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デルタ株がさらに変異、日本国内でも確認と官房長官が発表
新型コロナウイルスの新たな変異株が出現し、これが悪名高いデルタ株よりも危険なのかどうか、科学者らが解明に努めている。デルタ株はインドで数十万人の死者を出し、世界中で急速に感染拡大の主流になりつつある。 ギャラリー:腸チフスのメアリーから不遇の天才医師まで「感染症、歴史の教訓」 画像20点 この新たな変異株は、俗に「デルタプラス」と呼ばれる(ただし正式な呼称ではない)。新型コロナの感染拡大の「第2波」による大打撃を受けたインド西部のマハラシュトラ州は、デルタプラス株に対する懸念の高まりから、再度ロックダウン(都市封鎖)に踏み切った。 デルタプラス株と、インドと英国で主流を占めているデルタ株の違いはごくわずかだ。デルタ株は従来株より感染しやすく、入院が必要になるリスクを増加させると考えられている。既存のワクチンはデルタ株に対しても有効だが、1回接種では効果はかなり限られる。 世界保健機関(WHO)は、念のため、ワクチン接種を終えた人も引き続きマスクを着用するよう推奨している。「ワクチン接種が完了しても、感染の鎖を絶つために用心を続けましょう。実際、ワクチンを打っても完全に保護されるとは限りません。効かないこともあります」と、WHOのブルース・エイルワード上級顧問は6月25日の記者会見で呼びかけた。 デルタプラス株は、3月中旬以降に世界のデータベースに登録され始めた。英国では4月26日に最初の5件の感染が確認され、6月4日に海外旅行が禁止された。しかし、6月9日までに確認されたデルタプラス株の感染者の中には、旅行歴や旅行者との接触歴がない人もいることから、英国内ですでに市中感染を通じて広がっていると示唆される(編注:日本では6月21日の時点で37例が確認されていると加藤勝信官房長官が25日の記者会見で発表)。 デルタプラス株はまだ一般的ではないものの、インド保健・家族福祉省は6月22日、従来株より広まりやすく(伝播性が高く)、肺の細胞の受容体に結合しやすく、抗体反応を弱める特徴があるとして「懸念される変異株(VOC)」に指定した。 しかし、デルタプラス株がVOCに指定すべき基準を満たすか否かは議論の余地がある。「インドがこれをVOCとしたのは、確かなデータに基づくというより、慎重を期してのことでしょう」と、英ケンブリッジ大学の免疫学者で感染症の専門家であるラビンドラ・グプタ氏は述べている。
デルタプラス株は懸念される変異株(VOC)なのか?
ある変異株が頻繁に確認されはじめ、気掛かりな特徴が見つかった場合、公衆衛生当局は「調査中の変異株(VUI)」に指定して正式な調査を開始する。その結果、従来株より伝播性が高いか、抗体への耐性が高い、または重症化しやすいことがわかると、VOCに指定される。 「インドSARS-CoV-2ゲノミクス・コンソーシアム(INSACOG)」はデルタプラス株をVOCではなく「注目すべき変異株(VOI)」としていると、ウイルス学者のシャヒド・ジャミール氏は述べている。INSACOGはインドの研究機関と政府機関からなる全国的なネットワークで、新型コロナウイルスの遺伝子変異を監視している。ジャミール氏は最近までINSACOGの科学顧問グループを率いていた。 ただし、この新たな変異によって、デルタ株に比べて感染力や免疫反応に対する耐性が低下したわけではないため、「デルタプラス株もまた、懸念される変異株(VOC)に指定されることには何の問題もありません」とジャミール氏は言う。 現在、少なくとも「AY.1」と「AY.2」と呼ばれる2系統のデルタプラス株が、徐々に世界中に広まりつつあり、これまでにカナダ、ドイツ、ロシア、スイス、ポーランド、ポルトガル、ネパール、日本、英国、米国で見つかっている。「AY.1」は多くの国に拡大している一方、「AY.2」はほぼ米国内に限られる。米国ではすでにデルタプラス株の感染が150件確認されている。 元のデルタ株に対しては、既存のワクチンがまだ有効であるものの、従来株に比べて有効性は低下している。とりわけワクチン接種後に有効な免疫反応が起こらない可能性のある人や、高齢者、ワクチンによる防御が急速に弱まりやすい人の間ではこれが顕著だ。 ワクチンの発症予防効果に関しては、米ファイザー社または英アストラゼネカ社のワクチンの1回目の接種後、有効率は33%に留まった。2回目の接種後は、アストラゼネカ社のワクチンで60%、ファイザー社のワクチンでは88%に上昇した。また初期段階の研究では、米モデルナ社のワクチンは従来株に比べてデルタ株に対して効果が低くなり、米ジョンソン・エンド・ジョンソン社のワクチンのデルタ株に対する有効率は6割ほどであることが示唆されている。 一方で、国民の57.1%がワクチン接種を完了しているイスラエルでは、デルタ株に感染した人の約半数がファイザー社のワクチンの2回接種を終えていた。これを受け、イスラエルでは屋内でのマスク着用が再び義務づけられた。 「変異株に関して、ワクチンが有効であることはわかっています。マスクを着用すること、ソーシャルディスタンスを保つことも有効です。見た目どおり恐ろしいウイルスですが、予防方法はいくつもあります」と、米デューク大学人間用ワクチン研究所(DHVI)の免疫学者プリヤンバーダ・アチャーリャ氏は述べている。
デルタ株との違いは?
デルタプラス株のデルタ株との違いは、ウイルスの表面を覆っているスパイクたんぱく質にある「K417N」という変異だ。これは、スパイクたんぱく質の417番目のアミノ酸が従来株のK(リシン)からN(アスパラギン)に置き換わったことを示し、この位置の変異はベータ株(南アフリカで最初に特定)やガンマ株(ブラジルで最初に特定)にも見られる。また、アルファ株(英国で最初に特定)のサンプルからも検出されている。 元のK417は、スパイクたんぱく質が、肺、心臓、腎臓、腸などの細胞にあるACE2受容体たんぱく質と結合する部分にある。スパイクタンパク質は、ACE2に出会うと、「閉じた」状態から「開いた」状態に変わって受容体に接着し、感染する。同じ変異をもつベータ株の研究に基づけば、K417Nはスパイクが完全に「開いた」状態になるのを助け、感染力を高める可能性がある。ACE2受容体への強い結合性や、より開いた状態は、伝播性や抗体への耐性が高い他の変異株でも見られる特徴だ。 研究によれば、K417の変異は、ベータ株が抗体を回避することを助ける。つまり、デルタプラス株はデルタ株よりも、さらにワクチンや抗体を逃れられる可能性が高いということだ。 「デルタ株の系統において、一部の症例でK417N変異が検出されたことは、この変異株が中和抗体に対してより高い耐性をもつように進化している可能性を強く示唆しています」と、フランスのパスツール研究所ウイルス・免疫部門の責任者、オリビエ・シュワルツ氏は推測する。氏の初期段階の研究結果(論文はまだ査読されていない)は、デルタ株が、回復期患者やワクチン接種者の血液から抽出された抗体に対して比較的強い抵抗力を持つことを示している。 ただし、K417N変異によって、スパイクたんぱく質にどれほどの違いが生じるのか予測することは難しい。なぜなら個々の変異がたんぱく質に及ぼす影響を単純に合計することはできないからだ。 「通常は、スパイク全体で複数の変異がまとまって作用すると、個々の変異が別々に作用する場合より影響が強まります」とアチャーリャ氏は説明する。デルタプラス株は、K417Nの他にも多くの変異をデルタ株から引き継いでいる。 「大事なのは、一つひとつの変異ではなく、それらがすべて合わさることでスパイクがどのように変化するかということです」とDHVIの生化学者ソフィー・ゴベイル氏は話す。 例えば、スパイクたんぱく質がより開いた状態になれば、ACE2受容体と結合しやすくなり、細胞に感染しやすくなる一方で、中和抗体への耐性が低下する可能性もある。 そのようにして、2つの影響が打ち消し合うこともあり得ると、英インペリアル・カレッジ・ロンドンの博士研究員トマス・ピーコック氏は言う。「ただし、これはあくまで推論であり、実際にどうなのかについては証明するデータが必要です」 新たな変異株について研究室で調査中のアチャーリャ氏は、「現在世の中にあるデータからは、K417N変異による影響やACE2との結合力の強化は見られません。私たちがテストした抗体でも、他の研究者がテストした抗体でも、免疫逃避における重要な影響は見られません。全体的な印象として、K417N変異単独では、デルタ株の危険性が増すことはないと思われます」
デルタ株より危険なのか? ワクチンの有効性は?
K417N変異はデルタプラス株の力を弱め、デルタ株より危険性の低いものに変えるのではないかと考える科学者もいる。 「417番目の変異は、これまでもB.1.1.7系統(アルファ株)で頻繁に見られましたが、勢力を伸ばすことはありませんでした。この変異株については、様子を見ることを提案します」とグプタ氏は言う。 デルタプラス株がインドなどでどれほど広がっているかは不明だが、「いわゆるデルタプラス株が問題になると結論づけるのは時期尚早でしょう」とシュワルツ氏も述べている。 既存のワクチンは、デルタプラス株に対しても有効だ。英イングランド公衆衛生局(PHE)が6月25日に公表した予備段階の研究結果によると、英国における感染者の半数はワクチンを接種していない人であり、接種を完了した人の感染例はごくわずかだ。そして、デルタプラス株による死者は発生していない。 遺伝子配列が分析されたデルタ株の症例9万7374件のうち、デルタプラス株と特定されたのはわずか400件だ。しかし、デルタプラス株が他国よりも優勢なのではないかと見られるインド、ネパールなどでの分析件数が限られているため、「伝播性の高さ、重症化のしやすさ、ワクチン逃避能力の有無などを判断するには分析件数が不足しています」とジャミール氏は話す。氏はインド、アショカ大学トリベディ生物科学部長を務めている。 科学者らは通常、実験室で培養した一定量の変異ウイルスに対して、ワクチン接種済みの人から採取した抗体をさまざまな量で与えることで、抗体の中和作用を測定する。 PHEの研究結果では、ワクチンを接種した人から採取した抗体はデルタプラス株を中和できることも示された。ただし、この変異に関する研究はまだ始まったばかりだ。
文=SANJAY MISHRA/訳=山内百合子
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