Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/fbc4ac7d4243e2659096d3fe6c907fd6e82816d6
新型コロナウイルスのワクチンは、日本に在住する外国人も希望すれば日本人と同じように接種できる。しかし、自治体が配布する接種券や予診票は多くが日本語で書かれていて、しかも難しい漢字も多いことが壁となっているらしく、なかなかすすんでいない。288万7116人いる在留外国人(2020年末、出入国在留管理庁調べ)は、コロナ禍の日本をどうやって生き延びているのか。ライターの森鷹久氏が、緊急事態宣言下にあえて通常営業していたナイトクラブに彼らが集っていた理由を探った。 【写真】外国人技能実習生が搾取される構造
* * * 「ずっと営業していたよ。もう見回りも来ないし、我々だって大変なことを警察も知っている。もちろん消毒はしっかりやっているよ」 秋の気配が感じられるようになった、ある日の深夜、東京・六本木の雑居ビルにあるナイトクラブに、マスク姿の男女が何人も吸い込まれていく。よくみると、日本人より浅黒い男性の姿が目立ち、そのほとんどが外国人であることが窺えるが、日本人客もいるようだ。来日10年以上という店のオーナー・サムエルさん(仮名・50代)は、コロナ禍以降は営業を自粛していたが、今年5月からは通常営業に踏み切った。もちろん酒の提供も通常通りだ。 「私はブラジル(出身)ですから、もともとはブラジルの人(客)が多かったですね。今は色々(な国の人が来る)。日本人の方が少ないけど、外国人はSNSでコミュニティがあるので、そこを通じて人が来る。たくさんきますよ」(サムエルさん) サムエルさんのクラブで行われていたのは、多国籍のエスニックミュージックをメインにしたダンスパーティーで、この日もブラジル人やネパール人、それにフランス人やドイツ人もいるようだった。五輪の関係者も来ていたという。 「友達だからこっそり呼ぶ。みんな(コロナの)検査もしているし、体温計も準備している。万全の体制だから、みんな安心して遊んでいる」(サムエルさん)
日本は私に帰って欲しいだろうけど、どうすることもできない
筆者の問いかけになんら悪びれる様子を見せないどころか、万全の対策をとっていると自信すら見せるサムエルさんだが、訪れている客はそうでもないらしい。新たにやってきたネパール系の男女(20代と思われる)は、筆者が声をかけた瞬間、怪訝そうにこう言い放った。 「コロナで大変な外国人をいじめないで。仕事もないし、国にも帰られないし、たまにリフレッシュしているだけ。取材したものがニュースになるなら、名前や顔写真は使わないで」(ネパール系の男性) この男性、筆者の取材が「外国人を排斥する」目的だと思ったのだろう。だが、取材意図を伝えると、日本政府と、彼らを取り巻く環境についての怨嗟が、堰を切ったかのように飛び出した。男性は、新宿区内で飲食店を営んでいるという。 「去年の夏、お店を閉めたらお金(時短営業実施に対する補助金)が貰えましたが、そのあとは全然貰えない。仕事が無くなった仲間がたくさんいて、デリバリーのアルバイトに雇っているが、オーダーがないから何もすることがない。もうこれ以上悪くなることはないくらい最悪で、気分転換にクラブに来ている。お金は全然ないよ。日本でも仕事がない、国に帰られたとしても仕事はない。日本は私に帰って欲しいだろうけど、どうすることもできない」(ネパール系の男性) 男性は、さまざまな支援を頼ったり、福祉系の窓口を訪れては給付金の類を利用できないか確認したが、外国人である、という事実がそれらを難しくしていると話す。
「日本語できるけど、私の見た目が外国人だから、ウソを言っているのではないかと疑われる。コロナ前はみんな優しかったのに、今は厳しい。日本もネパールも助けてくれません」(ネパール系の男性)
店に来ているのは、ギリギリで犯罪だけはしたくない人
都内でも庶民が住む下町のイメージが強い足立区内のナイトクラブにも、やはり外国人が集まっていた。同店で店長を務めるジェイクさん(仮名・40代)が、客の窮状を訴える。 「休業補償金も遅れていますよ。ここに来る外国人はみんな商売をしているから、同じような悩みを持っていて、ここに来てお酒飲んで踊って、悩みを打ち明け合う。違法な営業? そうかもしれませんが、誰かを不幸にしているわけではない」(ジェイクさん) ジェイクさんは来日15年以上のフィリピン系。英語や日本語だけでなく、スペイン語も話せるため、ジェイクさんを頼ってコロナに困った在日外国人がやってくるのだという。 「お店が闇営業をしているという指摘はその通り。でも、困った人を日本が助けないから、みんなやってくる。いい仕事はないか、極端な話だと、犯罪でもいいから金になることをしたい、という人も来ます。みんなただ単に遊びに来て、お酒を飲んで踊っているわけじゃない。ここにしか居場所がないし、相談できる人がいないから。なんでこの声が届かないのか」(ジェイクさん) 犯罪でもなんでもいいから、当面の生活費が欲しい、という切実な思いを持った客たちに対して、ジェイクさんは次のように説き伏せてきたというが、もはや限界も近いと漏らす。 「みんな仕事(多くは技能実習生)で来て、コロナで仕事が無くなって、寮から逃げ出したりしている。前は、逃げた人にもちゃんとした仕事があったが、今はない。変な仕事しかない。携帯を買って人に売るとか。でもそれをやると日本には2度と来られない、お店にも来られなくなるよと説明していました。でも、もう日本なんかどうでもいいし、国に帰るよりもお金が欲しい、そういう人が増えている。いつ、逮捕されるか心配。みんな早くお金が欲しいんです」(ジェイクさん) 厚生労働省などのサイトをみる限り、コロナ禍に喘ぐ在日外国人の生活を保障するための政策は手厚いようにも思える。しかし、飲食店等への休業補償金と同様に、審査になかなか通らなかったり、給付が決定してから入金までに間が開くなどして、在日外国人たちは、必要なものも切り詰めて暮らさざるを得なくなっている。日本へ技能実習生としてやってきた人には、禁止されても現実には存在するブローカーに借金をしてまで大金を支払い、夢や希望に胸を膨らませて来日した者も多い。だが、思い描いていたのとは大きく違う日本での様々なことに打ちのめされ、とくにコロナ禍を「知らない国」かつ「優しくない国」で過ごし、絶望の中を彷徨い続けている。追い込まれた先にあるのは、やはり「犯罪に走ってしまうこと」だ。 「店に来ているのは、なんとかギリギリ、犯罪だけはしたくないっていう人。みんなで話し合って、辛いけど頑張ろうと言えている人。お店に来なくなったと思ったら、お金のために悪いことして捕まった、という昔のお客もいる。悪いことはよくないけど、悪いことをしないとダメというくらいになった人たちを、なぜ助けてくれないのか」(ジェイクさん)
外国人とか、リッチじゃない日本人はやることも行く場所もない
よく聞かれた「グローバリズム」や「国際化」などといったキーワードも、昨今では、ほとんど注目を浴びなくなった。日本へやってくる外国人は日本に金を落とす存在として、また、人手が足りない業界を支える人材として歓迎されてきたはずだが、現在、彼らが感じているのは、日本から「用済み」のレッテルを貼られている、ということだ。
「コロナが終わったら、もう日本には住みたくないと思います。日本人は、あまり差別をする人たちじゃなかったけど、今回みたいなことになると、やっぱり差別を強く感じる。それに、店に来る日本人に聞いても、やっぱりみんな困っている。仕事もないし、遊びにも行けないし、いくところがないからお店に来ると言います。リッチな日本人は仕事もお金もあって、外国人とか、リッチじゃない日本人はやることも行く場所もないんですよ」(ジェイクさん) 仕事のない外国人はぜひ帰国して欲しいし、万一感染などして、日本人が支払った税金で医療を受けないで欲しい、そんな思いを胸のうちに止めるのではなく、ネットでもリアルでも表に出す人たちがいる。そこまで極端ではなくとも、日本政府には外国人よりも日本人を助けて欲しい、という本音を持つ人々も少なくない。ならば外国人が日本から出て行けば全て解決するのかといえば、物事はそんなに単純ではない。目立っているのは外国人だが、困り果てた日本人も少なくないのが現実だ。 もし、外国人が目立たなくなったら、次は追い詰められた日本人たちが「だらしがない」などとレッテル貼りされ、やはり卑下されたり、排斥の対象になるのではないか。コロナによってあぶり出されている問題は、日本人だとか外国人だとかいうことに原因があるのではない。彼らが苦しい状況に陥っているのは、社会の歪みを引き受けさせられている側面がある。それなのに、貧しい人、弱い人に対し、日本社会がいかに冷酷か、が明るみに出ているのだ。 また、是非は抜きにした現実問題として、コロナ禍においても労働力不足は解決されないままだ。日常が戻ってくる未来には、観光や飲食、農業など主に外国人の働き手不足により業界が窮地に追い込まれるのは間違いないだろう。 ワクチン接種も進み、いよいよ「アフターコロナ」の世界が現実味を帯びてきた今日。以前と変わらない生活を望むのであれば、今まさに困窮している人々に想いを馳せ、解決できる仕組みを整えなければ社会は不安定になる一方だ。それでは、いつまで経っても日常は取り戻せない。
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