Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/4e3bdcbb18fb4bb710ac1a3199f55a80f842bff3
現地の人々が幸せに暮らすための経済基盤を作ろうと、ネパールの小さな村・コタンにピーナッツバター工場を建てた仲琴舞貴(なか・ことぶき)さん。そのピーナッツバターをきっかけに、工場で働く女性たちは成長と自信を身につけ、日本の消費者はネパールを身近に感じるようになりました。さまざまな分野で活躍する女性たちにスポットライトを当て、その人生を紐解く連載「私のビハインドストーリー」。後編では、「ツールを通して価値やインパクトを作りたい」という仲さんの価値観について伺いました。 【動画】油が上に分離しているピーナッツバターは無添加の証拠なのだそう! おいしく食べる上手な混ぜ方とは? ◇ ◇ ◇
転機となった写真家・ホンマタカシ氏のワークショップ
今では株式会社SANCHAIの代表を務める仲さんですが、キャリアのスタートは福岡県で、父が経営する美容室のマネジメント職でした。その後、何度か転職を経た後、東京で就いたのが大手コンビニのリサーチ職。残業や休日出勤が認められない就業規則だったため、興味深い仕事でしたが自由になる時間が多かったといいます。 「せっかく時間があるから何かしようと思っていた時、立ち寄った本屋さんで偶然、写真家のホンマタカシ氏がワークショップを開催すると知ったんです。面白そうだなと受講し始めたら、これが本当に面白くて面白くて。私にとって写真の面白さとの出合いが一つの転機になりました」 そこから写真にハマり、コンセプチュアルアートに興味が湧き、暇さえあれば美術館やギャラリーに通ったのだそう。写真やアートの道に進みたいと思ったものの、「特殊な業界に30代半ばの未経験者が飛び込むのは無理に等しい……」と判断。その時に取り組んだのが「私は写真やアートの何が好きなんだろうと深掘りする」作業でした。
「この作品は面白いけど、あの作品は特に興味がないと感じる私の軸がある。それを深掘りしてみました。例えば、写真のような表面に見えるものにとらわれすぎると、大切なものが見えなくなると感じて、写真の何に面白さを感じているのだろうかと因数分解してみたんです。すると、私が惹かれるのは目に見えないことを顕在化させる仕組みだと気づきました。写真やアートはツールであって、そのツールを通して伝えたいものは何かを考えさせる仕組みを作りたかったんですね。だったら、そのツールは写真やアートではなく何でも代用できると思いました」
ピーナッツバターというツールを通して生み出す価値観
そんな時に出合ったのが、ネパール行きのきっかけとなったIoTサービスを提供するスタートアップ企業。転職した仲さんは、音を介するコミュニケーションツールを使って、ネパールの学校運営に寄付をする側と受ける側の思いをつなげ、寄付の仕組みを強化するプロジェクトを担当することに。 「寄付をする側にとってはお金以上に自分の思いが届いているかが重要で、寄付される子どもたちも与えられた環境でモチベーションを持って勉強できるかが重要。IoTのプロダクトを使って両方の思いをつなげたいと考えているうちに、寄付がいらない仕組みを作れたらいいなと思うようになりました」 寄付を必要としない経済基盤を作るためにはどうしたらいいか。そこで仲さんが着目したのが、現地で昔から作られているピーナッツでした。品種改良されずにコタンで受け継がれた小粒なピーナッツを原料に、現地アシスタントを務める村の青年が工場長となり、面接で選ばれた8人の女性が作るピーナッツバター。トロッとした濃厚な味わいの奥に、ヒマラヤ岩塩とブラウンカルダモンが感じられる絶品で、日本でもファンが急増中です。
工場で働く女性たちはピーナッツバターが日本の消費者に喜んでもらえていることに幸せを感じ、日本の消費者はピーナッツバターが作られるネパールに関心を持つようになる。あるいは、工場の女性たちが人生の変化に喜びを感じているように消費者は感動を覚え、その消費者の応援に工場の女性たちはさらに力づけられる。仲さんは「ピーナッツバターはあくまでツール。ツールを通してどういう価値観を作るか、どういうつながりを作るか、どういうインパクトを作れるか、そこをいつも考えていますね」と話します。 表面的なものだけではなく、その奥には何が隠れているのかを深掘りする。面白いと感じることを因数分解し、最後には何が残るのか考えてみる。何か課題にぶつかった時には、こうした方法で自分と向き合ってみるという仲さんですが、この作業をするようになったのはホンマタカシ氏を通して写真の面白さを知ったことがきっかけでした。
「自分にとっての幸せが何かって、結局自分しか分からないこと」
「写真は真実を写しているように見えるからこそ、そうとは言い切れない側面があることを常に考える必要があると思います。それは写真の中だけではなく、世の中のすべてにおいて言えることで、確実なものなんて実はない。だからこそ表面に見える世界にとらわれるのではなく、自分で判断して価値を選ぶことが大切だと考えるようになりました。その時に重要なのは、自分自身に嘘をつかないことだと思うんです。ホンマさんはそれを写真というフィールドで実践している方だと思います」 自分の心と向き合い、耳を傾けた結果、少し前まで縁もゆかりもなかったネパールにピーナッツバター工場を建ててしまった仲さん。そのまっすぐでバイタリティあふれる生き方は、ネパールの女性たちに大きな刺激を与えているようです。 「彼女たちに言われたんです。『自分は女性に生まれ、読み書きもできず、家事や育児に専念する人生が変わるとは思っていなかった。でも、こんな山奥に日本からやってきた女性が言葉も分からないまま、工場を建ててしまった。それは自分にとってものすごく大きな驚きだったし、女性でもやろうと思えばできるんだって初めて思えた』って。それを聞いた時、私が女性であることが彼女たちの希望につながったのであれば『女性で良かった』って思いました(笑)」
もし生きづらさを感じることがあったら、自分が本当に面白く思うものは何なのか、大切にしたいことは何なのか、「深掘りしてみるといいと思います」と仲さんはアドバイスします。 「自分にとっての幸せが何かって、結局自分しか分からないこと。変なプライドや理想を外して、ごまかさずに向き合い、理解できた時にたぶん、道って拓かれていくんじゃないかと思います。幸せという価値観は本当に人それぞれ。自分が本当に求める幸せ以外の幸せも求めようとすると、いつまで経っても幸せにはなれないし、たとえ手に入れたところで幸せにはなれないんじゃないでしょうか」 自分だけのためよりも、周りの人も巻き込みながら、新たな価値を生み出す仕組み作りに面白さを感じる仲さん。「生産者と消費者が互いに幸せを与え合うあり方、今までの消費スタイルの概念とはまったく違う仕組みが生まれたらいいなと思って、妄想だけはどんどん膨らむんですよ(笑)」。この先、仲さんが拓いていく道からも目が離せません。 ◇仲琴舞貴(なか・ことぶき) 家業の美容室の経営や、コンビニのリサーチ職などを経て、IoTサービスを提供するスタートアップ企業に転職したことをきっかけに、ネパールの東部に位置する村・コタンを訪問。現地の様子に触れ、一念発起してピーナッツバター工場を建設。現在は株式会社SANCHAI代表として、工場で村の女性たちを雇用し、特産の品種未改良ピーナッツを使ったピーナッツバターを製造・販売している。
Hint-Pot編集部・佐藤直子
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