Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/eb53c3d2eaf04cd3aed79612f123fd51451938d8
蕨駅(埼玉)にほど近い住宅街の古びたマンション一室に、イスラム教徒が続々と吸い込まれていく――。実はこの部屋、モスクなのである。昨年12月中旬、このモスクに礼拝に来ていたバングラデシュ人のタレク・マハムドさんが流暢な日本語でこう打ち明けた。 【画像】すごい…!蕨市クルド人コミュニティのビッグボスに接触…! 「毎週金曜日、ここにイスラム教徒が集まっています。その9割近くがバングラデシュ人。近年、蕨に住むバングラデシュ人は増え続けていますが、一方で『祖国に帰りたい』という人も多い。物価が上昇しても給料は上がらないし、外国人なのに年金の掛け金も取られるから、生活はギリギリですよ……」 約8500人と蕨市は人口の11.3%が外国人だ。近年はバングラデシュやベトナム人の増加が顕著で、彼らは各々でコミュニティを形成している。「ワラビスタン」という造語が生まれるなど、クルド人も多く暮らしている。多国籍化が進むこの地で暮らす外国人たちは何を思うのだろうか。その実情を探った。 蕨市の不動産屋を回ると外国人NGの店舗が多い。理由を聞くと、「家賃未払いで“飛ぶ”外国人がいたせいで、オーナーが嫌うようになったんです」という。外国人人口が急増した弊害だろう。それでも、外国人への仲介OKという不動産屋も蕨市にはたしかに存在した。 「蕨の家賃相場はここ数年で10%以上も値上がりしました。一人暮らしだと月7~8万が平均になっています。お客さん1~2割くらいが外国の方。トルコ系やアジア系の方が増えていますね。蕨は県内でも地価上昇率が非常に高く、決して家賃は安くないのに、なぜこんなに外国人が増えているのか。わたしたちも明確な答えは持ち合わせていないんですよ」 蕨駅東口を出ると、すぐにインターネットカフェが見えてくる。ここは住居登録ができるネットカフェとして、’08年ごろからメディアで大きく取り上げられた店だ。住民票登録や郵便物受取代行まで可能で、月々6万円ほどで「居住地」として過ごすことも可能だったという。ただ、店員によれば「2~3年前に住民票サービスは廃止になった」そうだ。 夜7時ごろ、駅西口に向かうと帰宅途中の人々が駅前のスーパーに集まっていた。外国籍の人々が目を引く。実際に声をかけてみると、ベトナム人が多かった。貿易会社で働いているというベトナム人はこうしみじみと話した。 「家賃は高いけど、ベトナムの食品やレストランが多いから住みやすいんです。ベトナム人がたくさんいて情報交換も活発。だから、新しく越してきたベトナム人が街に馴染むのが早いですよ」 興味深かったのが、蕨に住む日本人の「行動を見れば、だいたい国籍がわかる」という言葉だ。たとえば、クルド人は駅前に集まって集団で行動し、ベトナム人はチェーン系の飲食店に集い、中国人は個人行動が目立つのだという。あくまで感覚的な見立てだとは思うが、地域にすっかり外国人が溶け込んでいることの証左であろう。 帰宅途中だという飲食業のクルド人に声をかけると、蕨で暮らす理由をこう説明してくれた。 「蕨市や戸田市は、子供の教育という点でよい地域だと思います。1クラスに4~5人は外国人がいて、先生たちも慣れている。いい意味で外国人を特別扱いしない。そんな場所はなかなかないんですよ。唯一、足りないものがあるとするなら、モスクでしょうか。駅前にモスクはありますが、違う宗派のものなので、私達は毎週金曜日、代々木上原(東京)のモスクまで行かねばならない」 市内の語学学校を訪ねると、生徒の多くが中国系やベトナム人だった。生徒たちの進路について、職員の男性はこう話した。 「このあたりの外国人は日本語レベルが高い。日本語の読解力が高い人が集まっている印象がありますね。就職せず、進学を希望する生徒の割合が年々上がっています。それだけ、彼らが蕨に定着しているということでしょう。学生たちの意識が変わってきている」 蕨で取材していると、ガーナやナイジェリア、バングラデシュやパキスタン、中国にクルド、ネパールやベトナムにブラジル、イギリス人など、実に多くの国々の人に出会った。印象的だったのは、“棲み分け”が進んでいることだ。 アフリカ系や中東系の人々は建築現場などで働いている人々が多い。対して、アジア系の人々は外資系企業やIT系のエンジニアやコンサルタント、日本の大手家電量販店で働く人もいた。かつての工場勤務のような、出稼ぎや自営業者だけではなく、外国人の働き方も多様化が進んでいるということだ。 母国の経済危機を受けて日本に渡り、建築現場で働いているというナイジェリア人のフランク・チェルジイさんが言う。 「仕事の関係でこの街に来たけど、蕨は東京ほど人が多くなく住みやすい。それに……どこか懐かしさを感じるんだ。とても快適な場所だね」 県外の大手家電量販店で働く、バングラデシュ人男性はこんな表現を用いた。 「同じ職場で同じ仕事をしているのに、どうしても日本人労働者と扱いが違う。戸惑うことが多々あります。蕨に住んでいると仲間に色々と相談できるし、家族にトラブルが起きた際も頼ることができる。市に外国人の受け入れ態勢ができているから、他の自治体よりサービスが受けやすい。もちろん、金銭的な不安や、将来的な不安はあるから、ずっと蕨に住み続けるかどうかはわかりませんが……」 蕨市市民生活部市民協働課の担当者によれば、市は令和4年度に「蕨市多文化共生指針」を施行し、日常生活や社会生活を地域住民と円滑に営むため、市役所内で多言語化を進めているという。生活に関わる相談や行政手続きの支援などを行う「外国人総合相談窓口」は実に85言語に対応しているという。 多文化が交錯する蕨は、共生のための道程を模索し続けている。 取材・文:栗田シメイ 1987年生まれ。スポーツや経済、事件、海外情勢などを幅広く取材。著書に『コロナ禍を生き抜く タクシー業界サバイバル』。『甲子園を目指せ! 進学校野球部の飽くなき挑戦』など、構成本も多数
FRIDAYデジタル
0 件のコメント:
コメントを投稿