Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/b6b335fd00c75f184f51ede819343c8979728344
2024年1月下旬に「外国人雇用状況」の最新データが発表された。それによると、外国人労働者数は初めて200万人を超え、204万8675人(前年比22.6万人増)となった。いまや農林水産業、製造業、建設業、コンビニ、外食などあらゆる現場で外国人の姿を見かける。割合でみると就業者数6754万人の3%に過ぎないが、人口減少社会において今後も外国人労働者の依存体質は確実に強まっていき、日本社会はこの先「移民問題」に正面から取り組まざるを得なくなるだろう。ジャーナリストの山田稔氏が現状と課題をレポートする。(JBpress編集部) ■ 能登半島地震の被災地でも多くの外国人が働いていた 外国人労働者はいま日本各地で貴重な存在として地域社会、産業に貢献している。プロ野球、サッカー、ラグビー、大相撲などスポーツの世界では外国人選手、力士がスタープレーヤーとして大活躍している。華やかな場だけではない。街なかの工事現場、コンビニでも外国人労働者、スタッフが働く姿は日常の光景となっている。 人口減少、高齢化が進む能登地方を襲った1月の能登半島地震でも、その一端をうかがい知ることができた。 地震直後、「外国人技能実習生らが被災し、不安な日々を過ごしている」という報道があった。漁業現場や食品加工工場、紡績工場といった事業所で、ベトナムやインドネシアなどアジア諸国から来た多くの若者たちが技能実習生として働いていたが、操業再開のめどが立たず、大半の実習生が働く場を失い不安な日々を過ごしていた。 1月16日になって、出入国在留管理庁が働けなくなった実習生らを救うため、特例措置として1日8時間以内の就労ができる「資格外活動許可」を付与することとした。それでも地震前の暮らしには戻れない。ちなみに石川県内の技能実習生は5162人(2023年10月末)で、前年比で909人も増加していた。
■ 日本で働く外国人労働者の「国籍」と「資格」 では、日本全体で外国人労働者はどのくらいいるのだろうか。 厚生労働省が今年1月下旬に公表した「外国人雇用状況」(2023年10月末時点)によると、外国人労働者数は204万8675人、前年比で22万人あまり増加し、過去最高となった。 国籍別でみると上位は、(1)ベトナム51.8万人(2)中国39.8万人(3)フィリピン22.7万人の順。増加率の高さではインドネシア12.2万人(前年比56.0%増)、ミャンマー7.1万人(同49.9%増)、ネパール14.6万人(同23.2%)となっている。アジア諸国が圧倒的に多い。 どんな資格で働いているのか。在留資格別でみると、もっとも多いのが永住者や日本人配偶者がいる人など「身分に基づく在留資格」で61.5万人(全体の30.1%)。次が「専門的・技術的分野の在留資格」59.5万人(同29.1%)、そして「技能実習」41.2万人(同20.1%)と続く。 外国人労働者が多い都道府県の上位は、(1)東京都54.2万人(全体の26.5%)(2)愛知県21.0万人(10.3%)(3)大阪府14.6万人(7.1%)となっている。もっとも少ないのは秋田県で3161人。 従事している産業では、(1)製造業55.2万人(27.0%)(2)サービス業32万人(15.7%)(3)卸売業・小売業26.4万人(12.9%)(4)宿泊業、飲食サービス業23.4万人(11.4%)(5)建設業14.5万人(7.1%)──などとなっている。つまりあらゆる地域であらゆる業種に従事しているということだ。
■ 「安い労働力」として従事させる事業者の存在 外国人労働者の中でもとくに技能実習生を取り巻く労働環境の劣悪さは、これまで何度も指摘されてきたが、なかなか改善していない。 厚労省が実習実施者(実習生が在籍している事業場)に対して行った2022年の監督指導や送検等の取りまとめによると、監督指導実施9829事業場のうち7247事業場(73.7%)において労働基準関係法令違反が認められた。 主な違反事項は、(1)使用する機械等の安全基準(23.7%)(2)割増賃金の支払(16.9%)(3)健康診断結果についての医師等からの意見聴(16.1%)(4)労働時間(15.7%)(5)年次有給休暇(14.7%)──などとなっている。 重大、悪質な違反による送検件数は21件だった。ある機械部品製造現場では、3人の技能実習生に対して1カ月あたり100時間以上の違法な時間外・休日労働を行わせていた。技能実習とは名ばかりで、実習生を単なる「安い労働力」として従事させる事業者の存在が問題視されている。 こうした職場ではパワハラやセクハラ、いじめなども後を絶たない。最近では実習生の妊娠・出産制限などの人権侵害が問題視されている。出入国管理庁はHP上に監理団体・実習実施者向けに「妊娠を理由に技能実習を一方的に終了することはできません」との一文を掲載している。 地域社会との関係悪化も指摘される問題点だ。 外国人労働者と地域住民との間で十分な意思疎通が図られない中で、外国人労働者による自治体ルールの遵守違反、マナー違反などが表面化して関係が悪化してしまうケースや、地域住民などが外国人労働者に差別的な言動を行うケースなどがある。 また、劣悪な労働環境から失踪した外国人労働者が地下の犯罪グループに加わり、窃盗などの犯罪行為に加担してしまうといったケースも報告されている。
■ 人手不足対策、地域活性化に欠かせない存在だが… 少子高齢化、人口減少が加速していく日本社会において外国人労働力はなくてはならない存在である。東京一極集中が加速する裏側で、都会だけでなく人手不足に悩む地方でも外国人労働者依存体質は強まるばかりだ。 1月末に発表された「住民基本台帳人口移動報告2023」(総務省統計局)によると、国外からの外国人の転入者は約56.6万人、国外への外国人の転出者は18.7万人で、約38万人の転入超過だった。しかも47都道府県すべてにおいて外国人は転入超過となっている。大都会から過疎地まで外国人労働者に依存していることを裏付けるデータである。 こうした現状を前に、政府は昨年、外国人労働者の在留資格である「特定技能2号」の対象(現行2分野・対象者12人)を広げる方針を閣議決定した。 また有識者会議が外国人技能実習生制度に代わる「育成就労制度」(仮称)をまとめ、政府は今年の通常国会に関連法案を提出する方針だと報じられている。 この制度は人材確保と育成を目的に、外国人労働者の転籍の柔軟化などを盛り込んだものだ。従来の制度よりも人権に配慮する形になるとみられているが、これまで問題視されてきた悪質な送り出し機関の存在、監理団体の適正化などについては新制度において根本的な解決策が示されていないことから、実効性に疑問の声も挙がっている。
■ 10人に1人が外国人の時代へ、求められる「移民政策」の本格議論 この程度の制度改正では、将来の絶対的な労働力不足への対策としては心もとなく、少子化対策も劇的な改善効果が期待できるわけでもない。 国立社会保障・人口問題研究所が公表した「日本の将来推計人口(令和5年推計)」によると、総人口は2056年には1億人を下回り、2070年は8700万人まで減少する。現在の7割の水準だ。労働人口である生産年齢人口も2020年の7509万人から、2032年には6970万人に、2044年には5899万人にまで減少する。労働力不足は歴然だ。 一方で、国内に居住する外国人の数は増え続けていく。2070年の総人口8700万人のうち日本人は7760万人。940万人は外国人だ。2020年の外国人比率は2.2%だが、2070年には10.8%に跳ね上がると予測されている。「10人に1人が外国人」という時代になっているのだ。 子どもたちや孫たちの時代になれば社会は激変する。10人に1人が外国人という社会に向かっていく中で、外国人労働者の在留資格である「特定技能2号」の対象拡大(2分野から11分野へ)や、技能実習生制度から育成就労制度への改正といったレベルで対応できるのか。実態的には「移民問題」なのに、労働力確保という視点しかないのではないか。共存・共生という視点が欠落していないだろうか。 政府のスタンスには微妙な変化がみられる。 2019年に入管法改正を行い、「特定技能」を創設した安倍政権は、「国民の人口に比して、一定程度の規模の外国人を、家族ごと期限を設けることなく受け入れることによって国家を維持していこうとする政策については、専門的、技術的分野の外国人を積極的に受け入れることとする現在の外国人の受け入れの在り方とは相いれないため、これを採ることは考えていない」(2018年の安倍元首相の国会答弁)として、移民政策に否定的だった。 岸田政権になると言い方がこう変わった。 「外国人労働者、外国人受け入れの問題。外国人と共生する社会を考えていかなければならない」(2023年7月) 移民という言葉こそ使わなかったが、共生の2文字が入ったことで移民政策に舵を切ったのではないかとの指摘も出た。 しかし、いつまでもそうした曖昧な姿勢が通用するだろうか。外国人労働者からすれば、新制度で3年間、特定技能1号で5年間、あわせて8年間日本で働くことができるようになるが、その間、家族の帯同は認められない。アジア諸国の賃金をはじめとする労働環境が向上する中、外国の若者にとって制限が厳しく不自由な日本の受け入れ制度への魅力は低下するばかりだ。 一方で、すでに居住している外国人の存在もあるため、今後も国内における外国人人口は増加し続ける。こうした点を考慮すれば、出産・子育て・教育支援をはじめとする生活基盤確保に向けた制度的なバックアップを整備していかなければ、地域コミュニティとのあつれきや、治安問題の不安は解消されない。 都会においても地方においても、今後、外国人住民との共存・共生は避けて通れない課題である。この先、20年、30年後を見据えて、永田町や霞が関だけでなく、民間や地方自治体などを巻き込んだ形で、共生社会形成に向けた議論をすべきだろう。なし崩しで乗り切ろうとすれば、日本は相手にされなくなり、再び「失われた30年」に苦しめられることになりかねない。
山田 稔
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