック結果が公開されている。
※参照:ウクライナ侵攻1年で2,800件超、ファクトチェックが集中した最悪のフェイクニュースとは?(02/27/2023 新聞紙学的)
上述した能登半島地震関連のファクトチェックに取り組む各国の団体は、レバノンのアンナハルと独ドイチェ・ヴェレを除いて、いずれも「国際ファクトチェックネットワーク」の認証団体だ。
同ネットワークには日本からも、筆者が運営委員を務める「日本ファクトチェックセンター」を含む3団体が認証団体として加盟している。
能登半島地震のフェイクニュース拡散の実態からは、改めて各国でのファクトチェックの取り組みと連携の必要性がわかる。
(※2024年1月29日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)
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