Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/4d754a5a7c44c663556e69f8451f7df17538316d
世界で猛威をふるっているデルタ株(通称インド株)。感染力が従来型よりも40~80%高いとされ、WHOの発表によると80の国と地域で確認されている。 【画像】家族4人で10日間隔離された26平米「換気も外出も禁止」 特に感染が広がっているイギリスでは、6月9日~16日の間にデルタ株感染が7万5953件確認された。4万2323件だった前週と比べると、感染拡大スピードの凄まじさがわかる。6月には日本でも都内中学でインド株によるクラスターが発生している。 このインド株を水際で留めようと、特定地域からの入国者には10日間の隔離(通常は6日間)が義務付けられている。隔離期間中は宿泊施設に毎日3食が用意されるが、外出も換気もできない10日間は、想像よりもずっと過酷なようだ。大人だけならまだしも、そこに幼子がいたら――。 0歳児と4歳児のいる、家族4人での「隔離10日間」を取材した。(全2回の1回目。 後編 を読む) ◆ ◆ ◆
「10日間、何度もイラっとしました」
「感染力が大きいインド変異株の流入を防ぐために水際対策が必要なのは、私だって理解しています。でも、ハナから『おまえら、陽性だろう』といった感じで扱われて……。強い言葉で言うと人権侵害じゃないかと思う。キツい10日間でした」 こう話すのは、7年間赴任していた南インド・ベンガルールから、このほど家族で一時帰国した北村研二さん(=仮名。36歳、輸送関連メーカー勤務)だ。 インド(及びネパール、パキスタン、バングラデシュ、モルディブ、スリランカ)からの帰国者への水際対策が5月27日から強化され、「指定場所で10日間待機」「入国後3日目、6日目、10日目に改めてPCR検査」が課されているなか、北村さんは妻のユカさん(=仮名。34歳)、子ども2人(4歳男児・8か月女児)と共に6月6日に成田空港に着いた。そしてそこから「帰国者コロナ隔離」が始まった。 「10日間、何度もイラっとしました」 順を追って、お聞かせいただこう。 空港に着いて、ソーシャルディスタンスを十分にとってパイプ椅子が並ぶ部屋へまず案内された。 14日間隔離(ホテル10日間+自宅4日間)などの説明を受けたのち、「誓約書」「健康カード」「宿泊施設登録票」に署名。「陰性証明書」のチェックとPCR検査が行われ、続いてスマホへのビデオ通話、位置情報確認アプリ(OEL)、接触確認アプリ(COCOA)などのダウンロードをする。そういった流れだった。
物々しいバス車内「護送車や」「ミステリーツアーか」
持参したレジャーシートを床に敷いて子どもたちを遊ばせながらPCR検査の結果を待つこと2時間。ようやく入国審査を受け、スーツケース6個とベビーカーの荷物を受け取って到着ロビーを出る。 「一連の行程に運が悪いと7、8時間かかると聞いていたので、4時間半ほどだった私たちはラッキーでした。PCR検査の担当者が厳重な防護服を着用していたことに少し違和感を覚えたくらいで、空港を出るまでは大丈夫だったんです。ところが、その後ホテルに向かうバスに乗るや否やイラっとした。万全を期すためには仕方ないとはいえ、あからさますぎるんじゃないですか」 座席をはじめバス車内のありとあらゆるものがビニールで覆われていた上、窓のカーテンが閉ざされていたからだ。カーテンの内側もビニールが張られ、窓を開けられない状態にされていたのだという。 「外の世界と無理やり遮断? 私らバイキンやと思われてるな」 「まるで護送車や」 ユカさんと、そう話した。ちなみに2人とも関西人だ。他の乗客が、「ミステリーツアーか」とつぶやいているのが聞こえた。 「出国の72時間前と成田空港でついさっき。バスに乗るのは皆、すでに2回PCR検査をして陰性だった者ばかりなのに。ビニールの上に座るとバサバサと音がして、悲しくなりました」
外出不可、コンビニ利用不可、アルコール禁止……
北村さんたちの隔離場所となるホテルへは、成田空港から10分ほどで着いた。厚生労働省が一棟借り上げをしているホテルだ。通常のロビーとはなぜか別フロアに通され、滞在中の過ごし方について説明を受ける。 「外出はできません」 「館内のコンビニは利用できません。お部屋の中でお過ごしください」 「朝食は8時半頃、昼食は12時頃、夕食は18時頃にお弁当を配食し、部屋のドアの外の椅子の上に置きます」 などなど……。 はいはい了解です。と聞いていたところ、「滞在中、アルコールは摂取できません」とも。 思わずユカさんと目を合わせ、ため息をついた。アルコールがダメな理由は「陽性の場合、治療にさし障るから」らしい。その理屈が通るのは、体調が悪い人に対してだけではないか。やはり陽性者扱いなのだ。 腑に落ちないといえば、この項目がもっとだ。 「ご家族等からの差し入れ等の荷物は、中身の確認をさせていただきます」 「アルコールや危険物」が入っていないことを確認するためとのことだが、プライバシー侵害も甚だしい。私物をチェックするなんて、戦争中の検閲と同じじゃないか。寿司や冷凍食品の差し入れもなぜかNGだという。文句の一つも言いたいが、この若い係員に言っても虚しいだけだと口をつぐんだ。
4歳児をまちがいなく不健康にさせる広さ
北村さん一家が割り当てられたのは、26平米のツインルーム。2つのベッドの間にエクストラベッドが置かれていた。 「部屋に入って最初に思ったのは、2、3日なら大丈夫だろうけど、ということ」と北村さん。ここでこれから部屋から一歩も出ることのない10日間が始まるのだ。 スーツケース3個をクローゼットに仕舞い込めたが、あと3個ははみ出した。すぐに必要な着替えやおもちゃなどを取り出す。下の子がハイハイをできるように、床にジョイントマットを敷いていると、上の子がベッドをトランポリンにしてさっそく飛び跳ねはじめた。 「足の踏み場は……ギリギリあるけど、健康な4歳児をまちがいなく不健康にさせる広さや」とユカさん。不健康……。う~ん、大人もだ。筋トレをするスペースもないなと北村さんは肩を落とした。
弁当は「思ってたよりおいしい」
その日の夕食弁当のおかずは、カレー風味の麻婆豆腐とクミンが効いた魚のフリッター。具なしのインスタント味噌汁がついていた。子どもサイズのお弁当は用意されないので、2つ注文するにとどめ、上の子にはその中から分けることにした。 「思ってたより、おいしいやん」 「う~ん、冷たいのが残念やけど」 と、小さな丸テーブルを食卓にして食べる。椅子は2脚あったが、スペース確保のため1脚をホテルに戻し、上の子と大人1人がベッドの端を椅子代わりにする。 「狭いながらも楽しい我が家って感じかねぇ」と北村さんがおどけると、ユカさんは「うううん、まあね」と小さく笑った。 疲れ切っていた北村さんは、その日、上の子と一緒に午後9時頃にベッドに入ったが、そのときユカさんは授乳中だった。下の子を寝かしつけてから、副食品やお菓子、果物、おもちゃ、ベビーフード、洗濯ロープ、洗剤などの差し入れを母親に頼んだ。北村さんのために「ビールがダメなら、ノンアルコールビールを入れとこうか」と言う母に、ユカさんが「中途半端。ノンアルを飲むと、却って本物のビールが飲みたくなるやろし」と断ったと翌朝聞いた。 北村さんは、明日から仕事も授乳もおむつ替えも子どもの遊びも一緒くたにこの部屋でするんだな、と思っているうちに眠りに落ちたという。 「メンタルぎりぎり」0歳児を抱えた家族4人の“隔離10日”現場写真 狭い密室で子供は食事をしなくなり…《デルタ株対策》 へ続く
井上 理津子/Webオリジナル(特集班)
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