2020年4月14日火曜日

捨てないで!使用済み切手 その一枚が、途上国の子どもの命を守る

Source:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200410-00010001-yjnewsv-l13
4/10(金) 15:01配信、ヤフーニュースより
 使用済みの切手は無用、と思っていないだろうか。友人や知人、仕事先から、あなたに送られてきた手紙やはがき。そこに貼られた一枚の切手が海外の医療支援につながっていることを、深く豊かな切手の世界と共に紹介する。
東京オリンピックの年に始まった使用済み切手集め
 東京都・西早稲田。周辺には早稲田大学や山手線内で一番高い人造の箱根山(標高44.6メートル)がある。その一角、キリスト教関係の団体が集まった古いビルの一室の扉を開けると、壁に背丈ほどに積まれ、床一面に広がった段ボール箱が目に飛び込んでくる。100個以上あるだろうか。中はすべて使用済み切手だ。
 ここは、筆者が勤める公益社団法人日本キリスト教海外医療協力会(JOCS)の事務局だ。1960年に設立されたJOCSは、日本の国際協力NGOの草分けである。東京オリンピックが開かれた1964年、国内で最初に使用済み切手を集めて海外での医療支援を始めた。

 朝10時、集まった5、6人のボランティアが手際よく郵便物を開封していく。中には全国から寄せられた新旧さまざまな使用済み切手が入っている。ハサミでていねいに切り抜き、床に置かれた高さ25センチほどの段ボール箱に次々と入れていく。
 毎日届く切手は、重さにすると一年間で約10トンに達する。
 段ボールひと箱には約4万枚の切手が入っている。これを、希望する全国の収集家へ1万4千円(送料込み)で送る。年間で約1700万円の収入となり、海外での医療支援に使われる。
「使い終わった切手が人の役に立つことを、もっと多くの人に知ってほしい」
 母、娘と3代にわたってこのボランティアを続けている中沢宏子さん(77歳)は、こう話す。
使用済み切手の新たな人生
 申し込んでから1カ月待ちとなる使用済み切手。なぜこれほどの人気なのか。その答えの一つがこの不思議な絵だ。

 切手で作った貼り絵だ。作者は横浜市の切手収集家、金川博史さん。公益財団法人日本郵趣協会の理事でもある。
 「小学生のころグリコのおまけに付いていた外国切手がコレクションのきっかけ」という金川さん。消印を見て切手が使われた当時の状況を想像するのが楽しいという。切手の貼り絵を始めたのは30年ほど前。コレクションを続けていると、いらない切手が残ってしまう。

 「捨ててしまうのはもったいない、どうしよう、と思っていたときに出会ったのが、グラフィックデザイナーの福田繁雄さんが作ったモナ・リザの切手貼り絵でした。これだ!と」
今は貼り絵の講師や、貼り絵コンクールの審査員を務めている。

 このペコちゃんの絵の大きさは、74センチ×104センチ。1075枚の切手が使われている。封書やはがきから切り抜いた切手を紙からはがし、色別に分ける。1週間ほどかけて貼り絵にした。ペコちゃんの口の曲線は、消印の黒のラインでできている。
約1500種類、絵柄が豊富な特殊切手
 そもそも、日本には何種類くらいの切手があるのだろうか。
切手と一口にいっても、普通切手と特殊切手のふたつがある。普通切手は、その時々の郵便料金に合わせて発行されており、いまは20種類ある。

 一方、特殊切手は期間限定。2019年度には46種類、10億枚以上が発行された。絵柄は日本の夜景や観光名所、ラグビー・ワールドカップのような時代を反映したものなどさまざまだ。特殊切手の第1号は、1894年の明治天皇と皇后のご成婚25周年の「明治銀婚記念」。以来、今まで約1500種類が発行されてきた。
多種多様、一枚一枚が小さな芸術品
 1973年から75年に発行され話題となった「昔ばなしシリーズ」は、一寸法師やかぐや姫、こぶとりじいさんなど7種類あり、それぞれのお話の名場面が3つ描かれている。3枚組みで封筒に貼ると、短い紙芝居をみているようだ。

 一枚一枚が小さな芸術品である。加えて、この多種多様さが収集家を引きつける。
ネパールの子を結核から守りたい赤ひげ先生の奮闘
 収集家のあいだで人気の使用済み切手を、海外での医療支援に生かそうと考えたのは、JOCS理事で医師の故住吉勝也さんだった。
1960年代初め、JOCSは岩村昇医師をネパールに派遣していた。のちに「ネパールの赤ひげ」として世に知られ、「アジアのノーベル賞」と呼ばれるマグサイサイ賞を受賞した人だ。

 ネパールの山間部をまわり診療をしていた岩村昇医師は、そこで多くの貧しい結核患者に出会った。いくら治療しても新しい患者が次々と見つかる。患者を減らすにはワクチン注射が有効だ。ワクチンで、ネパールの子どもたちを結核からまもりたい。

 その願いを受け止めた住吉さんが、岩村医師の活動を支えるため、1964年にネパールへBCGワクチンを送る全国キャンペーンを始めた。アイデアはヨーロッパの活動を模したものだが、切手ブームもあって、「使用済み切手400枚でBCG1本に」という呼びかけは国内に広く知れ渡った。

 「切手収集家の趣味と実益」と「途上国の子どもたちの命を守る」というボランティア精神が結びついたユニークな運動の始まりである。しかし、これも、だれが見ても楽しめる多種多様な切手があればこその話である。
竹下景子さん「世界と私を結んでくれた」
 途上国の医療を支援する使用済み切手集めは、多くの人が協力くださっている。

 俳優の竹下景子さんも、その一人。幼いころに学習雑誌で岩村医師の活動を知り、切手を集め始めたという。「JOCSが世界と私を結んでくれた」と、竹下さんはJOCSに一文を寄せてくれた。
タンザニアに助産師を派遣
 JOCSは寄付していただいた使用済み切手の収入を原資のひとつとして、海外で医療活動をおこなってきた。医師や看護師の派遣、奨学金、現地の団体との協働事業の3つが活動の柱だ。現在、バングラデシュに看護師、タンザニアに助産師を一人ずつ派遣している。

 タンザニアで活動する雨宮春子さん(39歳)は北海道の出身。小学生のころに途上国で活動する人の話を聞いたのがきっかけで助産師になった。日本で経験を積み、2019年1月にタンザニアに赴任した。内陸部にあるタボラ州の病院で妊婦健診や母親教室、産前産後のケアの充実に取り組んでいる。
 雨宮さんはタンザニアに来て早々、10度目の出産を迎えるある女性と出会った。話を聞いてみると、子どもは一人もいないという。生まれた子どもを全員病気などで亡くしていた。この地で生まれ成長することの難しさを実感した。

 「今回生まれた子どもが無事大きくなるように、祈るばかりです」
子どもの命と健康を支える切手
 通信という本来の役割を終えた、一枚の小さな切手。捨てればただのゴミに過ぎないが、集まれば大きな力になる。

 「皆様が集めてくださった切手がタボラ州の人たちへの大きな支援となっています。ぜひご協力をお願いします」
 雨宮さんからの、メッセージだ。

 使用済みの切手が、異国の子どもたちの命と健康を支えている。

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執筆者 高橋淳子
公益社団法人日本キリスト教海外医療協力会(JOCS)事務局スタッフ。大学卒業後、一般企業勤務、青年海外協力隊での活動等を経て現職。青年海外協力隊時代、現地の人々の心の豊かさや優しさに触れ、同時に、治るはずの病気で多くの人が亡くなる状況を知った。現地への恩返しの気持ちと、先進国との不公平さを少なくしたいという思いから活動をつづけている。ちなみに好きな切手は1961年発行の「花シリーズ」。

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この記事は、Yahoo!基金主催の 2019年度 「NPOの知らせる力(ちから)プロジェクト」選抜講座の受講者の作品です。
講座は、特定非営利活動法人日本NPOセンターが運営し、朝日新聞ジャーナリスト学校が執筆指導にあたりました。
プロジェクトの趣旨に賛同するYahoo! JAPANユーザーとヤフー株式会社からの寄付金を財源として活用しました。
高橋淳子

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