2020年4月1日水曜日

コロナ禍で考える「人手不足」の本当の正体

Source:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200330-00010001-wedge-soci
3/30(月) 12:06配信、ヤフーニュースより
Wedge
駆け込み入国した大手新聞社の「新聞奨学生」
 新型コロナウィルス感染症の影響で閑散とした成田空港に3月中旬、100人以上のベトナム人の若者たちが到着した。大手新聞社の「新聞奨学生」として採用されたベトナム人留学生たちだ。彼らは今後2年間にわたって日本語学校に在籍しながら、新聞販売所で配達の仕事に就く。

 ベトナムは日本にとって最大の労働者送り送り出し国だが、すでにこの頃、新型コロナ感染拡大によって、両国間の往来は減り始めていた。その後、日本政府は3月26日、ベトナムを入国制限の対象国に加える。結果、留学生らの入国が4月末まで実質不可能となった。その前に、ベトナム人奨学生たちは駆け込むように入国したわけだ。

ベトナム人を受け入れる新聞販売所関係者が言う。

「無事にベトナム人たちが日本に来れてよかった。同じ奨学生でも、ネパールやモンゴルの留学生は来日できていない。新聞配達に支障が出る販売所もあるしれません」

 留学生のアルバイトといえば、コンビニや飲食チェーンの店頭で働く姿をイメージしがちだ。しかし、新聞配達の現場でも留学生頼りが著しい。

 一般社団法人「日本新聞協会」によれば、2019年10月時点で全国の新聞販売所従業員数は27万1878人と、前年から5パーセント以上減った。2001年と比較すると20万人近い激減だ。新聞購読者の減少した結果である。

 一方で、外国人従業員に限っては前年比6.4パーセント増加し、2761人を数える。その多くは、奨学生を含めた留学生のアルバイトだ。

 新聞販売所の全従業員に外国人が占める約1パーセントという割合は、いっけん多くない。日本で働く外国人は約166万人に達し、日本人を含めた労働者の2.5パーセントに上っている。ただし、都市部の新聞販売所では、外国人配達員の割合はずっと高い。

 筆者は6年前から新聞配達現場の外国人を取材していて、過去に二度、ベトナム人の朝刊配達にも同行した。どちらの取材も東京近郊の販売所で行なったが、1つの店は10人の配達員のうち8人、もう1つの店は7人のうち5人がベトナム人留学生だった。都内には配達員の全員がベトナム人という販売所もある。

 都会の新聞配達といえば、かつては地方出身の苦学生が担うケースが多かった。新聞奨学生となれば、大学などの学費は奨学金でまかなわれる。とはいえ、仕事は決して楽ではない。午前2時前後からの朝刊配達に加え、午後には夕刊の仕事もある。人手不足でアルバイトなど選び放題の今、わざわざ新聞配達をしようという若者は珍しい。だから販売所は外国人に頼らざるを得ない。

 もちろん、外国人が新聞配達をやろうと全く構わない。奨学生の場合は、日本語学校の学費も負担してもらえる。アジア新興国出身の多くの留学生たちのように、多額の借金を背負い来日する事態も避けられる。ただし、新聞配達現場の留学生は、別の問題を抱えている。

 留学生のアルバイトには「週28時間以内」という法定上限がある。しかし新聞販売所の仕事は、普通にやっていれば「週28時間以内」では終わらない。朝夕刊の配達に加え、広告の折り込み作業などもあるからだ。私が同行取材した2つの販売所でも、留学生たちはゆうに週28時間を超えて働いていた。つまり、違法就労を強いられているのだ。

 しかも彼らは、残業代が払われない。残業代を支払えば、販売所が違法就労を認めたことになるからだ。そうした問題について、筆者はネット媒体を中心に繰り返し訴えてきたが、今も状況は改善されていない。大手メディアの知らんぷりも影響してのことだ。

 外国人労働者問題に関し、新聞は実習生が被る人権侵害などを頻繁に報じる。だが、留学生の多くが借金漬けで来日し、「週28時間以内」を超える違法就労を強いられ、さらには日本語学校などに都合よく利用されている実態はほとんど取り上げない、その背景にも、新聞配達現場の違法就労問題がある。留学生問題を報じれば、自らの配達現場に火の粉が及ぶと恐れているのだ。そうしたメディアの態度こそ、外国人に対する日本のご都合主義の象徴と言える。

「外国人労働者なしでは日本は成り立たない」

 新聞などで最近、よく見かける言葉である。低賃金の労働者を欲する経済界に限った声ではない。「多文化共生」を唱える“人権派”も同様に主張する。

 しかし筆者には、まずなされるべき議論が抜け落ちていると思えてならない。それは「人手不足」の正体を分析することだ。

 外国人労働者の増加は、その4割以上を占める留学生と実習生の急増によって起きている。そして彼らが仕事に就くのは、決まって日本人の働き手が足りない職種だ。

 留学生の場合、来日当初はたいてい夜勤の肉体労働に就く。日本語が不自由でもこなせるからである。コンビニの店頭で見かけるような留学生は「エリート」であって、多くはコンビニやスーパーで売られる弁当や惣菜の製造工場、宅配便の仕分け現場、ホテルの掃除など、日本人が普通に生活していれば気づかない場所で働くことになる。

 徹夜で弁当におかずを延々と詰め続ける作業など、いくら貧しい国の出身者であろうと喜んでやりたいはずがない。それでも母国で背負った借金を返し、日本語学校に学費を払うためには、過酷なアルバイトをかけ持ちし、法律に違反して働くしか選択肢がないのだ。
「便利で安価な暮らし」の犠牲になる外国人
 留学生の存在がなければ、コンビニ弁当の価格は確実に値上がりするだろう。宅配便の「翌日配送」「送料無料」といったサービスにも影響が出るかもしれない。とはいえ、日本が「成り立たない」わけではない。私たちが当たり前のように享受している「便利で安価な暮らし」が維持できないだけだ。

 新聞配達現場で留学生が強いられる違法就労や未払い残業の問題にしろ、新聞社が夕刊を廃止さえすれば解決する。だが、新聞社は「ご都合主義」によって、そして留学生を雇う企業は「便利で安価な暮らし」を求める私たちの欲求に応えるため、弱い立場の外国人に犠牲を強いている。

 私は何も外国人労働者の受け入れを頭ごなしに否定しているわけではない。農業などのように、外国人の助けが必要な分野もある。ただ、「人手不足」なのだからと、日本人の嫌がる底辺労働を何から何まで外国人に担わせ、「便利で安価な暮らし」を維持しようとすることの是非を問うている。

 2008年秋にリーマン・ショックが起きた際、日本の景気は大きく悪化した。そのとき、真っ先に仕事を失ったのが外国人だった。30万人以上に上った日系ブラジル人などが「派遣切り」の対象となったのだ。すると政府は日系人を対象に「帰国支援金」の制度を設け、母国への帰国を促した。外国人を「使い捨てた」と海外から批判を浴びた制度である。

 今回のコロナ禍の影響は、リーマン・ショックを超える可能性が高い。すでに製造業の一部では、外国人の派遣労働者が解雇され始めている。感染拡大を理由に、受け入れた実習生を退職させようとした企業もある。

 不測の事態が起きると、外国人は雇用の調整弁となりやすい。コロナ禍の行方次第では、実習生や留学生にもしわ寄せが及ぶことだろう。また、感染が日本で拡大すれば、逆に彼らの方から母国へ帰国する動きが広がるかもしれない。

 低賃金・重労働を担ってくれる外国人は、日本にとっては実に都合がよい存在だ。ただし、外国人頼みには危うさが伴う。冒頭で紹介した新聞販売所と外国人の関係を見てもそうである。

 外国人に頼るべき仕事とは何なのか。頼るとすれば、どれほどの労働者を日本へ受け入れ、いかなる役割を果たしてもらうべきなのか。企業の生産やサービス体制、そして私たちの暮らし自体にも、見直すべき点はないのかどうか。そんな根本的な議論が、コロナ禍によって起きることを願いたい。
出井康博 (ジャーナリスト)

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