2020年4月1日水曜日

留学生頼みの日本語学校を襲うコロナショック

Source:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200329-00010001-wedge-soci
3/29(日) 12:21配信、ヤフーニュースより
Wedge
 新型コロナウィルスの感染拡大が、外国人留学生の受け入れ現場を直撃している。4月の新学期を前に、来日の延期や中止を迫られる外国人が続出しているからだ。現場では今、何が起きているのか。

 ベトナムの首都ハノイに住むフーンさん(27歳)は今年4月、東京都内の日本語学校へ留学する予定だった。彼女は大学で英語を教えているが、月収は日本円で3万円ほどに過ぎない。急激な物価上昇が続くハノイでは、生活にも困るほどの低賃金だ。そこでフーンさんは日本へ留学し、人材をリセットしようと考えた。しかし、コロナ禍が起き、来日すべきかどうか悩んでいる。

「日本とベトナム間の航空路線はまだ運行しているので、日本へ行けないわけではありません。でも、日本で私がコロナウィルスに感染することを両親が心配しているのです。ベトナムでは、日本は“危ない国”の1つと見られていますから」

 ベトナムのおけるコロナウィルス感染者数は、3月23日時点で134人に留まっている。だが、海外からの帰国者に感染が目立っているため、ベトナム政府は対策に余念がない。3月14日には、欧州27カ国からの入国を禁止する措置を打ち出した。そして18日になると、日本からの入国に関しても、ウィルス陰性の証明書がない限り、制限することが決まった。日本人かベトナム人かを問わない措置で、実質的な入国禁止と言える。まさに日本が“危ない国”と認定されたわけだ。その後、ベトナムは22日、すべての外国人の入国も停止した。

 フーンさんは日本語学校に初年度分の学費を支払い、留学ビザも取得できた。だが、彼女の心は揺れている。

「日本に行きたいけど、私も感染は怖い。両親の反対を押し切ってまで行くべきかどうか……」

 留学生の数は2019年6月時点で約33万7000人を数え、12年末から16万人近く増加した。近年、アジア新興国で日本への「留学ブーム」が巻き起きた結果である。とりわけベトナム出身者の増加は著しく、12年時点では9000人に満たなかった留学生が、今では8万人を超えている。

 フーンさんの目的は日本での「遊学」だ。100万円をゆうに越える留学費用は、国営企業の幹部を務める父親がポンと出してくれた。彼女のような富裕層の日本留学は、ベトナム人の間では珍しい。たいていは貧しい若者たちが、留学費用を借金に頼り、出稼ぎ目的で来日する。日本では、留学生に「週28時間以内」のアルバイトが認められるからだ。留学生が急増したのも、勉強よりも出稼ぎが目的の“偽装留学生”が大量に流入した結果である。

 その恩恵を最も受けたのが、留学生の日本での入り口となる日本語学校業界だった。日本語学校数は昨年末で774校と、10年間で2倍以上に増えている。そんな日本語学校で、新型コロナの影響が著しい。

 フーンさんの状況を見ても、来日を控えるベトナム人は少なくないだろう。ベトナム以外の留学生に至っては、さらに減少が見込まれる。

 現在、日本へ最も多く留学生を送り出しているのが、約13万人が来日中の中国だ。その中国に対し、日本政府は3月9日、発給済みのビザを無効とすると決めた。結果、今春に留学を予定していた中国人は、来日を延期せざるを得なくなった。
富裕層中国人留学生が人気
 この1~2年、日本語学校の間では、中国人留学生が「人気」だ。法務省入管当局は“偽装留学生”問題を認識し、アジア新興国出身者へのビザ発給を厳しくしている。かつては中国人にも“偽装留学生”は多かった。しかし経済発展が進んだ現在では、むしろ富裕層の留学が目立つ。ビザ交付率も、アジア新興国よりずっと高い。

 日本語学校としては、ビザが発給されなければ新入生が減り、そのぶん経営に打撃となる。そこで学校側は、確実にビザ取得が見込める中国人の受け入れようと努める。中国人の場合、ベトナム人などと比べて学費を取りはぐれる心配もない。そんな頼みの中国人留学生が、今春は受け入れられないのだ。

新型コロナの影響が出ているのは、中国やベトナムだけではありません。ネパールだってそうですよ」

 そう話すのは、アジア新興国から留学生を日本語学校に斡旋している日本人エージェントだ。

 ネパール出身の留学生は約2万8000人を数え、国籍別で中国とベトナムに次いで多い。ベトナムと同様、“偽装留学生”の送り出しが目立つ国でもある。そのネパールからも留学生の受け入れが止まっているという。

「ネパール人に対する在留資格認定証明書(※ビザ発給前に入管当局の審査を経て出される証明書)交付率は、去年と比べても悪くなかったんです。だけど、ネパール教育省が学費の送金をさせてくれない。自国民を日本へ送り出したくないのです。学費が支払われなければ、(現地の日本)大使館へのビザ申請もできない。おかげで私たちの商売もあがったりですよ」

 日本が外国人から“危ない国”とみなされるのは、今回が初めてではない。2011年、東日本大震災によって福島第一原発事故が起きたときもそうだった。

 事故による放射能の影響を恐れ、当時、留学生全体の7割以上を占めていた中国人が日本から去り始めた。結果、留学生の増加に歯止めがかかり、政府が2020年に達成を目指していた「留学生30万人計画」も実現も危うくなった。すると政府は、ベトナムなどアジア新興国からの“偽装留学生”受け入れに舵を切る。
バブルに沸いた日本語学校
 留学ビザは本来、日本でアルバイトなしに生活できる留学生に限って発給されるのが原則だ。しかし、この原則を守っていれば留学生は増えない。新興国の庶民には、日本への留学に十分な経済力などないのである。そのため政府は留学生の数を確保しようと、あるインチキに打って出る。ビザ申請時に留学希望者から提出される親の年収や預金残高の証明書が、捏造されたものだとわかって受け入れ、ビザを大盤振る舞いするようになったのだ。

 “偽装留学生”の流入で、日本語学校はバブルに沸いた。彼らは低賃金の労働者としても利用できる。日本にとっては実の都合のよい存在だ。

 そんな“偽装留学生”も、コロナ禍によって減少することは間違いない。すでに多くの日本語学校で影響が出始めている。関西地方の日本語学校幹部が言う。

「4月に入学する新入生向けコースの設置を見送る学校が続出しています。(日本語学校が集中する)首都圏では、経営難で売りに出ている学校までありますよ」

 バブルを謳歌してきた日本語学校の淘汰は免れないだろう。さらに問題は、「コロナ後」である。

 東日本大震災の後、政府は留学ビザの発給基準を緩め、“偽装留学生”の急増を招いた。コロナ禍が収束したとき、同じことが起きないとも限らない。

 新型コロナで留学生が減少するのは日本だけではない。世界各国で同様の現象が起きるだろう。ただし、新興国の若者を留学漬けで来日させ、底辺労働に利用する“偽装留学”というシステムは、世界に例を見ない醜悪なものなのだ。

 労働者が必要なのであれば「留学生」として受け入れなくても、真正面から「労働者」として受け入れればよい。コロナ禍は、留学生をめぐるいびつな実態が正常化するきっかけになるのだろうか。
出井康博 (ジャーナリスト)

0 件のコメント:

コメントを投稿