Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/70e59901e920bb70c3aecbe329ca1d657bcce511
外国人労働者が年々増加している日本。それに伴い、公立学校で学ぶ外国人児童生徒の数も増えてきています。平成30年のデータによると9万人を超える外国人児童生徒が日本の公立学校で学んでいますが、母語との間で、日本語の授業についていけない子も。こういった子どもたちを支援したいと、長年教育現場に携わってきた一人の先生が、知識と経験を生かして独自に教材を開発しました。(JAMMIN=山本 めぐみ)
つい見過ごされがちな外国人児童生徒の学習を支援
愛知県小牧市を拠点に活動するNPO法人「にわとりの会」。代表の丹羽典子(にわ・のりこ)さん(63)は、30年にわたり小学校教師として外国人児童生徒の教育の現場に携わってきました。 パッと見は他の子どもたちと何も変わらず元気いっぱいで、日本語もペラペラで日常会話にも不自由なく、何の問題もないように見える外国人の生徒たち。ところが授業になると途端についていけず、「いざ教科書を開いて『ここを読んで』というと、中学生くらいの大きな子でも、小学2年生の教科書が読めなかったりするということが少なくない」と課題を指摘します。そしてまた、この課題は一見して困難が見えづらく、長きにわたり見過ごされてきたところがあるといいます。
「決して彼らが学習を怠ったわけではなく、生徒に向き合ってよくよく話を聞いてみると『実は字が読めんのだ』ということがある。授業ついていけないことは、子どもの自信ややる気の喪失、不登校やドロップアウトにもつながりかねません」と丹羽さん。 小学校教諭として、外国人の生徒を集めた「国際教室」で5年教えた中で、何年生の生徒を教えても皆「小学2年生の漢字でつまずいている」という事実を発見した丹羽さん。「無限の可能性を持つ子どもたちが、言葉や文化の違いで学習の機会や未来の可能性を奪われないようにしたい」と、独自の教材「にわとり式漢字カード」を開発しました。
「本人の認識と言葉とを結びつけられたら確実に日本語を覚えていくことができる」
「自分の専門分野を生かしてこの課題をどうにかできないか。毎日学校に来る外国人児童生徒に、よりわかりやすく漢字を覚えてもらうために何かできないかと思った」と開発当時を振り返る丹羽さん。開発のもう一つの目的として、現場で外国人児童生徒を指導する先生や日本語教室のボランティアの人たちを助けたいという思いもあったといいます。 「国際教室を担当していた時、同じように国際教室に配属になった先生が、どう教えていいのかわからず途方に暮れている姿を見てきました。特に海外を訪れたり外国語を学んだりといった経験がない先生は、子どもたちが何に困り迷っているのかを想像しづらく、苦労されているように感じました」 「そうすると、漢字を覚えられない子どもに直面した時、自分が受けてきた、あるいは教えてきた教育と同じように『10回書けば覚えるよ』と言ってしまう。だけど子どもからすると、意味のわからない模様をなぞったり書いたりしているだけで、10回書いても20回書いても覚えられないんですよね」
「フィリピンから来日し、1年生から日本の小学校に入学したある子は、小学校4年生の3学期になっても小学1年の漢字を2つか3つしか覚えていませんでした。あれっ、と思ってその子の過去の漢字ドリルを見ると、1年生の時からちゃんときれいにドリルをやっているんですよね。ただ、自分が知っていて家族と会話している英語やタガログ語、母語の単語一つひとつと、日本語のそれとが全く結びついていなかったのです。意味がわからないまま、ただただよくわからない記号を静かに模写していたんです」 「私は外国人児童生徒とのやりとりの中で、子どもたち一人ひとりが知っている母語や物、一人ひとりの認識の世界と照らし合わせて『これは日本語ではこうやっていうんだ、こうやって書くんだ』ということをつなげることができれば、確実に覚えることができるということを体験として感じていました。『にわとり式漢字カード』には、こういった私の経験がギュッと詰め込まれています」
絵があり、音が出て、母語も聞こえる。学ぶ者の感性を刺激しながら学習を促す
「にわとり式漢字カード」は、一つの漢字につき一枚のカードになっています。 「表には読み方と例文、イラストが、裏には北京語・広東語・英語・スペイン語・ポルトガル語・タガログ語の6ヶ国語で例文の翻訳が載っていて、セットになっているタッチペンでそれぞれの音を読み上げてくれるしくみになっています。漢字カードは現在アプリも開発していて、こちらはベトナム語とネパール語を加えた8ヶ国語の例文の翻訳を掲載しています」
「絵があり、母語とその読み上げの音があると、子どもたちの反応は全然違いますね。それでもやっぱり集中力が途切れてしまうので、時々カードに二択クイズなども入れています。正解と思う方を押して、合っていたら『ピンポン』と鳴る。子どもたちは喜んでくれますね。 「子どもの意欲を引き出すために、一部、絵に音声をつけた点もポイントです。 たとえば、『一』のカードの例文は『一(いち)日に一(ひと)つりんごを食べた』なのですが、りんごのイラスト部分をタッチすると『ムシャムシャ』とリンゴをかじる音がしたり、『全』のカードには『全(まった)くだめだ。全(ぜん)部まちがい』という例文をつけているのですが、イラストをなぞると『ガーン』という音がしたり。音を探すのも大変な作業でしたが、ポップでちょっとおふざけな感じも入れながら、楽しいカードを作りました」
「このカードで何より特徴的なのは、漢字の並び順です。あいうえお順でも画数順でもなく、外国人児童生徒が漢字を覚える際に適した並び順を意識して作成しました。2011年9月に小学校1・2年生の漢字にプラスαを加えた256枚のカードが完成、最終的には小学6年生までの漢字・713枚のカードを作りました。た現在生徒用にリリースしているのは2年生まで、それ以上の学年は教育者版となっています」
「たまたま日本にやってきて、言葉がわからないだけ。子どもたちの可能性は無限」
「言語環境の複雑さのために本来の能力が埋没してしまう。だけど、能力がないなんていうことは決してありません」と丹羽さん。 「子どもたちはたまたま日本に来て、言葉がわからないだけなんです。だから、『日本に来て自分はばかになってしまったのか』『学習についていけない自分は頭がわるいのか』と自信を喪失する期間を、できるだけ短くしてあげたい。生きていく上で、それがたとえ日本であれ世界であれ、言語は非常に重要です。母語も日本語も学習言語が身についていない『ダブルリミテッド』の状態を作りたくないと思っています」 「子どもたちはすでに、それまで生きてきた経験の中で『言葉の網』を持っています。それを一つひとつ日本語や漢字にしていくことができれば、すでに網はあるので、オセロのように一つひとつ、本人の認識を日本語にひっくり返していくことができる」 「一方で、その『言葉の網』と日本語とが結びつくタイミングがなければ、本人の持っている網とは別の場所に、よくわからない日本語たちが存在することになります。そうすると学習の現場で日本語を用いていくことは困難になりますよね。この、本人の持つ『言葉の網』と日本語とを結びつけるものが『にわとり式漢字カード』なのです」
「自分が知っている物の絵があり、母語が聞こえ、聞いたことのある日本語が聞こえた時、その子の中でこれらすべてがつながる瞬間があるんです。それはやがて膨大な知識となり、本人の自信にもつながっていくと信じています」 「子どもの存在自体が大きな可能性のかたまりで、全知全能で幸せにあふれています。皆、最初は目をキラキラさせて期待や希望でいっぱいで学校の門をくぐるのに、どこかつまずき、くすんでいくことがある。そのひとつの原因として『勉強がわからない』ということがあります。私は教師として、子どもたちが何か切り札として『これをやれば次のステージに行ける』と夢を持ち続けられるもの、夢をかなえるためのツールを提示してあげたいと思っていますし、それが自分の役割だと思っています」 山本めぐみ: JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2014年からコラボした団体の数は360を超え、チャリティー総額は6,000万円を突破しました。
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