2020年4月22日水曜日

エベレスト頂上付近の“大渋滞”が人命を奪う! 急増する“素人登山家”とは(前編)

Source:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200418-00010003-gqjapan-bus_all
4/18(土) 20:13配信、ヤフーニュースよ
GQ JAPAN
2019年、世界最高峰エベレストの頂上付近を捉えた1枚の写真がインスタグラムに投稿され、またたく間に拡散した。標高2万9000フィート(8848メートル)の山の“死のゾーン“でいったいなにが起こったのか。現場にいた人々に、米版『GQ』が話を訊いた。

【写真を見る】なぜ“素人エベレスト登山家”が増えたのか?
すぐ後ろから「なに止まってんだ!」と叫び声が。いよいよまずい
2019年5月23日午前9時30分、ラインハルト・グラブホファーはエベレスト頂上にいた。天気晴朗。視界は360°。卓球台2つぶんほどの地面に13人がいた。相棒のエルンスト・ランドグラフと記念撮影。前日夜11時にキャンプ3(標高約8348メートル付近のキャンプ地)を出発し、闇の中、北側の凍った斜面を登ってきた。道中の最低気温はマイナス18℃を下回り、ボトルの中の水はガチガチに凍った。疲労困憊、喉はカラカラ。だがそんなことは一切気にすまい。計画に何年もかけ、麓で何週間も待って、ようやくここまできたのだ。

すると、ベース・キャンプから連絡が。いわく、悪天候が急速に接近中。速やかに下山を。

登る人とすれ違うときはロープからクリップを外し、避けてあげる。そのとき突風に煽られるか足を踏み外すかしたら一巻の終わり。そんなことにもすっかり慣れたグラブホファーは45歳。離婚後の落胆からの再出発を期して30歳で登山を始めた。ヒマラヤへ向かい、標高6477メートルのネパールはメラ峰に登頂。以後10年間で、7大陸最高峰中の3つを制覇した。ウィーンの観光会社で働く彼は、今回のパッケージに6万5000ドル(約710万円)を支払った。それと、中国政府発行の許可証のための1万1000ドル(約120万円)も。下りているうちに天候が悪化してきた。

北斜面でもっとも危険な場所に差しかかったのは正午頃。ザッと約9メートルの断崖絶壁を梯子で下りる。梯子に足を掛けるには、アイゼンを装着した重たいブーツで雪庇越しに探るしかない……のだが、そこでは中国のグループの女性が進退窮まっていた。

標高7900メートルの“デス・ゾーン“に長時間留まっていては取り返しのつかないことになる。すぐ後ろから「なに止まってんだ!」と叫び声が。いよいよまずい。こんなところへ来てはいけない人たちなのに。彼女はなにもできず30分。45分。別の人が声を上げた。「なんてことだ」。両腕を上げて落胆の仕種。「なんで進まない?」。
10年間で倍増
エベレスト登山は5月、ジェット気流が遠のくあいだだけギリギリ可能になるが、1996年5月には視界ゼロの吹雪の中で8人の登山者が死亡した。現在、この山はますます混雑している。この年の登山シーズン、ネパールの当局は381通の許可証を発行した。過去最高だ。それと山の反対側では、中国政府が100件を超える許可を。エベレスト登山に来る人の数はこの10年間で倍増した。格安エージェンシーの台頭で、比較的素人の登山家にも扉が開かれたためだ。

5月22日、頂上へ向かう長い列の中にネパール人登山家ニルマル・プルジャがいた。彼が撮影した写真から、その場のカオスぶりがわかる。ヒラリー・ステップへ向かう刃物のように鋭い尾根の上に何百人もの登山家がウネウネと列をなしている。ヒラリー・ステップは頂上手前の最後の難所。隙間なく並んでいる登山家たちは、リフトの順番を待つスキー客のようだ。この画像はたちまち世界中で閲覧され、そして当然の疑問が湧き起こった。

何週か前インドに上陸した大型台風の影響でエベレストは吹雪に見舞われ、登山家とそのクルーたちは天候が穏やかになるのを待たされた。そしてついに空が晴れ、突如としてレースが始まった。「5月19日まではベース・キャンプで待つしかありませんでした」とデンディ。グラブホファーのチームの7人のシェルパのうちの1人で親分格だ。「天候のウィンドウがオープンになるのは2日間だけ。そのタイミングで全員が頂上を目指します」。

5月22日水曜日の午後半ば、キャンプ3に到着。標高8348メートル。酸素濃度が低く、ほとんどの人はタンクに頼る。いったん眠り、夜11時、他の12グループ80人ほどと一緒に頂上へ。早いうちに下りてくれば、午後の悪天候に見舞われる前に木曜日の行程を終えられる。だが出発1時間後にトラブル襲来。雪が溶け、岩や石が剥き出しになっていた。「アイゼンで足元を踏みしめながら登っていく。どうかするとズルズル滑って戻される。バランスを保つのに必死で、すごく体力を消耗するんです」。ここは引き返すべきか? 初めてそう思った。

頂上直下に3つある難所の最初の1つで10人ほどが順番待ちをしていた。ここを登るには、横向きになって岩の隙間に身体を入れ、ロープをたぐっていく。ジタバタしているのが何人か。おいおい、なにをやってるんだ?

さらに2時間後、第2の難所の先の尾根で2体の遺体。様子からして、すでに何年もそこにあることがわかった。エベレスト全体では200の放置遺体がある。回収するには最大10万ドルかかるし、危険がともなう。気候変動のせいで、雪や氷の下にあった遺体が姿を露わにしてきている。「気を取られてはダメです。前進あるのみ」(後編へ続く)。
Words ジョシュア・ハマー、Translation 森 慶太

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