Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/8f6624c32c2d565071895df2933c584e18b173f9?page=2
配信、ヤフーニュースより
トラは13年間で約3倍に、2010年の「トラサミット」の目標を達成した唯一の国
ネパールが、トラ保護の首位を独走している。 7月29日、ネパールは絶滅危惧種であるトラが国内に355頭いることを確認したと発表した。2009年の推定数121頭から約3倍に増えたことになる。 ギャラリー:よみがえるインドのビッグ・キャット、黒いヒョウ、トラ 2010年にロシアで開かれた世界トラ保護会議「トラサミット」では、野生のトラが生息する13カ国すべてが頭数を倍に増やす目標に合意した。ネパールだけがこれを達成した。 成功の主な要因は、トラの保護に「政府が自ら積極的に取り組む姿勢を示し」、厳しい密猟取り締まり政策を実施していることだと話すのは、野生ネコ科動物の保護団体「パンセラ」のトラ部副部長アビシェック・ハリハル氏だ。パンセラは、ネパール政府による最近のベンガルトラの生息頭数調査を支援している。 パンセラによると、20世紀初頭には10万頭を超すトラが地球を歩き回っていたが、生息地の消失によってその90%以上が失われたという。娯楽を目的に野生動物を狩猟する「トロフィーハンティング」や、毛皮や骨を狙った密猟も、トラを激減させる原因となった。 中国をはじめとするアジアの国には、伝統的にトラの骨を漬け込んだ酒を飲めば、この動物の強さが得られると信じる人がいる。現在、カンボジア、ラオス、ベトナム、中国南部には野生のトラはいない。 ネパールでは、トラの密猟には15年の禁錮刑と1万ドル(約130万円)の罰金が科されるとハリハル氏は説明する。 1970年代以降、ネパールでは5つの国立公園が設立されており、トラのほとんどがこの中で生活している。公園内は職員や軍の兵士が頻繁にパトロールする。トラの保護活動は、結果的にサイ、ゾウ、センザンコウなど、ほかの絶滅が危惧される動物の保護にも寄与することになった。 カメラトラップ(自動撮影装置)を利用するなど、確認方法の向上もネパールでトラの頭数が増えた一因ではあるが、実際の個体数や誕生数も増加しているとハリハル氏は言う。近年インドやブータン、タイでも生息数が増えているものの、「間違いなくネパールが他の国に先行して、トラを増やすという目標に近づいています」 ネパールの発表に先立つ7月初旬、絶滅危惧動物種の状況に関する国際的権威である国際自然保護連合(IUCN)は、全世界のトラの個体群が「安定または増加している」と発表した。最新の集計は、野生のトラの数が3726頭から5578頭の間であることを示している。2015年の推定数から40%の増加だ。ただし、その多くが実数の増加ではなく、モニタリング方法の向上に起因するものだとIUCNは注意を促す。 一方で、ネパールのトラ保全計画には犠牲も伴った。トラの増加に注力することは、地域社会の安全と相いれないと述べる評論家もいる。近年、トラの生息地の近くに住む人びとが襲われたり、家畜が捕食されたりする事例が増え、生活が脅かされているのだ。政府機関や自然保護論者らは「このような住民の安全を守る方法について十分に考えてこなかった」と、ネパールの首都カトマンズを拠点とする非営利の自然保護団体「グリーンフッド・ネパール」の理事であるクマール・ポウデル氏は指摘する。 「トラが増えるのは喜ばしいことですが、その保護の犠牲を考えると大変心が痛みます」
トラに襲われる事件の増加
ネパールの自然環境保全ナショナルトラストの生物学者、バブ・ラム・ラミチャネ氏によれば、2021年7月から2022年7月の間にネパール、チトワン国立公園では16人がトラに殺された。それ以前の5年間の死亡事故件数は10件だった。 2022年6月に、最大のトラ生息域のひとつに近いバルディア郡に住む41歳の女性が、薪を集めているときにトラに襲われてけがを負った。ネパールの新聞カトマンズ・ポスト紙によると、この事件に怒った地元の住人らは野生動物からの保護の強化を要求して主要道路を封鎖した。この抗議者らを追い散らそうと治安部隊が催涙ガス弾を投入し、発砲した結果、複数の人がけがをし、1人が死亡した。 ラミチャネ氏らのグループは、人を傷つけたり殺したりするのは体に障害があるトラや縄張りのないトラが多いことに気づいた。困った動物が、簡単に捕れそうな獲物を狙ったのだ。トラの個体数密度が増えると、一部は生息地の端に縄張りを求めざるをえなくなり、人と出くわす可能性が高くなる。 このような動物の監視を強化し、時には安楽死を含めて適時に管理することで事故を減らせるだろうとラミチャネ氏は考える。人を襲ったことがあるトラを別の地域に移すことは解決にならないとも言う。ほかの場所で人に危害を加える可能性があるからだ。 国立公園の周辺で暮らす人びとの多くは、今も燃料にする木材など日々の生活に必要なものを森林から得ていると話すのは、世界自然保護基金(WWF)ネパールの野生生物プログラムを統括するカンチャン・タパ氏だ。政府や環境保全支援団体は、そのような人びとが生計を得るための代替手段を提供することに、もっと力を入れるべきだと訴える。 IUCNは最新の生息数を発表するとともに、全世界の保護区の拡張と相互の連結を促し、トラの生息地やその周辺にある地域社会との協力を進めるよう、各国に呼びかけた。 「主な問題は、人とトラの接触です」と話すポウデル氏。「政府は保全に伴う社会的費用と、それを本当の意味で私たちみんなが分担する方法について考える必要があります」
文=Dina Fine Maron/訳=山内百合子
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